129話 そこに権物があるならば、権能ありて
〈ドミニオン〉
そもそも「権」とは?
権力と同じく他人を支配する力を指す。
四権英雄は、それぞれが四つの力を宿している。
四元力
炎 氷 自然 雷
炎は氷を溶かす。
氷は自然を凍てつかせ。
自然は、雷を発生させ。
雷は、炎を発せさせる。
相乗効果という言葉は、ご存じだろうか。
この一連の文章。
一に炎は氷より強い
だが、氷は炎を無に帰す。
即ち、炎を冷却することも可能である。
よって、「炎>氷」また「炎<氷」である。
二に氷は自然を凍てつかせる。
この時点で、「氷>自然」
しかし、自然は風や嵐、岩や石を用いて、
氷をも砕く。
ということは
「氷<自然」でもあるわけだ。
自然は雷を発生させ
ということは「自然≧雷」
なのか?
いや、それは誤認である。
正しくは、魔術者の力量により
「自然>雷」「自然<雷」
という数式が成り立つ。
明確に、この四元力が強いとは、言い切れない。
ユニムは、前腕を指で撫でる。
すると、体の色がみるみる黒曜石のようになっていく。
黒曜石化である。
阿吽は、動じない。
呼吸を繰り返しては、背中合わせにヴァジュラの剣を構え、その巨大な体から、大きな剣を振りかざす。
一メートル八十センチはあると思われるヴァジュラの剣をなんなく、振っている。
ユニム、合掌を行う。
阿吽の動きが止まる。
「――雷雷楽楽」
踊っては、雷を纏う。
ならばと、同様に、阿吽も唱え、雷を纏う。
黒曜石化した黒い腕から、雷の斬撃が放たれる。
ユニムの雷は、あの四権英雄のネイビスのように蒼かった。
手を阿吽に向け「蒼雷」と唱えるだけ。
音は轟き、耳はつんざく。
相手はなにもしないのか。
ゆっくりと、背中合わせを解くだけ。
かと思いきや、アギョウ口を開く。
大きな口にエネルギー状の球が雷を帯びながら、形成されていく。
その間、ウンギョウ拳をいくつも繰り出す。
ユニムは、黒曜石で盾や大きな拳を生成するも、見事な手さばきで振りほどかれては、砕かれる。
考える暇はない。
次々に、黒曜石を生成、剣や槍、斧を作り、ウンギョウの拳を止めようとするも、金剛仁王の力。
その力に及ばないのか、どんどん打ち砕かれていく。
拳を受け止める。
ふと、疑問に思っていた。
先程の声は、どこから聞こえたのか。
振り返った先には誰もいなかったからだ。
ウンギョウ、ヴァジュラの剣を一振りする。
アギョウ、四つん這いになり、口からエネルギー状の咆哮を放つ。
斬撃と咆哮がユニムを襲う。
防ぎきれない。と、思ったその時だった。
「もう、大丈夫ですよ」
誰かもわからないが、拳一つで防ぎきる謎の男。
年上だろうか。
魔導演武は続行された。
二対一だったため、二対二が認められた。
男は、仮面をつけていた。
顔が見えず、声だけがはっきりと聞こえた。
どこかで聞いたことのある声だったそうだが、少し風変りだったという。