142話 鳳凰の左腕
――残火-Embers――
炎の魔法に関する説明が『ホムラ』から行われた。
ホムラは、水色に輝く刃を扱う炎の剣士である。
あの、緋色の剣士の異名を持つ、「獄帝・またの名を緋色の剣士ネカァ」とは、切っても切り離せない存在だ。
なにかしらの関係があるとみて、間違いないだろう。
次に『ハヤタカ』から、応用魔法についての説明のようだ。
ハヤタカの戦闘スタイルが、拳なら
ホムラは、剣
どちらも“ケン”なのだ。
炎の拳
火の剣
このふたつを扱うことからも、火炎のケン々
火炎の二人、火炎の戦士、火炎の二対と呼ばれている。
一歩前に出る『ハヤタカ』
彼の風貌や佇まいから
皆、焼き付くような視線で、見据える。
ハヤタカが手を真っ直ぐ上げたかと思えば、手を振っている。
「一番後ろ聞こえるか?」
ユニムが「聞こえるのだ」と、返事をする。
「いい声だなあ。エッセイ満点にしてやろうか」
ハヤタカが、撫でるように冗談交じりにユニムを取り繕う。
すると、鋭い視線が隣から飛び交う。
「ハヤタカさん……」
ホムラの眼差しが熱い。
衣服に穴が空きそうだ。
彼女は怒っているのか……
そっと、腰に携えた剣に手を置いている。
その状況を察知したハヤタカがにこやかに笑い飛ばしては
「なんでもない」と繰り返す。
ここは室内だが、まるで灼熱地獄の中にいるようだった。
どうやら聞くところによると『ホムラ』は怒らせると鬼のようなのだとか。
「はは……すまんホムラ」
「うふふ、笑い事ではないですよ」
「笑っているじゃないか」と言いたい気持ちを堪え、咳ばらいをひとつ。
「一身上の都合により、俺は右腕を失った。
原因は何だと思う?
いや、いい。答えなくていい」
その「答えなくていい」には含蓄が含まれていた。
やらなくていいと言われれば言われるほど、人とは行いたくなるものだ。
ハヤタカは、何気なく左手を掲げる。
黒と金色に輝く、合金でできた義手のようだった。
視線が釘付けになる。
天王子の生徒たちが手を挙げ始める。
「事故ですか?」
『自己中心的ですか?』
『ホムラ先生との関係は?』
「故意ですか?」
熱く、滾るような、真剣な野次が飛んでくる。
皆、瞳の奥に炎を宿しているかのようだった。
「全部大不正解だ。
事故だと? 故意だと?
俺が、電気弾丸自動車を扱うと思うか?
俺は、気の狂った芸術家でもなければ、科学者でもない……」
『では、なぜだ?』
「おい……『シン』だったな。
俺はこれでも教師だ。
師には敬語を使え」
『答えろ』
「――四皇獣を知っているか?」
小さい声だった。
囁くように言ってみせた。
ぞわぞわと耳の奥がこしょぐられているようだった。
緊張感で張り詰める。
先生たちや、三賢者でさえその話をする者はいない。
なにせ、その“獣”と呼ばれるそれに出会ったことがあるのは……
氷帝のセレスト/ブルースカイ
雷帝のゲルブ/トライデンス
林帝のヴェルデ/グリードグリーン
そして、この場において忘れてはならない。
獄帝のネカァ/またの名を緋色の剣士
勝利した。
もしくは、生きて帰った。
四皇の権物を手に入れたとされているのは
この四人だけなのであるからだ。
もちろん、その場は静まり返る。
魔王シンでさえ目を丸くする。
彼は、口には出さなかったものの「なんだと」と言っているようだった。
その「名前」を、誰もが一度は耳にする。
だが、その姿は一度も見たことがない。
「四皇獣」……この世界――セレスティアル――に存在するとされる。
四つの皇。
伝承や言い伝えから、獣ではないか? と噂されているが、その真相未だに不明。
東西南北の果てに存在し、何かを護っている。
彼の発言が意味するところはつまり、その四皇獣を知っている。
即ち、俺は知っている――会ったことがある。
とでもいいたいのではないだろうか。
「俺は挑んだのさ。もし、逃げなければ腕だけではすまなかっただろうに」
ハヤタカは、聞きたい人間は「授業が終わってから」と言い残し、本題に移る。
「では、質問だ。俺はどうやって助かったと思う?」
皆、首を捻る。
わからない様子だ。
「海内女王演武大会の優勝者は誰だ?」
視線がユニムに集中する。
ユニムは切羽詰まったが、必死に考えをめぐらす。
にやつくものや、噂をしている者。
なぜか楽譜を読んでいる者や、哲学書を読んでいる者もいたが
彼らを他所に、質問をぶつける。
「恐ろしく強いのだろう?
なら……なぜ、出くわした時点で逃げなかったのだ」
「逃げたんだ……それでこれだ」
ハヤタカが言うには、一瞬にして-死杯のヘル-に腕を持ってかれたという。
彼の義手は、黒と金色の金属でできており、炎の紋章が印象的だ。
炎の紋章は、炎帝の国の紋章であり、その国出身であることを仄めかしている。
ちなみに、無境国〈ノーバウンダリーズ〉には、紋章などの
国旗や国を示すものが存在しない。
そのため、“境”がないのだが……
炎の紋章は漢字の「火」を少しいじったようにも見えなくないので
ユニムは、おそらくハヤタカは炎の魔術師なのだろうと疑っていた。
正しくは『炎の剣闘士』よろしく『炎の魔導士』なのだが……
ハヤタカは、日によって、義手を交換している。
いくつか種類があり、空間係の移動魔法を用いて付け替えることも可能とする。
そこで、一部を紹介する。
「鐵」セラムソルジャー〈鋼鉄製の義手〉
白と金色もしくは、黒と金色の二種類がある
掌の人差し指を握って、爪が当たる位置に仕掛けがある。
そこを押すことで、両腕の外側に細かい刃が展開する。
また、五指に鋭い爪が備わっているのも特徴的であり
壁に引っ掛けたり、物理攻撃をする際に硬さが上回れば切り裂く。
「赫」マーチャント・オブ・デス〈チタン合金の義手〉
ワインレッドど金色が特徴的
熱光線を放出する開閉式の放射口が設けられており
そこから、たちまちビームやレーザーといった
遠距離型の攻撃を行うことを可能とする。
肘にはジェットが搭載されており
飛行も可能とする。
片腕では、飛べないが
ハヤタカはいつも右腕に関しては、炎の魔術で補っているのだとか……
「凰」ロイヤル・エンペラー〈ウルツァイトの義手〉
黒と橙の義手だ
炎帝から授かったとされる権物であり
別名:「皇帝の炎腕」「鳳凰の翼」とも呼ばれる。
とにかく、火力や硬さに優れており
魔法で操ることで、どんな形にも変更可能だ
また、ウルツァイトは実質ダイアモンドより硬いとされる。
この義手に敵なし
これを用いて、再び四皇獣に挑みたいそうだ……
※四皇獣には異名があります。
異名に関しては、5話に記載あり。
よろしければどうぞ~