148話 アルキメデスガールズ・トーク
――Classified-言えないのだ――
食堂に居合わせるは、六人と一匹。
リーダーのアリスが「ここにしよ~」と大テーブルを選び、六人で取り囲んだ。
ユニムは緊張していた。
なぜならば、女子会というものを農民故に知らないからだ。
会を開き、菓子や紅茶を嗜むなど……貴族のそれ。
恐れ多いのか。
実力者である五人と一匹を前にして、手が震える。
ティーカップの中の紅茶が、波打っているのがわかった。
『どうしたらいいのだ……』
ユニムは、考えてしまった。
半泣きになっている。
少し前から、疑問には思っていたようで、どうやって伝わらないように考えているのか。
見兼ねた『ヒマリ』が、そっとユニムの手を握る。
『考えなくていいからね』
ヒマリは、思考電波〈テレパシー〉を多用する。
何か訳があるのだろう。
微弱な電波が流れ、その電波が脳に届く。
すると『ヒマリ』の声が続けて頭に入り込んでくる。
『ここが思考の範囲だよ。
上に考えがあって、下に思いがあるの
思いは伝わるけど
考えは伝わらないよ?』
試しにやってみると……
――こういうことなのか?
と、考えてみるが……ヒマリは返事をしない。
顔が綻んでいるが、聞こえてはいないだろう。
きっと、気のせいだ。
「で、ゾルタンどうなったし?」
「今、ネゼちゃんと交際してるしー」
「私は、平気なんですけど……」
「なんだし」
「ゾルさん、忙しくて最近デートとか行けてなくて……」
「それは非常事態だよ。
非常事態宣言発令しますか~」
「結構だし」
ヒマリはベルを撫でている。
「で、ユニムちゃんは好きな人おるし?」
「いないのだ」
「ふっふ、それは嘘だし
ほっぺた赤くなっとるし」
「だれだれ~?」
『たぶんね……』
皆が少し狼狽える。
ヒマリの思考電波〈テレパシー〉はクリアに聞こえるからだ。
『……シンくんじゃないかなぁ?』
「違うのだ」
「でも、確かにいつも目で追っていますよね」
「それは……赤が目立つのだ」
「なるほど、赤面ならぬ青面だし。ちし」
「上手いこと言えとはいっていないのだ」
レナは、ユニムが身につけている。
ネックレスにふと目をやる。
「それ……うちがあげたやつだし」
「ほんとぉ、わたちもシツジに渡したし」
「私は、リルちゃんにつけてる♪」
『リルちゃん? おいぬさん?』
「猫ちゃんだよ。可愛いの♪」
ユニムが身につけているアメジストコーラルのネックレスは
以前スジョン・クリスタに海内女王演武大会で、魅入られ。
彼女から「大事にするといい」と言われていた。
その出自が気になり、ユニムはさりげなく質問したが、声が大きい。
すると、『レナ』は「イェリエルからもらったし」と言った。
ユニムは、あまり「恋愛」について考えることはなく
ネゼロアがゾルこと本名をゾルタンと付き合っていると言われてもピンとこなかった。
『付き合うってどんな感じなのだ?』
「そうだなあ~」
「ち、違うのだ」
「ユニムちゃん可愛い」
『狙ったでしょ。もう』
『僕もそう思うのである』
「んん~違うのだ」
「ふーん」
ティタインが、誇らしげにユニムを高々と見据える。
ユニムが「なんなのだ」と一言添えると
「レナちゃんに紹介してもらうといいし」
「あーし、別に男遊びしてねーし」
レナの怒号がとぶ。
「失敬したし」
「ねえねえ、ユニムちゃん」
「どうしたのだ?」
「エクス君と仲いいの~?」
冷や汗をかいた。
初日にエクスに学校案内をしてもらったが、他からみればデートに見えなくもなかった。
ユニムは思考電波〈テレパシー〉が伝わらないように、器用に考える。
「あの白髪は、ゼルドに似ているだけなのだ」
皆が、ユニムを見つめる。
ゼルド?
それもそのはず、ユニムが他人を綽名ではなく
名前で呼ぶことは非常に珍しく
質問攻めにされた。
ユニムは厭々ながら、質問に答えていく。
俯いては、どこか悔しげだった。
ただでさえ、この五人の事も綽名で読んでいる。
例えば『天王子』なら……
名前『アリス』――綽名『エターニティ』
名前『ベル』――綽名『メラメラ』
名前『センチュリオン』――綽名『かたいの』
名前『ダヴィンチ』――綽名『もじゃもじゃ』
名前『エクス』――綽名『白髪』
名前『ゴッホ』――綽名『ひまわりの人』
名前『ヒマリ』――そもそも呼ばない
名前『コレ』――綽名『アニキ』
名前『ネゼロア』――綽名『毒林檎』『毒キノコ』
名前『レナ』――綽名『ギャル』『コウミョウ』
名前『ソレ』――綽名『セロ』
名前『ティタイン』――綽名『ディビジョン』
などなど……
彼女の呼びかけや、名前の付け方には何かしらの意味があるとか? ないとか?




