123話 冰之结晶〝ビン・ジー・ジエ・ジン〟
〈クリスタルズ・オブ・ソロウ〉
何度も繰り返しては、変えられない過去を悔やんだ。
過去は変えられない。
だが、歴史は生まれていく。
と、誰かが言っていた。
執着からは何も生まれないが、その雁字搦めの海藻は心の中にある深海へと引きずりこむ。
息子の発言が、泡のようにパチンと弾けては、泡の中にある想いが彼を触発させる。
「あなたのような――」
「――にはなりたくない」
感情が抑えきれず、怒りを露わにする。
目を見開き、視界が狭まる。
怒りの矛先は、魔導演武の対戦相手へと向かう。
竜蝦弓には仕掛けがある。
蟹のような、赤と白のまだら模様。
蝦蛄のような、トゲ。
そして、龍蝦の鋏を彷彿とさせる。
弓韓と弓端。
握り手には赤色の糸か紐と思わしき、細長いいくつもの線が、サザエの貝殻のように巻かれている。
この頑丈な弓は、変形し、纏うことで鎧となる。
龍蝦弓から、龍蝦鎧へと変化した。
相手は、うろたえる。
独特の構えを取っていたが、覇竜参衝ではく、十二獣拳と見た。
紅の星 ゼスターは、水の魔法を操り、剣を作る。
剣の形状は、剣というには程遠く、茨が彼の心を蝕んでいるのか。
細く、今にも消えそうだった。
息子の声が脳内で反芻する。
もう父親とは、呼ばれないのだろうか。
雫が、瞳から零れ落ちる。
相手はそれを見ていた。
なんらかの動作が見受けられ、立ち止まっている。
その行動が、考えているのか。
考えていないのか。
彼には、わからなかった。
試合を中断しようと考えたのか、攻撃を防がなかった。
冷静が脳内を覆う。
焦燥と後悔。
懺悔と贖罪。
驚愕と感嘆。
言葉が、いくつも脳裏に浮かんだ。
観客達は、その行動に驚き、立ちあがる。
だが、斬られたかのよにみえたが、背中側から右肘を曲げ、左側から空気の魔法で水の剣を受け止めていた。
相手は彼の心情を察し、囁く。
「――呪いが辛いのだろう」
彼は跪き、抑えきれない感情を負の軋轢に任せ、堰をきったように、涙が氾濫していた。
どよめき、混乱。
会場は騒ぎ始める。
アーサーが場を一声で制す。
会場は、静まり返る。
相手は審判に声をかける。
不戦勝となった。
相手は立ち去って行った。
何度もこちらを振り返っては、心配している様子だった。
不戦勝……
彼女は、納得がいかない様子で、太股を見やった。
白色の戦闘服、ダボっとしており、ナディアが使っていたものとは思えないほど、綺麗に扱われているのが感じ取れた。
不思議に思う。
汗の一滴もかかずに、魔導演武を終えるとは思いもしなかったようで、ゆっくりと息を鼻から吐く。
昼食の時間が迫ってきたので、一階の食堂に向かう。
偶然出くわした暁に事の経緯を話し、彼は何者なのかと、尋ねる。
暁が言うには、星冂のレッド・スターという事がわかり、驚きを隠せなった……