11話 ブロンズプレーンズに及ぶ
「いいか。オーガってのはな。俺達の国でいうと………」
ゆっくりと息を吸うホワイトペッパー。記憶が思い起こされる………
目の前には、元四権英雄であり、賢者でもあるトライデンスの姿。
『懐かしいな』
『師匠、どうしたんだ?』
『話がある』
『やけに真剣じゃねえの』
『もちろんだ。力を其方に託したい』
『なんだって?』
―――いつも不思議なことを言う人だった。例えば、5分前に言ったことが現実に起こったりして………
『白き水神となるのだ』
―――もしかして、これも現実になるのか?確かこの記憶は、「ケラウノス」と戦う前だった。もちろん俺は、忘れもしない。あの、四皇獣を………おっと、いけねえ。
「…鬼だ」
「それは、さっきも聞いたぞ」
「あ、そうだな。すまねえな」
「なにをぼーっとしているのだ。他に話はないのか」
頭の皿をポリポリと搔いているホワイトペッパー。
「んじゃ、俺達の国について話すか」
寝ているゼルドを横目に、2人はその場に腰を下ろした。
「本当か。期待しているぞ」
ユニムは、目を輝かせる。
「俺達の国には、猿と河童と人間と豚が………」
「私達の国にも河童以外ならいるぞ」
「おお、ところがどっこいでな」
ホワイトペッパーはニヤケている。
「なにがおかしいのだ」
「…喋れるんだよ。どうだ?驚いたろ?」
間を置いて、低い声で喋り始めたかと思えば、軽い声でユニムに訊くホワイトペッパー。
「希少種じゃないのか」
「か」が強調されているユニム。
「違うんだよなぁ。もれなく全員だぜ?」
待ってましたと言わんばかりにニヤけるホワイトペッパー。
「なんだと」
ホワイトペッパーは、宙を見据えている。
「そうだなぁ」
「なあなあなあ」
「いいこと思いついたぜ」
「シルバーバレーまで、競争しねえか?」
「さっき負けて、悔しいからよ」
「のぞむところだ」
ユニムの眼は真剣だった。
「よーい。どんって言ったらスタートな」
ユニムはなにか考えているのか、空を仰いでいる。
「なんだ、それ?」
「よーい?なにがよいのだ!」
「どん?なんの音だ?」
「わけわかんねえ事言ってんな」
「いいか」
「俺は、道案内してやるって言ってんだよ」
「ついてこいよ」
「わかったぞ。ゼルドはどうする?」
「あ、そうだったな。寝てるんだよな」
「とりあえず、起こすか」
「アオゥー」
どこからともなく、遠吠えが聞こえる。この鳴き声は犬ではないだろう。
「ふぇ?なんですか?」
ゼルドが起きた。辺りを見回して、状況を再確認している。寝起きだからか、涙目になっている。怖い夢でも見たのかもしれない。
「オオカミか」
「そうだけどよ。ひょっとして………」
「この声は忘れもしませんよ。赤狼です」
「ああ、そうだな」
ホワイトペッパーは、気にもしていない様子だ。
「どうするのだ」
「足が速いからな………んー、そうだな」
「あんたらよ、武器はもってるのか?」
「まさか、丸腰じゃねえよな?」
「そこら中にあるじゃないか」
「銅のこといってんのか?勘弁してくれよ」
ユニムは、銅をつかんで持ちあげると………
「投石だ」
「やめとけ。やめとけ。いつの時代だよ。それに効かねえだろ。俺に………」
「ぼくに、いい考えがあります。ユニム様わかりますよね?」
「んだよ。あんたら、水の魔法しか使えねえだろ?」
「氷結、浮遊も使ったことがあります。」
「それで、どうすんだよ。俺に………」
「どうしましょうね」
「いいから、俺にまかせとけ。な?」
どこからともなく、槍を取り出すホワイトペッパー。辺りを霧が包んでいく、時刻はすっかり夜になってしまった。今日は満月だ。
目の前に見覚えのある、赤い眼光。これは………
