120話 一箭双雕
〈イッセンソウチョウ・一石二鳥に同じ〉
皆さんは、お気づきだろうか?
たったひとつの、純粋で素朴な疑問。
ユニムは黒曜石を飲み込んだ。
だが、黒曜石を飲み込んだだけでは、魔人にはなれない。
石を誤飲しても、体から石は生成されない。
なにかしらの秘密があるはずだ。
トマト(ポモドーロ)を食べても、トマト(ポモドーロ)にはならない。
昆獣林檎(昆獣と呼ばれる、人型の昆虫人間になれる林檎のこと)を食べたら?
昆獣になれるのか?
実にあり得ない話ではないだろうか。
魔法にも、法則や規則があるはずだ。
強欲の緑にせよ
昆獣林檎にせよ
銀の弾丸にせよ
魔人にせよ
時に人間は疑問を持ち、比べては、劣等感にかられる。
その劣等感が、焦燥を生み、後悔を生む。
物事には、順序があり、必ず、原因と結果がある。
ああしたから、こうなった。
例えば、剣の修業を三年間したから、剣術が上達した。
魔法の勉強をしたから、魔法を法則に従い、呪文を唱え、魔法を使用できた。
必ず、そこには原因があり、結果がある。
ジェームズ・アレン著の「原因と結果の法則」にも記載がある。
『思いが全てを決める』
この「思い」が全てを決めるのだから
どう思うかが非常に重要である。
ユニムの能力は、実に不思議だ。
魔法のそれであり、魔人とも、竜辰とも、獣人とも似つかない。
もし、魔人サターンを研究し、オブシディアンスライムの仕組みを全て理解したのなら、空気中から黒曜石を作り出し、魔法を実現させられるだろう。
科学的解釈を用いて、黒曜石の鎧を抽象的から具体的に落とし込む。
第一、黒曜石の化学元素構成は以下のようなものである。
SiO₂(二酸化ケイ素):
およそ 70〜80%
Al₂O₃(酸化アルミニウム):
10〜15%程度
FeO・Fe₂O₃(酸化鉄):
1〜5%程度
MgO、CaO、Na₂O、K₂O などのアルカリ・アルカリ土類酸化物:
少量
アーサー・C・ラークは述べている。
『十分に高度な科学技術は、魔法と区別できない』
つまり……
『科学≠魔法』
この方式が成り立つ。
どちらも互いを上回る可能性がほのめかされている。
「岩漿化」について
黒曜石に二酸化ケイ素が含まれていることは、わかっていただけただろうか?
ならば、二酸化ケイ素を用いて、粘度の高い溶岩を生成することも可能なのではないか?
可能ならば、噴火を疑似的に再現可能だ。
――ユニムは、ひとつの答えを導き出した。
と、その前に。
そもそも、ケイ素とはなんだろうか?
二酸化炭素は理解していただけるだろう。
言わずと知れたシーオーツーである。
CO₂……これが化学式である。
では、二酸化炭素を分解していく。
炭素:カーボン
(炭からとれる元素 → 炭の素)
酸素:オクシゲン
(酸をつくる元素と考えられた → 酸の素)
二酸化:「酸素が二つ結びついた化合物」の意味。
言葉を理解するためには、分解する必要がある。
どういう成り立ちなのか?
どんな由来があるのか?
それらを知ることで、いつでも容易く、この言葉とはこういった意味がある。
そのため、この漢字が使われて、この熟語は形成される。
と、説明できる。
あくまで、私の仮説だが、ユニムは二酸化ケイ素という言葉を分解していないのではないか?
二酸化炭素はすでに行った。
次は、二酸化ケイ素だ。
二酸化ケイ素
学術名:シリコン・ダイオキサイド
これならば、猪突猛進のユニムでもわかるだろう。
ケイ素とはシリコンの化学的名称である。
我々の身近で説明するならば、ガラスや半導体が相応しいだろう。
実は、とても身近な物質なのだ。
以前に、黒曜石のモース硬度が五・五と説明したが、そもそもモース硬度とは何か?
