141話 鋼鉄の龍と黒い火の魔導師
――黒焔-Black Flame――
横たわるセンチュリオンに少年が駆け寄っていく。
その姿に既視感を覚えた。
左頬に、三本の爪痕。
一瞬だけ、体を茶色い鱗が覆っているようにも見えなくなかった。
彼は……
「あれから……順当に魔導演武をこなしていった。
ついには『界十戒』にまで昇りつめた。
と思ったら、ユニムは『天王子』だった」
センチュリオンを担いでいる。
「……なんの真似だ?」
ゆっくりと、したたかに笑っては上目遣いでハヤタカを見やる。
こちらが見下されているような錯覚に陥る。
「鋼鉄の男センチュリオンには、ある特性がある
久しいですね。ハヤタカ先生」
「ほお、竜辰のゼレクスだったな」
エクスとユニムが、急いでホムラから視線を外し、そちらを振り向いた。
エクスは顔をもたげている。
ユニムは、嬉しそうに笑顔を送る「ゼレクスではないか」と聞こえてくる。
『私は、センチュリオン――」
《ゴーストプロトコル:アーマード》
《装着開始します|》
《使用者:ゼレクス》
「頼む。センチュリオン。着いてきてくれ」
脚が焦げたセンチュリオンが微細になる。
細々とした金属が、次々にゼレクスに纏われていく。
「面白い。俺に触れられたら……」
「天王子にしてやる」
「ありがてえ。そそるなあ。なあ、先生」
ボウと燃え上がってはその不気味な炎に皆が目を奪われる。
そのすべてを焼き尽くし、飲みこむ。
かつて、黒炎と恐れられた地獄の炎。
その名を「ブラックフレイム」「ヘルフレイム」
人々は、その忌まわしき黒い闇の炎をそう呼ぶ。
ハヤタカの拳には、黒い炎が宿っていた。
「教え子といえど、容赦はしない。
ロッケンのアーサーに近づきたいだろう」
「もちろんですよ」
氷帝のセレストが使うのを躊躇うとされる闇の氷魔法。
黒氷や黒雪。
誰も見たことがない。
ゼレクスとセンチュリオンの相乗効果により、その魔法は発動されていた。
一般的に、普通の魔法があり、応用魔法があるとされるが、応用魔法のひとつに
闇魔法と四元力の組み合わせが存在する。
彼らはその応用をやってのけている。
氷と炎なのだから、打ち消し合う。
だが、闇はお互いを飲み込み合う。
黒い渦が、中心にはできていた。
地面の元の色が見えなくなるまで、黒くなった時。
鋼鉄の竜と化したゼレクスが飛び込む。
ハヤタカはしまったと思った。
黒い渦に飛び込む阿呆はいない。
いるとするならば、勇敢な心の持ち主だからだ。
瞬時に黒い渦を消した。
その瞬間だった。
ゼレクスの軌道が変わる。
「ありがとよ。ヴェクターさん」
ハヤタカの肩にゼレクスの手が触れる。
「ハヤタカさーん。勝負ありです」
ホムラが一言付け足す。
庭園の回廊を咆哮の『ヴェクター』が去っていくのが見えた。
「先生、正々堂々となんて言ってないですからね」
センチュリオンを機械室に運び、ウェルズ博士に渡す。
ハヤタカは、バツが悪そうにしかめっ面をしていたが、ゼレクスと肩を組んでいた。
次の授業では、ハヤタカとホムラが担当するようだ。
ユニムは楽しさを待ちきれず、その場で地団太をした。