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14話 銀の弾丸は動かない




 やっとの思いで白胡椒(ホワイトペッパー)をどかすゼルド。


 隣にいたのは、毛深い男。ユニムではなかった。


「え、ええ。誰ですか」


 まだ、寝ぼけているようだ。

 うとうとしながら、その人物の顔を見る。瞳が赤い。


「青じゃないですね? 充血(じゅうけつ)してるんですか? 夜更(よふ)かしは、なんとかの天敵だとか」


「青? ゼルド殿。大丈夫か? 吾輩(わがはい)はファングだ。ユニム殿ではない。気を確かに」


 ゼルドの脳は整理が追いついていなかった。赤い――充血じゃない? 


 だとすると……


 点と点が繋がる。


 あの時、赤狼ブラッドウルフ(おそ)われて、わけもわからずにそれはひとりでに(こお)った。


 彼は、今でも鮮明に覚えている。


「ゼルド殿?」


 確かに一致した。

 暗闇でも、はっきりと見えた。

 赤い眼光が、この男の瞳と一致したのだ。

 見間違えでも、幻想でもない。

 これは、現実(ノンフィクション)なのだ。


 ファングの瞳にも太陽の光が入り、はっきりと光っていた。

 美しくもあり、禍々(まがまが)しくもある。赤い瞳(ブラッドアイ)


「あ、あぁ……」


 言葉を失っていた。

 自分は今から、何をされるのだろうか。

 煮るなり焼くなり好きにすれば……いや、人肉は美味しくないだろう。


 目の前にいるのは人間だ、カニバリズムになってしまう。

 では、なぜ似ているのだろうか。ブラッドウルフに似ているその瞳を前にして、息をのむ。

 ブラッドウルフが人になったとは、考えられないだろうか。


 ゼルドは思いだした。

 かつて、新聞で読んだ、あの魔獣のことを。



赤人狼(ブラッドワーウルフ)

 満月になると、赤狼(ブラッドウルフ)になるとされる。

 人間かも、魔獣かもわからない。謎の存在。


  

 他にも記載はあったことは、覚えていたが、ゼルドの記憶は、おぼろげであり、思い出せたのは呼称のみ。


 もっと早く気づくべきだったのかもしれない。


 昨日のブラッドウルフは、なにかしらの方法で喋っているようだった。


 思い出してみる……あの、()(わた)るような低い声を。


 鳴き声とは違った。安心感を覚えさせる声を。



『――ゼルド殿』



 同じだ。同じ呼び方をしている。

 なぜ、気がつかなかったのか。こんな簡単なことに………犬でもわかるのでは?

 いや、彼は、おそらく狼なのだが………そして、それを言うなら、猿でもわかるのでは。と言うべきである。


 そこで、ゼルドは試しに質問をしてみることにした。

 昨日(さくじつ)、口から血液のようなものを吐いていた。

 それが、誰のものなのか。見当(けんとう)がつかない。

 ひょっとすると、人を食べたのかもしれない。

 だとすると、ぞっとしてしまう。


 だが、彼の言動から、自分を食べようとしているようには、思えなかった。


 念には念をいれて、()くことにした。


「あの……食べたことあるんですか?」


 ファングは思った。


――何をだ? 吾輩(わがはい)は、何を食べたと思われているのだ。 

 それに質問がおかしいのでは? いや、待て。主語が抜けているだけだ。

 気のせいかもしれないが、吾輩を見て、動揺しているのではないか?


 では、何を()きたかったのか?

 ファングは、質問から推測してみることにした。

 

――吾輩が、食べたことがあるのものか? なにをだろう。きっと身近なものに違いない。

 身近なものなら、聞かずともわかるだろう。ということはだ、導き出される答えは、この地の名産品だ。アダマスの名産品といえば、なんだろうか。まさか、クラ焼き?



 ファングは、アダマスはご無沙汰(ぶさた)である。なんと答えるべきだろうか。

 ここで、イエスと言えば、ゼルドが喜んでくれるに違いない。

 とりあえず、ここは無難(ぶなん)にこたえておくと決めた。


「もちろんだ。大好物でな。」


「・・・」


「ん? どうしたのだ?」


 ゼルドは、頭が真っ白になった。

 思い浮かべた。ファングが、ナイフとフォークを両手に持ち、自分が丸焼きになり、皿に盛られている姿を、心なしか「たすけて」と、言っているようにも見えなかった。

 そんなことを考えていると、ファングが手を差し伸べてきた。


「ゼルド殿(どの)(あらた)めてよろしく頼む。

 吾輩は、ファングだ。スーペリアまで、送り届ける。

 気になったのだが、ゼルド殿も食べたことがあるのか?」


――え?人間を?ないないない。断じてない。

 ファングの少し開いた口から、鋭い(きば)がチラリと(のぞ)いている。


 ゼルドの脳内は、ここから早く逃げたいという気持ちで一心だった。


 それに加えて、自分も同族だと思われている。


 目こぼしするしかなかった。やむを得なかった。


「よろしくお願いします……」


 2人が握手をすると、ファングはその異変に気づいた。

 手に、水を感じたのだ。



――ゼルド殿は、水の魔法が使えるのでは?


 

 ゼルドは、焦っていた。早く手を離してくれないだろうか。さっきから、手汗が止まらないのだ。


 ファングはというと、気にもせず、ニコリと笑った。白い(きば)が輝いている。


「あとは、彼だけだ。起こそう」


「起きろ」


「ダメですね。起きませんよ」

「なにかいい方法は……」


「あっ。ケラウノスだぞ」


「いるわけねえだろ」


「起きてるのだろう。寝たフリをするな」


「あと三分な」


「ユニム様。ぼくにいい考えがあります」


 白胡椒ホワイトペッパーに聞こえないように話す2人。

 ゼルドの悪知恵は、ユニムの力を使えば「シルバーバレットがどこから来たのか」が、わかるのではないかというもの。


 だが、ユニムがシルバーバレットを触らたがらないため、自分の肩に触ってくれと頼んだのだ。

 はたして、上手くいくのだろうか?


「どうなっても知らないぞ」


「やりましょう」


 ゼルドは、銀の弾丸(シルバーバレット)を取り出した。

 思ってもみない行動に、ファングを目を丸くしたが、動揺は見せず、様子を見ている。


 ゼルドは、右手を(たいら)にし、そこに銀の弾丸(シルバーバレット)を置く。


 ユニムが、ゼルドの左肩に触れる。


 すると……


「うーん」


「なにも起きないではないか」


「まってください。ぼくの勲章(くんしょう)が変わって……あれ?」


「どうしたのだ?」


「あれ?」


ゼルドは、銀の弾丸(シルバーバレット)から手を離したが……


「何が起こっている……」


「どういうことだ」


「どうします?」


「よし、三分経ったな。ん? どうした?」

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