152話 水の魔人か、五将か
さて、何から話すか。
見当もつかないとはこのことだ。
目の前に、透明な水が人の形をして、立っているのだから。
信じられないだろう。
水が立っている。
水という言葉に皆さんは、聞き覚えはないだろうか。
……五水神将
……白き水神
私もその水をどう表現すべきか、わからない。
彼と言うべきなのか。
それとも、その人物と言うべきなのか。
もしくは、その水が……なのか。
右手には、長い槍を持ち。
槍は先端が三日月のようになっている。
左手には、水で形成された盾を持っている。
中心に球体をのぞかせている。
どちらも、権物に違いない。
なぜなら、アウエリオスの海戦にて、このような伝承があるのだ。
『……水の者、槍と盾を持ち、災害を招いた……』
槍に関してだが、大方推測ができる。
『月牙』に間違いない。
災害を招いた槍なのだから、あの白胡椒〈ホワイトペッパー〉が喉から手が出るほど欲しかったそれに違いない。
ところで、シンは緋色の剣士ネカァを敬っている。
だから、わざわざ妹に会いに行ったのだ。
全てを確かめるために。
彼は、妹から確信を得たのだ。
名前に反して、ネカァという人物は日本人である、と。
獄帝ネカァの使う力をここにて紹介しておく。
その名を『獄炎』という。
全てを焼き尽くす灼熱の地獄の炎である。
黒炎が黒ならば、獄炎は紫だ。
地獄の炎なのか。
それとも、天獄の炎なのか。
誰にもわからない。
わからないからこそ、面白い。
あの、緋色の剣士に訊いてみたいものだ。
まあ、『会えるのなら』の話であるが……
「獄炎」
シンの声が轟く。
セレストは辺り一面を氷で覆う。
ユニムと自身の前に瞬時に氷の壁を形成して見せた。
彼の本気度合いが伝わってきた。
彼は本気だ。
あの、蒼海球もろとも、焼き尽くそうとしている。
ありえない。
そのありえないが、ありえるのだ。
人の形をしていた水。
五水神将が姿を見せた。
これが何を意味するのかを私達は知らない。
何もできない。
水を操る力。
アウエリオスの海戦で猛威を振るった。
爆発的な推進力。
もう、誰にも止められない。
ゴジョウは、何も言わずにシンと向き合う。
『懐かしい』
と聞こえた気がした。
その時だった。
全てが無に帰る。
現れたのは、水の龍であった。
龍は、シンと同等の威力を放つ水を放出する。
互いに打ち消し合う。
お互いに譲らない。
ユニムは、その光景を見て、虚を突くように一言添えるのだった。
「河童を知っているか」
五水神将の動きがピタリと止まる。
鏡面のようなその顔で、こちらを向く。
ゆっくりとこちらへ向かってくるのだけはわかった。
シンが背後から、あらゆる炎の魔術を試してみるが、何事もなかったかのようにその水の魔人と思わしき姿をした。
五水神将はこちらに向かってくる。
ここで、補足を付け足すとするならば、三明賢者は、賢者の中でも上の位に位置する。
時に彼らをすべてを極めしもの、到達者と言ったり、底がない者、果てなき者と呼んだりするのだが、俗称として、『仙人』という呼称がある。
とはいえ、呼称は呼称でしかなく、白胡椒〈ホワイトペッパー〉ではないことは、皆さんが周知の事実である。
いつの日か思った。
セレストは、いつか三明賢者こと仙人達と話がしたいと思っていたものだ。
仙人達はありえないほど長寿であり、死神と契約を交わしたのではないか。と言われるほどだ。
死神が存在するのかさえ、疑わしいが、悪魔が存在することは証明されている。
そして、今ここに魔王シン対水神ゴジョウの決戦の火蓋がきられた。
セレストは、いくつかの予測を立てた。
まさか、『天王子』相手にあれは使うまい。
と思っていたが、エウレカの様子がどこかおかしかった。
「どういうことなのだ」
その危機をユニムは察知していた。
間違いなかった。
五つのシルエットがエウレカの裏から現れたのだ。
その姿、瀾将、淙将、霖将、凌将、颶将に間違いなかった。
シンは焦らなかったが、ユニムはゆっくりと氷の壁から顔を出した。
化け物のような出で立ちの赤い目を持つ生き物が宙に浮いている。
そして、水の魔人ゴジョウは、何かを唱えていた。
さて、魔王シンはどう出るのか……
※五水神将については……
【105話 破天衝】
に明記してあります。
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