15話 シルバーゴーレム達の歯噛み
ゼルドは不思議そうに首を傾げる。
「ユニム様。不可解ですよ。誠に不可解です」
その言葉にユニムは眉根を寄せる。
「そんな言葉知らないのだ。ゼルドは12歳じゃないのだ」
ゼルドは、驚いたような顔をしてから、ゆっくりと微笑むと、ユニムのその青い瞳を見つめては、待ってましたと言わんばかりに、口を開く。
「ええ、実はそうなんです」
「なに」
「いや、商談ですよ」
「それも知らないのだ。冗談なのだ」
「そんなことより、僕思ったことがあるんです。
「あの、ブルースカイ様の発言から・・・」
「まず、なにも”か”うな。と言ってたじゃないですか?
「それはつまり、この赤狼と白河童を”飼”うなってことだったんですよ。
「ああ、どうしましょ。ユニムさまぁ」
「何を言っているのだ。人語を話すではないか」
「質問です。ユニム様。河童と、赤狼は、どうやって数えるんですか?」
「匹だ!」
「正解です。人じゃないんですよ。ぼくたち飼ってるんです。あぁ、どうしましょう」
「なあ、あのよ。寸劇はその辺に・・・」
「次にですよ。ブルースカイ様の発言その2です!。」
「階級試験は”すでに始まっておる”なのですよ」
「ああ、どうしましょ。ユニムさまぁ」
「んー。どういうことなのだ」
「あれ・・・わかりますか?」
「わからないのだ」
「この二匹は監督員でもあるんです」
「ああ、どうしましょ。ユニムさまぁ」
「そうなのか」
そんな訳がないのだが、ユニムは世の中の八割は信じるようにしている。
残りの二割は、疑う。
「つまりですよ。ぼくは、まんまと引っかかったんです」
「んで、どうなんの?」
ホワイトペッパーが訊く。
「あれ?なんか変じゃないですか?」
「頼むぞ白河童。私は、海内女王になりたいのだ」
「海内女王か。そうだったな。そういや、言ってたな。あと、監督員じゃねえよ。てかよ、これ、どうやった?」
銀の弾丸が宙に浮いているように見える。
横向きになったゼルドの掌にくっついている。
「それが………ピクリとも動かないんです。」
「ああ、ゼルドがやったのな」
「どうやったらこうなるよ」
ゼルドは掌を地面と平行にした。
銀の弾丸は掌に張り付いているのだ。
本当に銀の弾丸は動かないのか?
「わかりました」
「ユニム様、ぼくの肩から手をはなしてください」
ユニムが手をはなす。
すると・・・
コロンと落ちてきた。
「磁石みてえだな」
「あ。新聞で……」
「わかった。わかった」
~シルバーバレーにて~
『とうちゃ、どこイるだ?』
ガタ、ゴト
銅の瓦礫から、何かの音がする。
かつて、ユニムが倒したブロンズゴーレムの地で、銅が勝手に動いているように見えた。見間違いではないだろう。
そして、それは姿を現した。一匹ともう一匹。確かにそこにいたのだ。
正確には、匹ではなく、二体の銀色の小さなゴーレムが、せっせと銅をどかしていた。
彼らは、銅が何かわからずに、また同時に何かを探しているようだった。
すると、その最中、緑青色の六つの瞳が銅の瓦礫の下敷きとなって、チラリと覗かせているではないか。
『とうちゃ、とうちゃ、うわああああん』
『とうちゃ、喋らなイ』
『とうちゃ、寝てイる』
『とうちゃ、たおれてイる!』
『うう、とうちゃ、たおしたやつ。どこイった』
『足跡ある。こっちイった。』
あさぎ色の瞳のゴーレムは、顔に三つの半球があり、その半球が、対称かつ均等に、三角形を描いている。
向きは、片方が、逆三角形。もう片方は、正三角形。
彼らは、ゴーレムなのだろうか?
そんなことは、つゆ知らず。
ユニム達は、銀の弾丸に気をとられていた。
「ユニム様。ぼくが説明しましょう!磁石というものはですね…」
「とりあえず…これは俺が預かっとく」
「え。ほからないんですか?」
「ん?どうしてそう思った?よし、い………」
「いや、なんでもないです。」
「行くぞ」
「ユニム殿、そこは三叉槍殿が・・・」
「よいではないか」
「そ、そうであるな・・・」
「ひとつ、話しておく必要がある。よく聞けよ」
「なんですか?」
「なん」
「セソ教だ」
「誰が考えたんですが、安直すぎます。"さしすせそ"の"せそ"から、とったんですよね」
「あのよぉ」
~【スーペリア】にて~
賢者ブルースカイは、スーペリアを訪れていた。とある人物に会うためだ。
何を隠そう、その人物とは四権英雄であり、元四権英雄のブルースカイからすれば、後輩のようなもの。
ブルースカイは、その異名故に何かを伝えるのか。それとも全く別の用があるのか。
「・・・誰だ?」
「わしじゃ。わしじゃよ。ブルースカイじゃ。」
「知らんな。セレストなら知っているが。」
「相変わらず嫌味な奴じゃ。お主は。
ところで、ちょっと鍛えてやってくれんかの。今はチーマじゃが、いずれ………」
「断る。」
「オルダインと、エンシェント出身のあの子らを…わしは、育てたいんじゃ。2人共、親の顔を知らんくての。」
「・・・そうか。こちらにとって関係のない話だ。」
「続けるでの。1人はその………もう1人は奴隷じゃ。」
「・・・失うものが何もないから奴隷は強い」
「じゃが、今は仲間がおるでの。」
「・・・知ってるだろ。多くを失った。そこにあるのは"クロノス"という独り歩きした名前だけだ。何が英雄だ。煩わしい。」
「クロノスよ。ええか。自分の価値は………」
「他人が決めるものじゃない………か。
つまりだ、自分で決めると言いたのか。なるほど、カイシュウか。」
クロノスの頭に浮かぶのは奴隷の2文字。気になる点でもあったのだろうか………?
「いいだろう。任せろ」
「頼んだぞい」
「ひとつ頼みがある」
「なんじゃ?」
「待つのが嫌いでな」
「―――と」
「"リョウマ"に伝えてくれないか?」
「仕方ないのう。電気石でええじゃろ。」
「電気石か。なるほど」
「その子たちにも連絡先は伝えてあるのか?」
「賢いからのう。わかるじゃろ」
「・・・そうか」
黒いマントを靡かせ、踵を返すクロノス。
「頼んだぞい。クロノスや」
「名前嫌いはお互い様か」
「そうじゃな。」
「・・・おう。任せとけ。」