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TWO ONLY TWO 唯二無二・唯一無二という固定観念が存在しない異世界で  作者: VIKASH
【階級試験篇】:インキピト・メディウム・クルス
104/149

104話 序牙衝




〜イギリア メーラ・ジャッロヴェルデの酒場にて〜



「――咆哮ほうこうのヴェクターだったな」



 黒の胴着に黒帯。

 形は空手道着に近いが、袖や裾は戦闘に適した独自の仕立てだ。

 髪は茶色く短く、澄んだ青い瞳をしている。

 白い肌は戦士らしからぬ印象を与えるが、その引き締まったしなやかな筋肉が、道着からチラリと覗いている。


 腕を組んでヴェクターの様子を見ている。

 時折、横を見やりながら何か考え込む仕草も見せる。


 そして彼は、ヴェクターの肩をトントンと二度叩いた。

 反対方向を向いていたヴェクターが振り返る。



「なんだよ。俺は取り逃した」

「ケルベロスの魔人に逃げられた」

「ゼクロスも電気石が繋がらない」

「一体全体、これはどういう状況だ?」



 苛立ちに任せ、ヴェクターは発砲する。

 酒場に悲鳴が響く。

 だが、負傷者は出なかった。

 ベルモントが素早く腕を掴み、銃口を安全な方向へと逸らしていたのだ。



「何者だ? 度胸があるな。恐れを知らないのか? 俺を案内しておいて、ただで帰る気はないだろう。そうだろ、ベルモント?」

「それに、先ほどから魔力が感じられねえな。どうやってる? 魔力とはオーラのようなものだ。意図的に隠しているのか? それとも、極端に低いか、あるいは……ないのか?」


「その質問には答えられない。俺はマカ=ベルモントだ」



 ヴェクターは、したたかに笑う。



「そうか……本当なんだろうな?

 だがベルモントという名は聞いたことがない。貴様、この辺りじゃ有名なのか?」


「なに、そう大したことはない。兄がいるがな」

「最近少し体がなまってきてな。相手をしてくれないか? 天王子てんのうじ……だったな?」


「構わないが」



 二人は酒場の視線を浴びつつ、近くの荒地で向かい合った。



「ベルモントだったな。武器を持っていないが、俺で何を試す?」



 ベルモントはゆっくりと黒い包帯を拳に巻き付けていく。

 手の甲を覆う黒い四本の線が現れたとき、彼の雰囲気は一変した。

 拳を掲げ、その仕草は「これで十分だ」と告げていた。



「……なるほど。面白い奴だ。来い、ベルモント」



 ヴェクターが腹の底から声を響かせる。

 彼の手には拳銃があった。



「遠距離と近距離か。一見分が悪いが……」

「恐怖は拳を鈍らせる。だが、俺の拳にはそんなものは存在しない」



 銃声が轟き、薬莢が次々と地に落ちる。

 ベルモントは驚異的な速さで弾丸を(かわ)していった。

 それはもはや人間の動きではない。



「ふふ……何者だ? ああ、先ほどの動きもそれか。随分と俺を楽しませてくれるじゃないか」



 ヴェクターは金色の銃を二丁抜き放つ。



「マルクマイオン直伝のツインリボルバーだ」


「あの王か……興味深い」



 銃声がさらに重なる。

 ベルモントは避けるどころか、弾丸に拳を合わせて弾き落とした。

 その光景にヴェクターは確信する。



――この男、只者ではないな。ホウコウの魔法を使ってもよかったか


「俺の番だ」

「――じょしょう



 ベルモントの拳が宙を殴り抜いた。

 そこには弾丸もヴェクターの姿もない。だが……



「貴様、それほどの実力を隠していたか」



 凄まじい風圧がヴェクターを襲う。

 大地を抉り、砂塵が吹き荒れる中、ベルモントはなお拳を繰り出し続けていた。

 ヴェクターは腕を交差し、耐え抜く。



「終わりだ。俺はアルキメデス魔法学校へ向かう」


「準備運動ってところだな。楽しかった」


「言ってくれるな。何よりだ……ベルモント、貴様も来るか?」


「俺は兄を探している」


「会えるといいな」

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