18話 千里の道もチーマから
ユニムの目を見て、ほくそ笑むホワイトペッパー。
「いいか?俺は使い方を教えてやるって言ったんだぜ」
電気石をピストルのポーズで指差して、わかるよな?と、言わんばかりに、その手を皿のある頭に持っていった。
「どういう意味ですか?」
一連の様子を見ていたゼルドは、ホワイトペッパーと自分の電気石を見比べるが、意味がわからず、愚直な質問をする。
「そのまんまだ」
ゼルドはそこでピンと閃く。
どうやら何かに気づいたようだ。
「ちょっと待ってください」
ファングはいついかなる時も言っていた。
ゼルドはその呼び方を覚えていた。
『―――三叉槍殿………』
ホワイトペッパーの異名は三叉槍だ。
そこからも、異名で呼んでいることが伺えるが、なぜ「殿」をつけるのか。
まあ、彼なりの敬意の表れなのだろう。
ところで、ゼルドは、三叉槍に関して、気になることがあった。
それは、ファングと出くわした時。
三叉槍はどこから取り出しているのか?という点である。
何もない所から、物体を取り出すことはできない。
ということは、物体をしまう場所が必ずしも存在するはずだ。
だが、ホワイトペッパーはどうだろうか?
槍が入るほど、大きな鞄はどこにもないのだ。
よくよく見てみると、褌にいくつかの小さな鞄が見受けられるが、その鞄でさえも、電気石がなんとか入るほどの大きさしかなく、とても槍をしまっているとは思えない。
もし仮に槍に伸縮性があったとしても、先の尖った三本の先端は畳みようがないはずだ。
これ以上考えても、結論は出ないだろう。
そこで、ゼルドは結論を急ぐため。
ホワイトペッパーに訊くことにした。
「…ききたいことがあります!」
「三叉槍はどこにしまったのですか?」
待ってました。と言わんばかりに、ホワイトペッパーは、口角を上げる。
おかしな話である。彼の場合、嘴なのだ………ちなみに、口角とは上唇と下唇の接合部である。
そのため、ホワイトペッパーの場合は嘴角と言ってもいいのかもしれない。案じても造作のないことではある。そんな言葉などないのだから。
また、目尻が下がっているので、よほど嬉しかったのだろう。
「おう。いい質問だな。どこだと思う?」
「あの、ちょっといいですか?嫌な予感がするので、聞いておきますけど、わかったら『士正義のエイリル』に昇格とかやめてくださいね。既視感あったり、デジャブってつまらないじゃないですか?」
「何言ってやがる。ん?エイリル?ちょっと待て、もしかして階級は………」
「チーマですよ。それがどうかしたんですか?」
「・・・は?」
「なあ、ユニム。目標なんだったけか?」
「何度も言うが、海内女王になることだ」
「諦めろ。無理だ」
「わかりましたよ。このパターンはもう経験済みですからね。賢者ブルースカイ様もやったんですよそれ。やめたほうがいい。とかいいながら、僕達に勲章を渡すんですよ。やめろやめろ詐欺ですよ。本当に」
「いやーそのな、マジで」
「・・・はい?」
「そもそもな、『博愛級のセプト』とか、『界十戒のオクト』って、滅茶苦茶強いのな。
でもって、それを軽く超えてくる『天王子』は訳わかんねえのよ。なんだろうな。わかりやすく言うなら、次元が違う?って感じか?」
「そうだな。『天王子』はアルキメデス魔法学校で、魔術を覚えられるんだが、魔法があるのとないのじゃ。雲泥の差よ。まず勝てねえ」
「てなわけで、ユニム。無理だぜ」
一度、海内女王になると決めたからには、ここで諦めるわけにはいかない。
界十戒のオクトにすら、なっていないというのに。諦められるわけがない。
せめて、界十戒のオクトになりたい。
いや、天王子に!
