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146話 濠帝の“ゼレスト”?



――Twilight(トワイライト) Zone(ゾーン)-夢と現実の(はざ)()――




「この『狭間』の力ですべてを飲み込んでくれる。

 ふっはっは」


 

 空母の先端に仁王立ちしているその男を、ユニムは見逃せなかった。

 どこからどう見てもセレスト/ブルースカイだった……

 

 違う個所を探してるが、青い所が黒くなっているだけで

 鏡の世界は雑なつくりなのだ。

 と、一人思っていた。


 髪は黒く、瞳は黒く。

 着ている衣服のどこにも青は施されていない。

 

 まことしやかに謳われるドッペルゲンガーの存在を疑ったが……

 鏡の国「ミラージュ」であることを念頭に置き、忘れないように心掛けた。


 また、どうにもこうにも彼は敵であるため戦わなければならないのだが

 情報が一切わからない。



 『ゼレスト?』だと……


 『ふっはっは?』だと……



 気分はアリスの脳内で(もてあそ)ばれているかのようだった。


 なぜ、濁点がついている。

 そしてなぜ「ぶっはっは」ではないのだ?

 そこも濁点をつけるべきだろう。


 誠に()(かん)である。


 心優しき、あの青い髪のおじいさんとは別人だ。


 彼がブルースカイなのだから

 ブラックスカイとでも名乗っているのだろうか?


 それは幾ばくか安直すぎるというものだ。


 髪色から、少しだけだが若くも見えた。

 今にも「なんじゃと?」と

 どこからか聞こえてきそうである。

 

 少し考えては「あっちのほうがいい」と

 ユニムの心が、大音量で(うった)えている。


 もちろん、そんな軽はずみな発言。

 口には出さずに、胸にしまっておいた。


 言ってしまえば、相手を挑発しかねないからだ。

 そもそも「セレスト」を知っているかどうかさえ、定かではないが……



「鏡面世界」とは即ち

 アリスの心の内なのではないか?


 つまり、その人物における印象が具現化されたのではないだろうか。


 だから……あべこべで、可笑しく、辻褄が合わない

 納得しかなかった。


 なぜなら、人の抱える闇はいつだって

 トラウマに潜んでいるからだ。

 

 

「ほう、貴様スカーレットだなあ?」



 ゼレストが訊く。

 だが、違う。


 彼女は『ユニム』だ。


 そのかっこいい名前の女性は、ユニムに似ているらしかった。



「そのとおりだ」


 

 待ったはかけずに、(きょ)(せい)をはる。

 もし、虚勢大会なるものがあったのなら、ユニムことスカーレット?

 彼女は間違いなくチャンピオンだ。


 なったところで、何も嬉しくはないだろう……


 不敵な笑みを浮かべるゼレストが(にく)らしく。

 すぐにでも、かたをつけてしまおうと

 ユニムは一歩踏み出す。



 ――その時だった



「よせ」



 エシラがユニムの右肩をがっしりと(つか)む。

「放せ。放してくれ」とは、とてもじゃないが言えなかった。

 心の中でだけ、なんの(えん)(りょ)もなしにユニムは反発する。


 だが、彼女の真剣な眼差しはどこか光を帯びていた。

 彼女の綺麗な碧い瞳と目が合った。


 同性にも関わらず

『ドキッ』とする。


 一旦目線を外し、もう一度見上げる形で、彼女の美しい顔を拝んだ。

 


「スカーレットよ、気づかないのか?」


「どういうことだ?」


「すでに、範囲内だ」



 拍手が聞こえてくる。

 目尻は下がり

 口角は上がる。


 あの“男”が近づいてくるのがわかった。


 ゆっくり、ゆっくりと……


 恐怖を煽ってくる歩み

 怨念のような禍々しいオーラ

 悪を体現したかのような彼の威圧感が嫌悪感を助長させる。



「流石だ。ゼシラ。

 気づいたようだな。

 しかし、既に時計の針は進んでしまったな」


「ふっはっは」



 この憎たらしい笑みを殴ってやりたかったが、声も顔も同じなのだ。

 


――殴れないではないか



 それにしても、範囲内とは? 

 なんのことだろか?


 もしや……

 魔法が展開されているということなのか?

 

 突如として、視界が暗転する。



――あれ? 見えない



「スカーレット、意識を保て……」



 危うくユニムは失神するところだった。


 違う。

 暗転しているのではない。


 周りが暗闇で包まれている。


 うっすらと、目の前に背の高い建造物。


 これは――鳥居か?


 ユニムはその門を見て、すぐに鳥居だと判断できなかった。


 この世界に、仏教やキリスト教という言葉自体存在しない。


 宗教は、セソにより六百年以上前に併合されたという……


 神様はもちろん仏様という宗教観における特徴的な文化

 偶像崇拝という考え方は、非常に珍しい。


 この世界――セレスティアル――では“存在する者”を(まつ)るのが当然の行為だった。

 四皇獣〈フォーフォースエンペラー〉然り

 竜辰・龍辰〈リュウジン〉然り

 勇者と魔王などなど……


 彼らを創造主とする一種偏った思考を持つ宗教も珍しくないのだとか。



 それ故に、これが鳥居だとわからない。


 木製の鳥居がひっそりと佇んでいる。

 上から赤い液体が、(したた)り落ちている。


 何かはすぐにわかった。


 ――血液だ。


 なぜならば、鳥居の向こう側に無数の赤狼〈ブラッドウルフ〉がいるのが見えたからだ。


 どんな魔法なのか? 

 こんな魔術があるのか?


 と、考える暇も与えられず

 ユニムは、魔法を使おうとする。


 しかし、どうしたことだろうか?

 魔法が一切使えない。


 呪文を唱えようが、詠唱をしてみても用いることができない。


 つまり、これは“答え”ではく、“間違い”であるのか。



「何を焦っている。忘れたわけではないだろう」



 一体全体どいうことなのか。

 勝手に足が(すく)む。

 恐怖が逃げろと叫ぶ。

 この場から立ち去りたかった。


 でなければ……



 ――喰われてしまう



 それだけは嫌だった。

 生きて帰りたいではないか。

 こんな、訳のわからないあべこべ世界で……


 あべこべ?



『そういうことなのではないか?』



 ユニムは、鳥居へ向かって走った。


 

「スカーレット――」

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