151話 蒼海球のエウレカ
――EUREKA-我、発見せり――
辺り一面真っ白な地面なのか雲かわからない場所に、足を踏み入れたユニム達。
考えるべきは、こここそが樹空海なのか?
という点である。
なんというべきなのか。
なんと比喩したらいいのか。
なんと形容したらいいのか。
言葉は喉の奥でつっかえて、魚の骨のようにこしょばゆい。
その覆髄のような、歯痒い痛みのような疑問を持ちながら、大きな黒い影だけが、ユニム達を覆っていたそうだ。
重力が弱く、紅い月〈ブラッドムーン〉が近い。
ここは、巨大すぎる巨大樹の上なのだから、酸素濃度が薄い。
セレストが、空気の層を作り、ユニムとシンに渡そうとする。
シンは断り、セレストは残念そうに酸素でできた層を断ち切る。
上空を見渡せば
青い球体がひっそりと佇んでいる。
まるで、ユニム達を見下ろすかのよう
私達の観点からすれば、それは青い星。
地球とも捉えられなくはないが、地球と比較しても、かなり小さい。
下手すると、月よりも小さいのではないか。と、疑問を残させながら、ユニム達の首は、伸び切っていた。
「ついたようじゃな。
説明は……」
「俺が説明する。
あれが樹空海〝ジュクウカイ〟だ。
『“樹”よりも高い“空”の上の“海”』と書く」
「その昔、賢者クウカイがこの地を見つけたとき
この場所を気に入り
名を授かったそうだ。
あの❝神聖な国『梵』❞の通り道でもあるそうだ」
足元は、ゴムのようになっており
力を込めると、沈んでいく。
まるで、餅のようだった。
オルダインの漆黒の森〈ジェットブラックフォレスト〉の上は
長年、謎に包まれてきた。
別の世界に繋がっているのではないか?
大きな鳥や龍が住んでいるのではないか?
しかし、どの予想をも大きく裏切る答えは、樹の上の空に海が存在するという……あまりにも、虚言じみた事実だった。
みなさんは、知っているだろうか?
アルキメデスという男を
彼は、我々の世界でも有名であるが、こちらの世界。
つまるところ――セレスティアル――に訪れており、それがいつなのか。
時代錯誤はあったのか。
暦は同じなのか。といったさまざまな疑問を残しながら、一世一代の大役、魔法学校の建設を、行ってみせた。
後に、その賢者アルキメデスにより
この地が発見された。
その歴史は古く
2226年前まで遡る。
三明賢者たちは
この樹の雲の上の地、または海か?
空海またの名を雲海に
球体を作ったとされている。
そのひとつが
『蒼海球のエウレカ』
に違いない。
あの、五水神将こと〝ゴジョウ〟により
創られた。
名付け親はあのアルキメデス
彼の放った一言を
ゴジョウが気に入り
“エウレカ”にしたという。
――見渡す限り地平線。
まるで、真っ白の綿あめの上を歩いている気分にさせられる。
雲の上には
白い木が生えている。
水蒸気が幹となり
葉が雲となっている。
とても幻想的だ。
燦々と太陽が輝くなか
三人は上を見上げる。
三キロ程歩いただろうか。
あの『蒼海球』が覗いている。
泡のようであるが
深海をとどめたようなその姿は圧巻だった。
見るものを皆、虜にする。
ユニムの視線からも
蒼い球体をおがむことができた。
おそらく『蒼海球』に違いない。
実はこの――セレスティアル――には
月が二つ以上あるとされる。
そのひとつが間違いなく『蒼海球』であり
『水無月』とも呼ばれる。
ミえナいツキ
もしくは『水の月』という意味合いが込められているのだとか。
突然だった。
――雨が降ってきた。
遠くからではわからなかったが
近くでみると『蒼海球』はゆっくりと回転していたのだ。
その水しぶきが滞りなく、降り注いでいる。
だが、ユニムには当たらない。
あれからというもの
彼女は、空気の微細な流れに着目した。
ある時は、煙で着色し
またある時は、水中で可視化する。
その動作を何百回と繰り返し
文字通りの空気を読む
ではなく
空気を操る魔法を体得していた。
以前は、無意識化で行っていたというのだから
『天王子』がどれだけ怪物じみているか
よく伝わってくる。
シンとセレストも、空気を操れる。
自然学における空気の扱いには
様々な応用がある。
空気を圧縮したり
空気を分解したり
空気で層を作ったり
浮遊魔法もお手の物。
シンが飛んだ。
物凄いスピードだ。
一瞬にして、着水。
と、思いきや
ゆっくり降りてくる。
水の塊と一緒だ。
水質を調べるためのサンプルだろうか?
違う。
――それは、人の形をしていた水だった。