いやいや、夢は大きく持たなければ、海内女王であろう。
ユニムは、自分に言い聞かせる。
たとえ、無理と言われようが、そこに信念がある限り、私は屈しないのだと。
若気の至りだろうが、一時の気の迷いだろうが、勘違いだろうが、なんだっていい。
私は、自分を信じるのだと。何度も心の中で唱える。
呪文のように。
羅列された数字を数えるように。
寝る前に、モフモフした動物を数える時のように・・・?
「無理じゃないのだ」
ザーッ、ザーッ、波の音が聞こえる。
金と金がぶつかっているのか、金属音も聞こえた。
ユニムが無理じゃないと言った瞬間に少しだけ風に煽られたような感覚を覚えたホワイトペッパー。
これは?この風は?なんなのだろうか?
やはり、この少女は、何かが違う。
相撲のときもそうだ。
自分を押し返す程の力………
ゴーレムのときもそうだ。
ゴーレムを溶かす程の熱………
そもそも、ゼルドの発言。
『氷結、浮遊も使えます』
ん?気になるのは、どこで、"魔術"を覚えた?チーマだろう?魔術の「ま」の字も知らない。
ましてや、エイリルでないが故に、武器の心得、騎士の振る舞いさえ知らない、あのチーマが、氷結だと?そんな馬鹿な。出鱈目だ。
いやいや、まてまて、この目で見たのだ。ゼルドの手から水が放たれたのを、魔術の存在を確かに感じたのだ。
この目で見て、この耳で聞いて、この口で会話をして、この手で、触れた―――
考えられるのは………既に、魔術を習得しているのではないか!?
何事なのだ。もっとはやく気づくべきだったか。
いいだろう。試す価値は大いにある。
三叉槍のホワイトペッパーとして………
「―――試してみるか。」
「電気石で『♯』を4回押してみろ」
「押したぞ」
「画面を見てみろよ。ユニム」
【形態】:刀剣
光り輝く刃が、電気石から伸びている。
これは一体………
「え!?なんですかそれ」
ゼルドが目を輝かせる。
「驚いたか?電気刀剣だぜ」
「魔力がなかったら、使えねえ」
「電気石の設計は師匠だからな」
「おっと、失礼。ここじゃ師匠はトライデンスな。ゴジョウは1回忘れてくれ」
「まあ、煌めく刃ってところじゃねえか?」
見た通り、電気石から電気で形成された刃が出ている。
まるで、雷を手にしているかのようだ。
「すごいのだ。これで、剣士なのだ」
剣士……電気石………とある記憶がユニムの中で、思い起こされた。
〜【ユニムの記憶】7年前〜
『よし、10本目だな』
そこには、懐かしきおじさんの姿があった。
『あれ、おじさん。斧がないのだ』
何かを懐にしまっているのは目で見ていた。
『ひひ、こいつがあるからな』
それは―――黒い長方形の石。
………電気石だ。
その時は、わからなかった。
今ならわかる。
今だからこそわかる。
間違いない。
電気石に違いない。
他に考えられない。
『聞いて驚くなよ。こいつで、ツルハシも作れるんだぞユニム』
『わたしもほしいのだ』
『7年後にはな』
ユニムが5歳の頃の記憶だ。
~そして【現在】に至る~
「白河童、私はツルハシが作りたいのだ!」
「ん?なんでだよ。ここ、海岸だぞ。スコップでも作ってろ」
「武器の作り方を教えてくれ」
「自分で考えろ」
「わからないから、訊いているのだ」
「魔術で作れるぞー」
「ふんー。魔術がわからないではないか。アルキメデス魔法学校に行きたいのだ」
「はやいな。天王子になってからだ。」
「千里の道も一歩からなのだ」
「狼も歩けば、棒に当たるではあるが………」
「河童の川流れじゃないですか?」
ゼルドが満面の笑みでホワイトペッパーの皿を見ている。
「なんだよ。なんかついてるか?あとよ、なんか言わなかったか?」
「いえ、なにも。」
ゼルドは、昼に見える十三夜月を見ていた。