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TWO ONLY TWO 唯二無二・唯一無二という固定観念が存在しない異世界で  作者: VIKASH
【階級試験篇】:ストライク・ゴールド

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130/155

130話 ならば

                〈SO BE IT〉




 華麗に漆黒のマントで(ひるがえ)す。

 体長はユニムより大きく、チャコールグレーの鎧が彼の全身を(まと)う。


 ユニムは、その(しゅん)(びん)な動きに見惚れていた。

 どこから現れたのか。

 声は背後から聞こえ、気づけば隣で闘っている。


 速いなんてものではない。

 瞬間移動しているのではないか?

 と、疑ってしまうくらいには、突然すぎた。


 一歩、二歩。


 歩くかと思えば、(たずさ)えた剣を使わずに、拳で風を起こした。

 ゼレクスの技か?


 ならば――ゼレクスなのか?


 いや、ゼレクスは観客席にいる。

 剣を使わない拳闘士だ。

 その鎧は、黒い竜の鱗を体現しているかのように見えた。


 一歩、二歩。


 どんどん近づいていく。

 だが、足取りは読めない。

 独自の歩行技術で、地面を蹴っているようだった。


 沈黙の男

 漆黒の男

 

 彼は、一言も喋らない。


 まっすぐ進んでは「下がっていろ」と言わんばかりに、左手でユニムの動きを制す。


 ユニムとしては、二対二なのだから加勢したかったが、これではなにもできない。


 また、その速さについていけない。


 ユニムはあることに気がついた。

 

 彼は鎧から、黒い体毛をチラリと覗かせている。


 その姿、まさしく(けもの)(びと)


 いや、彼女からすれば大好物のモフモフであり

 触りたくて仕方がなかったのではないだろうか。


 二足歩行の魔獣。


 ならば――魔人か?


 歩く度に鳴る金属音が気になった。


 二回かそれ以上。

 四回鳴っている。


 マントで隠れた足元に目線をやるが、暗闇のようであり

 影や宇宙を彷彿(ほうふつ)とさせる。


 ユニムは宇宙を知らないが、名前だけなら聞いたことがある。


 それは「果てしない空」だと認識している。


 はたして、赤人狼〈ブッラドワーウルフ〉のファングか?


 それとも、焔狼〈イグニスウルフ〉のベルか?


 いや、どちらも赤い。


 闇のような黒ではないことは確かだ。


 つまり、赤狼〈ブラッドウルフ〉の魔人ではない。


 そもそも、どこの誰なのか?


 名乗りもせずに、参加しては私の邪魔をしている? 

 と、彼女は思ったが、アギョウとウンギョウの視界から外されていることに気づいた。


 彼は、助け舟といったところだ。

 ユニムは、大舟に乗ったつもりでいた。

 


「わたしは……」

「僕は――エルドです」



 名乗ろうとするも、(さえぎ)られる。


 エルド……聞いたことのない名前だ。


 エルドという名前の男は、こちらを振り向くと狼狽(ろうばい)し、二度見している。


 鏡はないので、自分の顔は確認できないが

 ()()けた顔でもしていたのだろうか? 

 と、ユニムは考えていた。


 彼女は、笑ってはいないが、口を開けていたので、間抜けに見えたかもしれない。


 少し(うつむ)き、前を見る。

 鋭い(まな)()しが、蒼く光る。



「十二獣拳……」

「喋らないでください。何が起きても冷静に……」



 喋らなければ、技を繰り出せない。

 一体どうしろというのか。


 ただ見据えていた、彼の姿を……

 呆然(ぼうぜん)と見つめていた。

 無駄が一切ない。

 ネイビスのように素早く

 剣技はメープルシロップや、クロノス/ネロのよう。



「外海の()(けん)英雄(えいゆう)ではないか?」

「いやいや、クロノスだろう?」

「あそこにいるぞ」

「誰なんだ?」



 ざわざわ……


 (かん)(しゅう)の心が騒ぎ始める。


 座って見てはいられなかった。


 彼は、声の数にも噂話が自分に向けられても、怯まなかった。


 


 斬撃、咆哮を潜り抜け

 瞬く間に近づいていき、彼は言い放った。


 

「――言葉は意味を持たない」



 アギョウ、その人物から渾身(こんしん)の一撃をくらう。

 音を立てながら倒れていく。

 倒れた瞬間、地面が揺れる。


 彼は、拳を天に向けて、振りぬいている。

 その姿、龍が天へと昇っていくようだった。


 ユニムの位置から、彼の拳と金色(こんじき)の太陽が重なる。


 その握りこぶしが、太陽をつかんでいるようにも見えた。


 星拳(せいけん)? などとくだらないことを考えては

 その(まぶ)しさを手で(おお)い、目を細めた。



「勝利とは――」



 彼がしゃがむと、腰にある


『חרב מלך האבירים〈騎士王の剣〉』


 と書かれた、白と金の剣に手を(かざ)す。

 その瞬間、光を帯びた銀色の刃が(わず)かに(のぞ)いた。


 触れてすらいなかった……

 

 アギョウの(かみなり)咆哮(ほうこう)は沈めた。

 残すは、()(つい)のヴァジュラの剣を持つウンギョウのみ。

 

 なかなかどうして、現実は甘くないのか。

 覚えているだろうか?


 ()(うん)は二体で一対

 異名を金剛(こんごう)()(おう)


 彼らは、分身していた。


 ここからが、金剛仁王の本領発揮である。

 四本の腕を持つ、(みょう)(おう)と化す。


 かと思えば、気配を(さっ)()したかのような彼の動き……


 何も(とな)えず、(すべ)るような動きで地面を縦移動する。


 剣に手を(かざ)したままだ。


 だが、どういうわけか。


 ヴァジュラの剣が……斬られている。


 コマイが(ぜっ)()する。


 その一連の行動を見ていたメープルシロップが止めに入る。


 皆、驚いていた。

 

 剣技、体術、魔術どれもが『(かい)(じっ)(かい)

 いや、『()(けん)英雄(えいゆう)』に(ひっ)(てき)するからだ。



「――諦めなかった者の前にのみ訪れる」



 彼は一言告げると、一瞬にして消えてみせた。


 ユニムは、この光景を泣き虫弱虫の

 ゼルドに見せてやりたかったそうだ。

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