「ガル、ガルル」
赤狼は、先程の高い雄たけびとは打って変わって低いうなり声をあげる。
「三叉槍のホワイトペッパーって知らねえか?」
「知らないぞ」
「ふっ、そうかよ。覚えておけ。」
「こいよ。ブラッドウルフ」
『ここは、どこでアるか』
「あれ?なんか声が聞こえませんでした?」
ゼルドは、声を捉えたが、発信源がわからない。後ろを振り返ると………
ホワイトペッパーとブラッドウルフはどちらも引かない。間合いをとっている。ブラッドウルフが威嚇するが、ホワイトペッパーは、だんだんと距離をつめていく。
すると、赤狼が、遠吠えを再びあげる。
「おいおい、ちょっと待てよ。仲間呼んでんのか?頼むぜ」
―――ただのブラッドウルフじゃねえな、知能まで高いとなると……
『後ろを見ろ』
ホワイトペッパーは、聞こえたそれを無視できなかった。
―――しゃべれんのかよ。なんのつもりだよ。後ろには、2人がいるだろ?まさか、その隙を狙って仕掛けるつもりか。
彼は、後ろは見なかった。まっすぐに前だけを見ていた。
『私は誰でアるか・・・?』
「これ、ゴーレムですって。ちょっと、なんとかペッパーさん」
「この声……なんだ?大丈夫か」
「ゼルド」
ユニムが大声で、その名前を呼ぶ。
『銅は、金より価値アり』
ユニムは見ていた。月の光に照らされた銅が集まっていくのを、確かに、金に同じと書いて、銅なのだが、赤金といもいうが、顔のない巨体のゴーレムの上半身がそこには、できあがっており、ゼルドを右手で掴んでいた。
「くっ、苦しいです………」
『どうする?三叉槍』
「まさか、俺のこと知ってんのか。何者か知らねえけどよ。
「んなもん戦うしかねえだろ。って、なんだよ協力してくれんのか?狼さんよ」
『もちろんだ』
―――旦槍はしまう。効かねえだろうな。となると、物理か?
「狼さんよ、あんたよ。何者なんだ?」
『いずれ、わかるだろう。見ていろ』
「誰と話してるんですか。助けてください」
そのブラッドウルフは、高く跳躍すると、口から何かを吐いた。
『よすのでアる』
『ブラッドレイン』
そこに、比喩ではない血の雨が降り注いだ。ゴーレムは顔を右手で隠し、視界を確保しているようだ。
『血でアるか。効かないのでアる』
銅は、酸性の液体にめっぽう弱いが、残念ながら、血液はアルカリ性である。
数的有利ではあるが、相手は巨体だ。数の差などものともしない。
「うわあ、鉄の味がします」
ゼルドの口に血液がはいってしまったようだ。
『鉄ではない。銅でアる』
「知らないですよ」
概要(Overview):鬼(Ogre)
凶暴で残忍な性格であり、人の生肉を食べるとされる。
一方で、引っ込み思案で臆病という面もある。知性や賢さといったものはほとんどなく、人間が彼らを倒すことは難しくない。
また、自由に動物や物に姿を変えることができるといわれている。
住処は大きな宮殿や城、または地下である。
絵画などでは、豊かな髪の毛とぼうぼうのあごひげをはやした大きな頭とふくらんだ腹と強靭な肉体をもつ大男として描かれている。
児童文学にはオーガに誘拐されたお姫様を救出する勇敢な騎士の話がたくさんある。
また、ファンタジーゲームや映画の中にもよく登場する。
スカンディナビア半島の国々ではオーガはトロールと関連付けられている。
彼らは山の中に建てられた城の主人であり、莫大な財宝をもっていると考えられている。
元々は人食い怪物のことで明確な名前があったわけではなかったが、オーガ (オグル)という名前がシャルル・ペローの小説『長靴をはいた猫』で初めて与えられた。
日本では「鬼」と訳されることが多い
ウィキペディア( Wikipedia)より