103話 夜なき世界と不在の魔王シン
ズン。
ズン。
ズン。
叢から、大地を踏みしめる音がする。
牙王ライオネルの姿がそこにはあった。
彼の重い足取りが、鎧の重さを物語っている。
足を引きずらずに、一歩一歩着実に歩いていく。
その後ろを、宰相ことニャルクス七世。
ネクロスキー卿
武人闘王 マカ=オルテガ
ファング
ゼクロス
ゼルド
五人と一匹がつづく。
五人は、辺りを見回すが、ここら一体は、浮島のようであり、混沌とした空が、周りを包んでいる。
牙王ライオネル一行。
バルドの塔に到着。
バルドの塔は――セレスティアル――の外側もしくは裏側、もしくは反対側にあり、次元の狭間か別次元にあるとされている。
彼らが見ていたのは、おかしな光景だった。
一度見れば、目を疑い、二度見れば、硬直し、開いた口がふさがらなくなるほど。
その異様さを目の当たりにしていた。
最初は、地面が白く、草が焦げているのかと思い、気にも止めなかったが、よくよく考えてみればおかしいのだ。
ここは建物の中ではない。
なぜ、白いのか?
草が緑色の理由には、太陽の光を反射し、十二色の内、緑を反射するからとされる。
しかし、黒色を反射する草。
その草が特殊なのか。
はたまた、大元である光の発端、太陽が原因なのかは、一番うしろを歩く、ゼルドからは、見当もつかなかった。
人はいない。
動物もいない。
あるのは、黒い植物だけで、色彩感覚でも狂ってしまったのかと思われるほど、樹木は白く無機質だ。
そして、やはり、葉っぱや草は緑ではなく、黒かった。
これが樹木なのかと、疑問を投げたくなるほどだ。
私達のよくしる白樺にもこんな特徴はない。
空を見上げてみれば、大小さまざまな、三つの太陽が浮かんでいるため、重力の流れがおかしくなっていた。
これが、この世界の異様な光景の要因かもしれなかった。
光の三原色。
赤、緑、青。
三つの太陽は、それらの色をしていたのだ。
よって、色は、混ざり合い、幾重にも色が重なったことにより、モノトーンの世界が完成していた。
また、太陽が三回昇るため、この世界に夜は存在しない。
今が何時なのか。
わかる術は残されていなかった。
バルドの塔は、傾いており、何かに破壊されかけている瞬間をとどめていた。
まるで、時間を止めたようであり、重力が促す変化は、目を瞠るものがあった。
うっすら紅色を残している。
塔の装飾の色だけは、光を吸収しつつ、赤色を反射していた。
実に、不可思議な光景だが、レンガや、四角い石は、飛び散っているが、空中に浮いている。
どのレンガも均一に作られており、レンガ自体は砕けていない。
なんの石でできているのか。
疑問に残るばかりだ。
近づけば近づくほど、バルドの塔からは、不気味さが感じ取れた。
かなり強い衝撃が加わったのか、塔が外側から内側にかけて、凹んでいる。
魔法によるものなのか。
物理攻撃によるものか。
判別しかねた。
空中に浮いている。
灰色のレンガは、よく見てみると、階段のような構造になっており、塔の一番上へ続いている。
硝子のない窓に繋がっているのが、見て取れた。
牙王が「参る」と声を掛けると、皆が後に続いた。
まるで、天国への階段のようなそれ。
彼らは注意深く、その天空へとつづく空中階段を駆け上がっていく。
気分は、空中浮遊そのものだった。
ゼルドは思い出していた。
かつて、説明者のエクスに対峙したとき、ユニムに触れられた瞬間、宙に浮き、慌てふためいていると、地面に鼻から落ちたこと。
そういえば、ここでの時間の流れはどうなるのだろう。と、思い「あの……」と声を掛けるが、宰相ことニャルクス七世が、その丸く鋭利な爪の生えた指を口元に近づけては「静かに」と言っているようだった。
牙王も一瞥をくれるが、何事もなかったかのように、先陣切って、空中階段を歩いていく。
「止まれ」
辿り着いたかと思えば、牙王ライオネルに命令される。
牙王ライオネル以外は、空中階段に足を預けたままである。
不安定な足場で、理由を考えてみるが、思い当たらなかった。
ファングが何かに気づき、地面に着地する。
マカ=オルテガとネクロスキー卿は、魔法の構えなのか、独特な姿勢で、佇んでいた。
ゆっくりと、牙王に近づいていく二人。
大きな人が三人入れそうな窓から、その光景を見ると、二人は少しうろたえたが、牙王ライオネルにつづいて、窓から中へと入っていく。
宰相は、牙王から多次元立方体を預かり、窓に座って行く手を塞いでいた。
「行かないほうがいいですにゃ」
「……どうしてですか?」
ゴクリと唾を飲み込み、一呼吸間を置いて、ゼルドは質問した。
「この先は、とある世界と繋がっていますにゃ。どの世界に繋がるかは、わからないですにゃ」
牙王ライオネルが、窓から出てくると、宰相がすっくと立ちあがり、場所を譲る。
「ここに在らず。いざ、還らん」
ここにはいない。帰ろう。と、言っているようで、宰相が「承知しましたにゃ」と、返事をする。
皆で歩いてきた、不安定な石のレンガの階段を降りていく。
すると、一人の人間だろうか。
こちらに背中を向けて舟の様子を見ていた。
「牙王様、間違いにゃいですにゃ」
「我が話そう」
牙王は、その人間に近づいていくと、少しばかり驚き、面食らった。




