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147話 ぎこちないセリフ



――Two(トゥー) cents(センツ)-一言だけ言わせて――



「方向とは反対に、また方向は存在するのだ」



 その発言の真意とは?

 願ったのか、叶ったのか。

 一瞬の隙が生まれる。

 

 そして、ユニムは明後日にさよなら

 鳥居へと入ってしまった。


 すると……


 ユニムの判断がよかったのか。

 偶然の産物なのか。


 咄嗟に判断するには、数秒の時間を要した。


 何が起きている。

 頭で追いつくのに時間がかかった。


 あの尋常じゃない大きさをほこる空母が

 垂直になっている。


 海に突き刺さっているようだった。

 

 大地に突き刺さる剣を彷彿とさせる……



『騎士王の剣――』

 


 しまった……

 衝撃の余波から生まれた

 荒々しい波に体の自由を奪われては

 空母を見つめる。

 


『エシラ』をおいてきてしまったのだ。



 彼女は……彼女は何処にいる?


 どこにもいない。


 同じところを何度も視線で追うが

 黒や灰色が目立つばかりだ。



 あの美しい白い髪は……



 異色の雰囲気を放つ

 黒い球体が、空母の先端でエシラを(おお)っているらしかった。

 咄嗟に、『あの中にいたのだな』と、理解した。


 ここからでは、エシラの姿を確認できない。

 中で赤狼〈ブラッドウルフ〉に噛みつかれているかもしれない。

 想像を絶する痛みだろう。

 目をつむっては、エシラに謝る。


 今、どうすべきなのか。

 何をしたらいいのか。

 

 見ているだけなんて

 そのような(むご)いことはユニムにはできなかった。


 最適な判断をしなければ……


 そんなことを考えている内に

 時間だけが過ぎていく。

 時間だけは待ってくれない。


 ――そのはずだった。


 あの男の声が微かに聞こえた。


 空から何かが落ちてくる。


 まるで、時間が止まっているかのようだったそうだ。

 

 目の前にミサイルが降り注ぐと、爆発せずに空中で停止しているのだ。


 何が起きている?


 これが……エシラの力なのか?


 いや、違う。


 (あお)い『ハヤタカ』が抜刀(ばっとう)している。


 彼の能力なのでは?


 たとえ、時間が止まったのだとしても

 考えている暇はない。

 エシラを助けなければ……


 不思議な能力だった。


 ミサイルは空中にとどまっているのに

 ユニムは普通に動けてしまうからだ。


 

「何事なのだ」



 ユニムは、垂直の空母にしがみつく。

 あの偽物に一泡吹かせてやりたかった。


 指をさしては、宣言する。


 

「わたしがここにいる限り、貴様は恐れることしかできない」


「その無様な格好でか?

 くだらない……何ができる」


「『テレポーテーション』」



 胸に手を当てて

 エシラを思い浮かべた。

 ユニムとエシラが、瞬時に入れ替わる。


 

「な、何事だ……」


 

 エシラが動揺しているらしかった。 

 だが、瞬時に状況を理解したのか。


 エシラは、背中に担いでいた大きな盾を取り出す。


 

「ゼレストよ。覚悟しろ。

 長きにわたる(いくさ)もこれにて幕を閉じる」


「よせ」


(へん)()(ばん)(たん)



 ユニムの視界がぐらつく。

 赤狼〈ブラッドウルフ〉の喉の奥が見えたその時だった。




 あれ……夢でも見ているのだろうか。

 目の前にエシラがいる。

 入れ替わったはずなのに……


 だが、髪が黒い。

 白くなかった。



『エシラ……』



 何度も呼ぶが、返事がない。


 どうしたというのか。


 

「ユニムちゃん、それどうしたの?」



 先程と、口調が打って変わっている。


 誰……なのだ?



「大丈夫かユニム。気を失っていたぞ」


 ハヤタカが腕を引っ張り

 体を起こしてくれたそうだ



『変なにおいがする』



 その思考電波〈テレパシー〉は『シン』の声に違いなかった。


 ここは、“ルアキメデス魔法学校”のはず……


 こちらを覗いているのは『エシラ』に違いない。


 

「エシラ……」


「ん? アリスちゃんだよ~

 大丈夫かな?」



 アリス……


 記憶がよみがえる。

 永遠(エターニティ)のアリスに違いなかった。


 エシラはもういないのだろうか。

 ゼルドにそっくりな『ドルゼ』もいない。


 すぐそばに“赤い”ハヤタカがいる。



「なんだこれ?」


 ハヤタカが、ユニムの腕に手を添えて

 その物体に注目する。


 ユニムの小さな掌には

 何かが握られていた……



()(すい)ですね」


「……そうか」



 翡翠……

 先程のハヤタカの格好こそ翡翠の色に近しかった。


 だが、今は赤と黒の衣服を着ている。


 私は、夢でも見ていたのか。

 そう思っていたそうだ。

 彼女がそう発言するまでは……



「エシラかぁ……

 ミラクルミラージュ。

 なんちゃって?」



 あれ? 夢……



「さあ、授業は終わりだ

 休憩にするか」


 

「ねえねえ……」



 すぐ(そば)を見ると、アリスがしゃがみ込んで、ユニムの表情を伺っているようだ。


 ユニムが「どうしたのだ」と一声掛けると……



「一緒にご飯行かない? んふふ」



 アリスと一階の食堂に行くことになった。


 アリスが言うには、アルキメデス魔法学校の天王子には、男子禁制の

「天王子女子会」なるものがあるらしかった。



「構わないぞ」


「なーんか。男の子みたいだよ。

 ユニムちゃんは、端正(たんせい)な顔立ちしているんだから

『構わないわよ』の方がいいんじゃない?」


「私は……」


「なになに?」


「私は……一度決めた信念を、曲げたりはしないのだ」



 アリスが微笑み、ユニムの頬に手を添えたかと思えば

 ユニムと手を繋いで、壁伝(かべづた)いに食堂へ向かった。

 後ろに『ティタイン』『ヒマリ』『ベル』とつづく。


 懐かしき二人『レナ』『ネゼロア』もいる。

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