145話 四権英雄 ECILA=ETIHW〝エシラ・エティーウ〟
――REVERSE VERSE-逆世界――
「さあ、行きましょうよ
エシラ様が待っていますよ」
エシラ?
聞いたことがない名前だった。
「Z=エシラ・エティーウ」
白を象徴する四権英雄であり、この国「ミラージュ」を統治している。
この国は、幻影の箱庭と称されるほど
現実と夢の境界であり
エシラの能力は「変化」である。
もし、彼女が――セレスティアル――に来ようものなら、現実改変をされてしまうだろう。
最強にして、最弱……
この世界。そして、この「蜃気楼〈ミラージュ〉」に幽閉されているのだ。
その名の通り、まごうことなき『Z』の一族であり
その顔は、永遠のアリスにそっくりだ。
アリスは陽気で明るいが、エシラは真逆だ。
白を象徴するのとは裏腹に、口が堅く暗い。
白日騎士とも呼ばれている。
髪は黒でなく、眉毛や睫毛、髪に至るまでその全てが白いという……
「何者だ」
「私は、ゼシラ。
またの名を、ゼタ=エシラ・エティーウだ」
ユニムはゼタの一族と初めて邂逅する。
そのため、ゼタ=○○と言われても「そうなのか」とピンとこない。
どちらかといえば「へえ、それで?」
と、つまらない返事をしてしまいそうであった。
彼女は、ドルゼから四権英雄という事はきいていたので、無礼のないよう振舞う。
社交はお手の物だ。
冷徹のエレナのおかげだろう。
「ところで……」と、口走りそうになるのをエシラが遮る。
「……あの空の怪物が見えるか?」
空高く舞い上がっているのは、深緑色の戦闘機。
ユニムは、飛行機を見たことがない。
生き物なんだろうか?
変わった鳥だ?
大きいな。
などと呑気なことを考えては
城から岸辺から彼方までに空母があった。
どうやら「ミラージュ」は侵攻を受けている。
「どうするのだ」とエシラに訊く。
彼女は伝える「共に戦おう」
「三人で何ができる?」と問いかける。
背後から声が聞こえる。
「私がいる」
その声は『ハヤタカ』のものに間違いない。
だが、主語がおかしい。
私?
あの義手の男はへばっても「俺」と言うはずだ。
これはおかしな事態だ。
髪も長く、後ろで束ねている。
まるで「サムライ」のように……
「魚雷だろうと、ミサイルだろうと斬ってみせる」
彼が手にしていたのは、ウルツァイトの刀だ。
加工は難しいはずだが、黒と橙に光輝いている。
風貌はまさしく「サムライ」のそれ
彼は重々しい甲冑を着ている。
ちらりと覗く義手が光沢を帯びている。
どれもが蒼い。
翡翠のようで、美しい宝石のようでもあった。
具体的には、緑と青を混ぜ合わせたような色をしている。
「エメラルドグリーン」という言葉が似あいそうだった。
「スカーレット、私の背後にいろ」
ユニムの心を邪見が通り去る。
スカーレットとは誰だ。
私は、ユニムだ。と、主張したかったが、この際名前などどうだっていい。
この幻想的な世界「ミラージュ」の侵攻を止めなければ
事態は一刻を争うのだ。
「正面は私が行く、忌まわしきゼレストよ。
この手で穿つまで……」
握り拳をつくり
その色白の手から白い光がいくつもの線を放っている。
美しくも儚い。
ただひとつの疑問を残して
ユニムの頭は、混乱状態だった。
聞き間違いではなければ
「ゼレスト」と言ったのではないだろうか。
あの「氷帝のセレスト」の間違いでは?
「ゆく」
「ユニム・スカーレット様、エシラ様の援護を……」
「わ、わかったのだ」