121話 筛選〝サイセン〟
〈意味:篩にかける〉
後に、アクシズは四次元を三次元に展開、及び観測可能にするためには、どうすべきか。
思案し、何十回、何百回もの、実験が繰り返される。
その失敗から、彼は一つの仮説を立てる。
「時間とは球体である」
これは、まさしく机上の空論であった。
宇宙そのものが、球体なのだから、それを超える四次元の球体が存在し、更にそれを超える五次元の球体が存在し、と考えたのだが……
それでは一方通行だ。
一度行ってしまえば、帰ってこられない。
次に、アクシズが目をつけたのは、意識。
我々には、意識が存在する。
ならば、その意識を保管すればよい。
彼が以前に用いた精神の保管は、意識の保管に同じ。
我々の意識は何処に存在する?
三次元か?
いや、四次元だ。
私達は、四次元的空間を体内に宿し、そこに記憶や情報を保管している。
その保管先は、脳と呼ばれるが、脳に流れる電波は、メルカトルの手記によれば、電波にすることが可能である……
著作「次元の旅」に間違いなく記されている。
百四十三ページ
第一項
《思考電波について》
『
まず、前頭前野を発達させる
ここで、思いと考えがあることに注力していただきたい
思考には、二種類ある
思う
考える
それが、思考である
思いは伝わるが、考えは伝わらない
魔法が発達し、雷を操ることができたなら、思考を電波に乗せ、彼らのように思考電波が扱えるだろう
』
「これは……『次元の旅』の幻のページなのか」
トライデンスは、そのページのみが破り捨てられた理由が自ずとわかった。
はやく伝えなければならない。
天民に、これ以上思考電波をつかってはならないと……
でなければ、シオンの道に到達する。
それしか、考えられなかった。
なぜならば、そこに文字は一切記されていなかった。
紙が生きてるかのようだった……
実は、トライデンスは思考電波の開発に携わった一人であり、考古学や、雷学や、医学に基づいて、最初の人工生命体を造り出すことに成功した。
彼には、感情がある。
彼には、思考がある。
彼には、四肢がある。
しかし、彼の体は鋼鉄だった。
彼の名は、センチュリオン。
ナノテクノロジーの結晶であり、人工血管に内蔵されたナノテクが、彼の心臓を包むとき、彼はフルメタルハートとなる。
異名をフルメタルハートのセンチュリオン。
人工生命体である。
また、ナノテクを脳に取り込み、回折性の電波を、脳の電気信号から読み取り、送れば……
思考電波〈テレパシー〉の完成である。
天民は、ナノテクを用いている可能性が高い。
では、セレスティアル十二使徒は?
彼らには、わからないことが多い。
目の発光。
機械を持たないが、思考電波を用いる。
ユニムが耳にした、ダダイの声はとてもはっきりと聞こえたという。
※112話 次元の商人
のメルカトル=アクシズであり
ちなみに、センチュリオンは
※102話 着席する魔王様と天王子のみんな
にて、名前のみ登場
正しくは
フルメタルハート
鋼鉄のセンチュリオン
です。
❏ 閑話121.5話 殘声〝ザンセイ〟❐
少年時代のトライデンスは疑問に思っていた。
遠い昔、文字も存在しなかった時代に、何故会話できたのか?
猫や犬のような鳴き声以上に、人間の口は発達している。
いや、声帯と言うべきか。
口から、様々な種類の音色を奏で、発音、発声、歌唱を可能とする。
喉の構造を知れば一目瞭然だ。
では、昔は?
どのようにして、コミュニケーションを取っていたのか?
疑問に思い、セントラルの奥深くに眠る。
五百年以上前の壁画の前に立ちすくんでいた。
壁画の名は「アラムストル」知る人ぞ知る、古代の謎の絵が描かれているが、その絵はいたずら書きとは思えない、奇妙な描写がある。
まるで、天使の輪のような光輪、「川」を横にした波のような模様が、人間の頭上に描かれている。
「これはなんだ?」
アラムストルの壁画を見て、トライデンスは不思議に思う。
近づいてみてみると、金の塗装が剥げているのが見受けられた。
見たことがない、頭上にある波のような模様。
――もしかすると、天使の輪なのではないか?
これが、天使なのか。
腑に落ちる点はいくつかあった。
ルシフェラスが実在することをほのめかす。
決定的な証拠。
アルキメデス魔法学校の石像然り。
何気なく壁画に触れる。
すると……
『セレスティアルは……』
『ゼタは……』
『十二使徒は……』
急いで触れた手を離す。
トライデンスは、後ずさりたじろいだ。
本当ならば、歴史がひっくり返る。
トライデンスは工学にめっぽう詳しいが、あり得ない事象。
壁が生きている。
もしくは……
声を電波で飛ばしてる?
そして、壁に記録させている?
ならば、それを神経伝達と組み合わせたなら……