モース硬度とは、相対的な尺度であり、引っかいたときに傷ができるかで決められる。
例えば、私達の手足に備わった〈爪〉
モース硬度 二・五
〈ガラス〉と〈黒曜石〉
モース硬度 五・五
硬さで有名な〈ダイアモンド〉
モース硬度 十
もちろん、ガラスとダイアモンドの中間も存在し、コランダムというものがある。
ルビーやサファイアなどである。
実は、ビッカース硬度という、更に正確な硬度も存在する。
モース硬度とは、あくまで段階でしかなく、比例ではないこと。
ビッカース硬度によれば……
サファイアに比べ、ダイアモンドは三倍以上硬いのだ。
ダイアモンドの魔人がいたならば、防御において最強格だろう。
ところで、ユニムの導き出した「答え」とは?
相手に対し、距離が届かないと判断したためだ。
仮の名称を噴火としておく。
行ったとしても、溶岩は、物理法則に乗っ取り、昇っていく、または拡散される。
仕留めるには、勝つためには、要領が悪い。
ならば、狙う先を変えるだけ……
紹介が遅れてしまった。
幸運志知の男の名はゼスター。
この海内女王演武大会に一矢報いるため、マダム・ウィッチの名の下に、魔導演武に参加している。
彼の目的は、アルクマイオンに挑むことだ。
彼はとある一族であり、すれ違うたびに、他の参加者からひそひそと噂されていた。
スニーカーは「KORG」というメーカーのものに間違いなく。
デニムは「STEAM」
タンクトップは名も知られていない古着だ。
そして、ジャケットだが「天草」である。
セレスティアル語では「天草」だが、四王国では「ジェロニモ」という名前で知られている。
創業者の天草四郎から来ている。
「ジェロニモ」とは戦士のかけ声という意味であり、一方で「天草」は、日本の熊本県の「天草諸島」を指す。
天草四郎は、れっきとした異世界人であり、神童とも呼ばれていた。
ゼスターは、碧い瞳で、ユニムを見つめていた。
彼は、おもむろに龍蝦弓の構えを解いた……
閑話120.5話 Imagin Majin (イマジン・魔人)
ここで、魔人について触れておく。
例として、身体変化できる他の者たちを紹介する。
竜辰:
彼らは、零か一でスイッチを切り替え、爬虫類になっている。
獣人の場合:
哺乳類になれる獣人は、言葉ひとつで、もしくは念じるだけ。
大多数は、無意識下で行っているとも聞く。
人間の反射に近く、危機を察知すると、獣になる場合もある。
――では、魔人は?
彼ら竜辰と獣人、魔人にはどのような違いがあって、どう変化を遂げているのか?
魔人は、一線を画す。
魔獣から、人間へとなるため必要なプロセスが、全く異なる。
魔獣は、考えなければ、真心もないだろう。
弔いという考え方も、彼らにはないに等しい。
魔人の場合、どうやって魔人になっているのか。
ではなく、人間の真似事をしているだけなのだ。
他人の空似があるように、人間の空似なのだ。
そのため、完全な人間になること。
それ即ち、究極である。
具体例を紹介
赤人狼 ファング
人間になっても、瞳が赤く、毛むくじゃらである。
狼の鋭い牙や、体毛を人間のように見せているが、人間には変化しきれていない。
黒曜石屁泥男 サターン
見た目からわかるが、泥人形のそれである。
彼らは、人間に近しい存在になるだけであり、完全な人間になる魔人は、余程高度な知能を持っているか、人間から魔人になったか、もしくは、人間の体内器官を理解し、医学的知識、化学的知識、生理学的知識を拵え、創造主的力を持ったならば、人間を生成することを可能とする。
しかし、天縛の賢者 ウラヌス
彼は、桁外れの魔力量と高度な知能を有しているが、ゴールドゴーレムになるのが、限界であった……
人間をつくるという神様の所業は、セレスティアル人にも、我々にも成し得ない偉業なのかもしれない。
それ以前に、倫理観や社会的価値観の欠如。
不具合とみなされ、社会の歯車から離脱せざるを得ない。
ホムンクルスは、創造主か。
もしくは、大賢者になってからだろう。