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TWO ONLY TWO 唯二無二・唯一無二という固定観念が存在しない異世界で  作者: VIKASH
【階級試験篇】:ザ・マスク・オブ・ジャスティス
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111話 古代竜ティラノサウルスの〝ゼレクス〟




 翼は持たない。

 だが(リュウ)(ジン)には、翼竜という種も存在する。



 その古代種……恐竜。



 彼らは、大地を(じゅう)(りん)する。

 かつて時代を支配した食物連鎖の頂点の王者であった。


 あまりの巨体に、ユニムは思わずたじろぐ。


 観客席を見渡すと、アーサーが楽しげにクロノスへ話しかけていた。



「クロノス、あれはゼレクスだ。

 こんな場所で再会できるとはな。

 俺が竜辰の国 《ドラゴニクス》を旅立った頃、まだ奴は赤子だったんだぞ」


「そうか……見ものだな。

 あの海内女王は誰だ?」


「歴代でも異彩を放っていた。

 クイーンスネークだ。

 ナーガ人だよ。懐かしい顔ぶれだな」


「だが、キングコブラは来ていないようだな」


「そのようだ。俺はゼレクスを応援する」


「好きにするといい」



 クロノスは表情を崩さぬまま、心の内でひっそりとユニムに声を送った。



――ユニム、負けるなよ。



 地を踏み鳴らし、鋭い牙で襲いかかるゼレクス。

 その一撃を受ければ、致命傷になるだろう。


 相手の階級は変加護だ。  

 詠唱を使えることも視野に入れなければならない……ユニムはどう出るのか。


 彼女は(ふところ)から何かを取り出した。



「的が大きければ、必ず外さない」



 それは、電気石だった。


 恐竜相手に通用するのか?



【形態:刀剣/打撃/射撃】

【射撃を選択しました|】

蒼雷プラズマキャノン装填開始|】



 機械的な音声が、ユニムにだけ届く。

 神経伝達により、手に電気信号を送り、脳に音声が直接届くようになっている。

 思考電波と異なるのは、信号であること。

 電波のように宙に飛ばせない。


 ユニムは、疑問に思った。

 プラズマキャノン……?

 電気石は刀剣にしかならないはずだった。


 ユニムは思い出す。

 あの日、トライデンスが電気石を(いじ)っていたことを。



【装填完了しました|】

【衝撃にそなえてください|】

【三】



 電気石はレールガンのように変形し、ゼレクスへ向けられる。



【ニ】



 その時、ゼレクスが地面を抉る勢いで走り出す。

 口から吐き出された炎により、ユニムの周囲に蜃気楼を作った。

 

 照準が定まらない。


 しかし、ユニムは冷静だった。


 ユニムは銃口を天へ向ける。



【一】

【発射|】



 放たれたのは球状の蒼雷(プラズマ)

 青き花火のごとく、昼間にも関わらず、眩しく輝いた。


 ゼレクスは炎を止め、やがて人の姿へと戻る。

 右頬には三本の傷跡。



「ユニム……だったよな?」


「なんなのだ」


「この際だ。拳で勝負しろ」



 ゼレクスは独特の構えを取る。

 オルテガやベルモントと同様の構えだ。

 マカの名を持つ者たちの構え。



「来い、ユニム」



 ユニムは電気石を収めた。



「十二獣拳・十の刻――『慈陰』」



 技を繰り出そうとするが……



(じょ)()(しょう)(えん)(じん)



 ゼレクスが一歩速かった。


 その腕に(ほむら)(まと)われ、幾重(いくえ)もの炎の輪が拳を(おお)う。

 まるで(しん)()のグローブ。


 距離など意味をなさない。

 火山の噴火のごとく、地面がえぐれ、炎を纏った(つむじ)(かぜ)がユニムを襲う。



「――(ひょう)()穿(せん)()



 ユニムの白虎(びゃっこ)の牙のような拳が、灼熱の炎を打ち砕く。

 氷と炎がぶつかり合い、互いに相殺(そうさい)された。



「氷も使えるのか……」


「わたしは、海内(かいだい)女王(じょうおう)になる者だ」


「気前はあるな。覚えておく」



 言葉を発しても、構えは崩さない。

 目つきは、真剣そのもの。

 両者、視線を交わし、互いの間合いを探る。

 円を描くように足を滑らせる二人。

 だが、審判の声は上がらない。


 数分が経過する。

 ユニムの肩は、いまだに上下に揺れていた。


 身体能力では、ゼレクスが一枚上手。


 ふいにゼレクスの足が止まる。

 低い姿勢からユニムの懐へ飛び込み、利き手と反対の手で襟元(えりもと)を掴んだ。


 彼の瞳が一瞬だけ赤く光った。



「勝つ」

()(てん)(しょう)()(れん)



 鋭いアッパーカットがユニムの顎を撃ち抜く。

 後方へと、仰け反るユニム。



「……決まったな」



 歓声が(とどろ)く。

 だが審判は動かない。



「審判。何してる。勝者は俺だ」



 ゼレクスの足が何かに捉えられた。


 急いで振り返る。



「待つのだ」


「嘘だろ……

 やるなあ」


「まだ勝敗は決まっていないのだ。

 わたしは、ここにいるのだ。

 わたしは、まだ(たたか)えるのだ」


「いいぜ、望むところだ」



 ゼレクスは見つめていた。

 ユニムの顎を覆う黒き鉱石を。


 漆黒の輝き。

 深い夜を閉じ込めたかのような光沢。

 刃のような儚い輝きを帯びた石――黒曜石オブシディアン


 火山が噴き上げた溶岩を、灼熱のまま冷却した時に生まれる天然の硝子(ガラス)

 「炎の涙」とも、「大地の刃」とも呼ばれてきた。


 美しいだけではない。



 ――異様なほど鋭利なのだ。



 モース硬度五・五。

 鋼鉄の刃には傷を負わされる。

 だが割れ口は極めて鋭利で、かつては医療用のメスとしてさえ用いられた。


 ただし強度は(もろ)い。

 一点に力が加われば容易く(くだ)ける。

 その性質は、剣にも鎧にも不向き。

 ただ「斬る」「刺す」に特化した(はかな)き石。


 ゆえに魔術師たちは、これを封印や呪具に用いた。

 火と影の力を宿すと信じられていたからだ。


 魔術師ニコラスはこう記している。



『光を吸い、刃を生み、命を裂く石。

 だがその石は自らを守れぬ。

 使い手が儚さを知らぬままでは、黒曜は砕け、世界は血に染まる』



 ユニムはその力を、知らぬうちに得ていた。

 喫茶ル・シエル・ド・ルティティアでの魔人サターンとの戦いの最中。

 意図せずオブシディアンスライムの欠片(かけら)を飲み込み――

 魔人サターンこと(オブシディアンスライムマン)の力を宿(やど)していたのだ。



「わたしが相手だ」



 黒曜石の鎧が一瞬にして、ユニムの全身を覆う。



「面白れえ。(そそ)るな」

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