138話 陽葵〝ヒマリ〟
――太陽の輝きと月の輝き――
橘家は、二人の子を授かった。
陽向と陽葵
兄と妹だった。
二人とも無口だった。
お互いに中を深めることもなければ、あまり話すこともなかった。
五歳差だったので、『ヒマリ』は打ち解けられなかった。
小学校でも慣れ親しめないでいた。
友達と話題の合わせ方がわからない。
喋るのが苦手。
周りから距離を置かれ、クラスの隅でスマホをこっそりと見ていた。
アニメが好きだった。
アニメのヒロインのようになりたいと何度も思ったという。
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中学生になった時、日下部という人物と同じクラスになった。
後の魔王シンである。
彼女と魔王シンとの関係は誰も知らない。
歳月は経ち、三年の月日が経った。
『ヒマリ』は高校生になり、電車で学校に通う。
『行ってきます』とは言えなかった。
大学二年生になった陽向が玄関にでてくると
手を振ってくれた。
最寄りの駅まで歩いていき
電車を待っていた。
月曜日だったが、今日は祝日。
憂鬱だった。
祝日なのに学校があるなんて……
スマホを取り出し
電車の中で大好きなアニメを見る。
突然だった。
アニメが逆再生されていく。
何事だろうか。
高速で逆再生され、中学生の頃に見ていた懐かしいアニメが再生された。
「……え?」
思わず、声を漏らした。
アニメの中でヒロインが犬に話しかけている。
「またね」
そんな回はない。
このアニメは、犬と少女が出会って少女が成長を遂げていくというアニメだった。
後に、その犬は異世界の王子だという事がわかり……
という話のはずだった。
おかしい。
明らかにおかしいと思い、辺りを見回すが
奇妙なことに誰も乗っていない。
すると、電車は、線路を大きく外れ、空高く舞い上がっていく。
何事かと思い、窓の外を見るが外側からこの電車は見えていないようで、不思議に思っていた。
時間はしばらく経過し
リュックに入っている
お弁当を食べては、退屈すぎる時間を過ごした。
空に境目があった。
そこを潜り抜けると、別世界。
その別世界こそ――セレスティアル――であった。
月が光輝いている。
赤い月だった。
電車は空高く舞い上がり、雲より高く進んでいくかと思えば、電車の中に、九つのシルエット。
彼らは「見つけた」とだけ言い残しては、消えたという。
怖かったので、何度も「お兄ちゃん」と呼ぶが、兄の陽向はもちろん現れない。
電車が止まる。
表示には、《天獄》とだけ書かれていた。
扉が開いた。
ヒマリはおそるおそる足を踏み出した。