105話 破天衝
〜金剛城〜
いくつかの歳月が経過していた。
彼、白胡椒は、本日も、師匠たちに近づくため。
側近である。
アギョウ、ウンギョウと力比べをしていた。
彼らは、巨躯を持ちながら、優秀であり、見事圧巻な剣技をしたかと思えば、褌を纏い、圧倒的な力で、相撲を取ったり、拳ひとつで、コマイに鍛えられることもある。
彼らは、とある秘密結社〈ソサエティ〉に属しており、その枠組みは、ギルドとは異なってくる。
四王国の中でも、シオンの道や、セソ教の分派など。
いくつかの集団があることも事実だ。
白胡椒は、セソ教に関しては、懐疑的であり、セソという人物を顔すらまともに見たことがないので、信じる術が残されていなかった。
今の彼にできるのは「白き水神」となること、もしくは、「五水神将」に相応しい力を持つことであった。
『
そもそも「五水神将」とは……?
古より、人々は「水」をただの恵みとしてではなく、畏怖すべき力として崇めてきた。
【雨】は命を潤す。
【川】は大地を肥沃にする。
【海】は交易を支える。
【氷】は静寂をもたらす。
【嵐】はすべてを呑み込む。
この五つの相を司る守護者こそ、五水神将である。
彼らは水の精霊の王たちでありながら、同時に武の化身でもある。
その姿はそれぞれ異なる。
ある者は、鯨のようだ。
ある者は、魚のようだ。
ある者は、龍のようだ。
ある者は、熊のようだ。
ある者は、鬼のようだ。
手には水に由来する武具を携え、常に戦いの装束を纏っている。
それぞれが一柱にして一軍を率い、五柱が揃えば、大海すら翻ると伝えられている。
《五柱の名と象徴》
瀾将――大海を司る神将
姿は鯨の如く巨大で、声は雷鳴のごとし。
彼の一歩は波を起こし、手にする槍は潮流を操る。
淙将 ――川と流れを司る神将
俊敏にして変幻自在。
姿は流水の化身。
双剣を振るえば千筋の奔流となり、敵を飲み込む。
霖将――雨を司る神将
雲を纏い、長き布のような雨衣を着る。
その杖から滴る水は、生命を癒す雨とも、腐敗を招く豪雨ともなる。
凌将――氷雪を司る神将
白き鎧に覆われた冷徹な武人。
刃は氷柱、盾は氷壁。すべての動きを凍らせる絶対の静寂をもたらす。
颶将――嵐を司る神将
髪は乱れ、瞳は稲光。嵐そのものの戦鬼。
手にした輪形の武器は旋風を生み、天空から雷鳴を呼び寄せる。
《伝承》
五水神将は本来、天の大いなる調和を保つために存在した。
だが、ある時期から彼らは
「水の守護者」
「水の破壊者」
という二面性を持ち、人々からは恐れと崇拝の両方で語られるようになる。
雨を望む者は霖将に祈り、嵐を鎮めたい者は颶将に供物を捧げる。
海に出る者は瀾将の加護を乞い、農夫は淙将に豊流を願い、冬の国では凌将を鎮めるために氷酒を捧げる。
五柱が揃うとき、大いなる「水の審判」が下ると言われており、それは世界の終末の兆しとも、新たな始まりの合図とも解釈されている。
つまり「五水神将」とは……
水の五つの相を人格化した武の化身であり、守護と破壊を兼ね備える“水の将軍たち”である。
』
しかし、白胡椒の力は、三明どころか、五柱に遠く及ばない。
数多を見通す力を備えていないからだ。
いつかのゴジョウも水神となり、勇者の力添えをしたという。
ゴジョウが、元四権英雄だったかどうかは、定かではない……
星が燦々と輝くなか、ダイヤモンドキャッスルが聳え立つオブシディアンマウンテンの麓に、アギョウと白胡椒の姿があった。
彼が、俊敏な動きで、アギョウの拳を避けている。
金剛仁王の異名を持つ、アギョウとウンギョウは、二人で一つだ。
「アギョウ、来い」
「先程の、序牙衝は見破った」
「ああ……そうですか。覇龍参衝を受けてみせるとは流石ですね」
「では、参ります。――破天衝」
天を穿つような、アーパーカットを顎からまともにくらう。
頭の揺れからなる脳震盪。
意識が朦朧としていた。
白胡椒は唸りながら、跪く。
「う、うう……」
その時だった。
神聖なる国『梵』でのゴジョウの一言が、頭の中を駆け巡る。
『――秩序は平和に帰結する』
「雷三叉槍」
「雷鳴烈波」
彼の電気石から、三つの鋭利な槍の先が、電気の形状を保ったまま、アギョウの体を貫く。
アギョウは、電気が心地良いのか。にんまりとしている。
そこへ、ウンギョウと海内女王のコマイがやって来た。
手で合図し、アギョウが後を追う。
白胡椒は、ひとり取り残されてしまった。




