13話 吾輩は赤人狼である
「遊んでやがるな。あの野郎」
ホワイトペッパーが、悔しそうに笑う。
「遊んでる?」
「いいぜ。教えてやるよ」
「銀の弾丸は、本来ならヴァンパイアや、狼男、魔女に絶大な効果を発揮するが、アイツのは違う」
謎のブラッドウルフが、なぜか狼狽している・・・
「違う?」
「その弾丸を、手から離すんだぜ」
「えーどうしましょ・・・
「でも、かっこいいじゃないですか。しまっておきます」
「あーもう。知らねえ。好きにしろよ。警告はしといたからな」
「この先は、ゴールドコーストだ。なにもないといいがな」
「わたしは、ねむいのだ。ふわぁ……」
「一旦寝るか。ここなら、安全だろう」
『同意だ』
ユニム、ゼルド、ホワイトペッパー、ブラッドウルフは寝ることにした。
~翌日~
ユニムが目を覚ますと、まだ辺りは薄暗い。
彼女は、早起きしたのだろう。両の目を擦ると、周辺を見回した。
みんな、寝ているようだったが、なにかがおかしい。
一匹足りない!?直感でそう感じたのだ。
はたして、一匹とは―?
あの、調味料みたいな河童の事だろうか?
もしくは、ゼルドを匹で数えているのか。
それとも・・・
いや、違うかもしれない。
正しくは、足りないのでなく、増えた――?
「誰だ」
そこには、男がいた。大人の男性であることは、一目瞭然であり、ユニムは、自然と見上げる形になった。
「わかるか?ユニム殿。吾輩はファングだ」
ユニム殿?どこかで聞き覚えが・・・
ユニムは昨日。確かに、その呼び方で誰かに呼ばれたのだ。
誰だったかと考えてみるが、思い出せない。
なぜなら、昨日こんな男はいなかったのだ。
それならば、どこで、名前を知ったのか?
疑問である。
ユニムは、ひとまず訊いてみることにした。
「なぜ、名前を知っている」
「名前?当然だ。ゼルド殿を助けるべく、宝箱に勇猛果敢に歩み寄っていき、食われた。それも、悲鳴もひとつにあげずにだ。もしや覚えていないのであるか?」
はっとさせられた。あの、赤と金色の宝箱の隣に座っていた謎の男ではないのか。
「あの宝箱は、吾輩が持ち込んだものだ。
とある人間に売ろうとしていたのだが、巻き込んでしまったようだ。
吾輩が責任を取り、無事スーペリアまで、送り届ける。
それが、吾輩の使命だ」
ユニムはその心意気に感銘を受け、ファングと握手をすると、彼女は疑問に思っていた。
彼はなんなのだろう?喋るブラッドウルフはどこに?声に出して、尋ねる。
「ブラッドウルフは、どこへ行ったのだ」
ファングはユニムの青い髪を見ていたが、視線をユニムの目元に戻す。
「なるほど。わからないのであるな。吾輩は、赤人狼である。この国では、珍しいかもしれん。」
「・・・」
驚いたのか。口を大きく開き、唖然としている。
間に受けているユニム。詐欺師だったらどうするのだ。
だが、ユニムの眼に狂いはなかった。はっきりと記憶していた。
その、精悍な顔つきを。心奪われるような、赤い瞳。男らしい毛深い腕と脚。その一切を覚えていた。
「どうしたんだ?何に見惚れている?吾輩の顔に何かついているか?」
ファングは、腕を組んでいる。ユニムをじっと見つめる。
「な、なんだ」
ユニムは、挙動不審になりながら、負けじと聞き返した。
「その………すまない。なんでもないのだ」
ファングは、そっぽを向く。
「その………聞きたいのだが」
「ユニム殿。声が少し大きくないか?二人が起きてしまうのでは?」
「そうだな………」
ユニムが小声になり、ファングの耳元に近づく。
「――に」
「ん?」
「赤狼になってくれ」
ファングは質問の意図がわからないでいた。
「モフモフじゃないか」
「ん?」
「モフモフしたいのだ」
ユニムは動物が好きであり、こっそりとファングに愛着がわいている。
「ユニム殿。声が大きいのでは?」
「ふぁ〜、なんですか…?なんか、重たいです」
ホワイトペッパーは寝相が悪く、ゼルドを枕代わりにしているようだ。
ゼルドが、頑張ってどかそうとするのを2人は見ていた。
寝ぼけているので、全く動いていないが………
その様子がおもしろおかしく、手で口を抑えては、必死に笑いをこらえているユニム。
もちろんゼルドは、ファングが人間になっていることに、全く気づかない。
いつ気づくのだろう?
それを見かねたファングが、近寄る。
「ゼルド殿、お力添えする。」
ゼルドの後ろにファングがいるのだが、彼は男性の声にも関わらず、ユニムだと思っているのか。
腹に乗っているホワイトペッパーの頭を、いまだにどかしている。
♦概要 (Overview):狼男 (werewolf)
狼男は、獣人(伝説の生物)の一種である。人間の男性が半狼半人の姿に変身したり、狼に憑依されたりした存在を指す。女性の場合は狼女と呼び、性別を問わない総称として狼人間や人狼という。