17話 チャージ、チェンジ、電気石
「ゼルド殿、あの緋色の剣士ではないか?クロノスは現在の四権英雄であるぞ」
「そうですよね…」
ゼルドはクロノスについて、1人考えあぐねていた。
噂によれば、クロノスも黒い装飾品を身につけているらしい。
よって、こうは考えられないだろうか?
いつからか、ゼルドは黒い装飾品を身につけていた。それが何を意味するのか。
クロノスとアルジーヌは恋愛関係にあった―――
愛を育んでいくうちに一人の男の子が生まれた。
それが………だとすると、名前がおかしなことになる。
ゼルドは自分でも合点がいった。ゼルノス――?いや、アルノスと名付けられてもよかったのではないか?
それに対し、ぼくはどうだ?かすりもしていない。
それにだ、四権英雄と海内女王が、自分の両親な訳がない。そんな高貴な子供が奴隷にされるだろうか。実におかしな話である。
きっと、もっと、普通なのではないか?
なぜなら、自分が普通だから・・・ああ、もう考えるのはやめよう。
ユニムがポンと彼の肩に手を置く。
ゼルドはその因果により思い出した。
ひとつ、この少女によって、勲章が変わったこと。
ふたつ、銀の弾丸が手に張り付いたこと。
いつもそうだった。肩に手を触れていたんだと。
このやるせない気持ちも、その力で吹き飛ばしてほしい。ゼルドは心からそう思った。
「めそめそするな。男の子だろう」
―――別にめそめそしていた訳じゃない。くよくよもしていない。その笑顔を、且つ真剣な顔つきを見るだけで、心が浄化されていくように安らぐんですよ。
―――あなたは、ぼくにとって、女神のような存在なんです。
「はい」
ゼルドが気前よく変事をすると、ホワイトペッパーがニヤニヤしている。
ゼルドの行動がおかしかったのだろうか?
それとも、下世話な話でもするつもりだろうか。
「おふたりさんよ。電気石はもちろん持ってんだろうな?」
ゼルドが「あ」ではなく、「お」の表情をすると、何かを思いついたように、口から言葉を紡ぎ出す。
「気をつけてください。め………ユニム様」
「河童のカツアゲです」
「揚げるのは豚だけで十分です」
「成程。トンカツであるな。」
「解説いらないのだ」
「いや、待ってくださいよ。童カツ?いや、わらじかつですね」
「誰が上手いことを言えと言ったのだ。きいていないぞ」
「いやあ、照れますね。そんなに褒めないでくださいよ」
「褒めてない」
「………で、持ってんのか?」
「もちろん。ここに」
ゼルドは懐から、電気石を取りだす。
黒い光沢のある石。
外見は、黒曜石のそれだった。
「あるぞ」
ユニムはいつもの鞄から、奥の方にしまってあった電気石を取り出す。
奥から取り出したため、多少の時間が掛かった。ユニムの鞄には何が入っているのだろうか。
おそらく、育て親である、おじさんかおばさんからもらった品々だろう。
ある時は、ゼルドのためにパンを取り出したりもした。ゼルドはそのことを覚えているのだろうか。ユニムには、わからない。
その鞄は、皮でできているのか、丈夫そうだ。
留め具が青色でできているため、髪色と相重なって、見栄えがいい。
まあ、本人にはわかりもしないことなのだが・・・
「吾輩も持っている。
もしもの時、困るのである。
決して、人肉しか食べれないわけではないのだが、吾輩のこの面構え。
なにより、赤い瞳の人間はそういないのである。勘違いされることもよくあるものだ。」
「人肉がなければ、何とやらですね。」
「違うのだ」
「けっ、パンがなければ、ケーキを食べろってか?俺はきゅうりが食いてえよ。」
「じゃねえな、2人とも持ってんのな。いくら入ってる?」
「あ、そうですよね。金額については、言われてないんですよ。ブルースカイさんがいうには、プラチナ銀行でおろしてきなさいだとか?」
「一文無しってわけかよ」
「早起きは三文の徳ではないか。私は、毎日早起きしてるぞ。積もり積もって、千両になるのだ」
「御伽話かよ。まあ、いいぜ。とりあえず、いいこと教えてやるよ」
「電気石」
電気石には、表に合計で"12個の出力装置"が備わっている。
側面は、真っ黒であるが、黒曜石の断面のように、澄み渡るような黒色をしている。
例えるなら、瞳のような。そんな奥深さを感じられる。
縦長の平たい石なのであるが、用途としては、我々の世界で言うところの財布である。
「使い方」
数値を入力する。例えば、100円の買い物が行いたい時。1を一回と0を二回入力する。
私は、先程"12個の出力装置"があると言った。"12個"のうち、10個は、"0~9"である。
では、それ以外は?
「*」と「♯」である。
では、つづきだ。
相手に電気を渡したい時、「♯」を押し、先程と同様100と入力する。そうすれば、購入完了である。
逆に受け取る側は、「*」を入力すれば、受け取ることができる。
「使い方は知ってるよな?」
にんまりと笑うホワイトペッパー。
何か企んでいるのだろうか。
「そうかよ。じゃあ、『*』と『1994』を押してみろ。」
違和感に気づいたゼルド。
「その入力は誤りです。受け取るのに『*』を押すのに、1994ダイヤを誰から受け取るというのですか!
ホワイトペッパーさんが、電気石を操作しているようには見受けられませんが・・・」
「押したのだ」
「なにしてるんですかぁ。ユニムさまぁ」
彼女は、ゼルドの事などお構いなしである。
「裏面を見てみろ。何が映る?」
ひっくり返してみる。すると………
【連絡先】:ブルースカイ
ホワイトペッパー
「これはなんだ」
「もう、わかるよな?」
「どういうことなのだ」
「離れていても、俺と会話できるぜ」
ホワイトペッパーは、目をぎらつかせ、いかにも自慢げであるが、ユニムはこれといって魅力を感じなかった………