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100話 転生魔王シン−死を超える愛の契約−




 ――奇妙な話であった。


 その男には、パズルの(あざ)がある。

 足の指先から、手の指紋まで、細胞一つ一つが、パズルのような模様になっている。

 気味の悪い男で、外界のどこかにある島に住んでいた。

 かつて赤色(せきしょく)だった、バルドの塔に住んでいるという。


 バルドの塔は、廃墟のようになっており、赤を匂わせるような、塗装の剥げた跡がある。

 そこから推測できるのは……

 彼は、赤に由来するのではないか? 

 ということである。


 パズルの痣は、まるで呪いのようである。

 細胞の形がくっきりと見えてしまうほど、赤紫色に不気味に光っている。


 彼は、寡黙であり、話すことを嫌う。

 天王子や十二使徒が使うとされる思考電波を用いて、私達の心に語りかける。

 その電波は、非常に不気味であり、彼と目を合わせている間だけ聞こえるという。


 何を隠そう。彼こそが、存在しない封印されたはずの魔王と同じ魔王の力を継ぐものである。

 彼の魔力は、強大であり、その力は、四権英雄を従えた勇者たちを凌ぐとされている。


 だが、ここで見落としてはならない、一つの疑問が生じることも皆さんなら、承知のはずだ。

 魔王は、勇者によって、プラネットパズルに封印されたのだから、金輪際現れないのではないか?

 彼は、なんなのか? 

 といったような、素朴な疑問である。


 この物語の根底を覆してしまう。

 彼の存在は、天空上界に住まう天使達により、追放された魔王の幹部たちにより誕生させられた。


 幹部の一人であるアザゼルが、次元の狭間から、禁忌の能力を異世界の普通の大学生に授けた。

 その能力とは《転生》である。


 とある一文を紹介したい。



 ③「転生」をした我々の世界の人間が、知識や技術を用いて、魔王を翻弄する。  

  俗に言う「異世界転生」



 勇者たちは、魔術を用いて、異世界から転生者を呼び起こした。

 彼らの中で勇者になる者もいれば、悪に堕ちる者もいた。


 彼らは、望んで悪に堕ちるわけではない。


 魔王幹部の力や、七つの欲に勝てずに、その呪われた痣を刻むことになる。


 呪われた痣を持つ者は、悪魔と契約している可能性が高い。

 魔王を倒すための「転生」を逆に魔王に利用されてしまったのが、今回の顚末(てんまつ)である。


 アザゼルは、七人の魔術師を集め、勇者の一族を壊滅させようと目論んでいた。


 彼らの名は、魔導七元帥である。

 彼らは、大罪人とも呼ばれる、欲深き者達だ。


 中でも、その男は、この世界――セレスティアル――に生を授かった時から、二つの記憶を有していた。


 彼は、異世界人にして、異世界転生した魔王。

 彼の世界、地球という惑星での名前は、日下部シン。

 魔王になるべくして生まれた男である。


 実は、彼ほど正義感の熱い男はいない。

 そんな彼が、なぜ悪に堕ちたのか。

 それには、彼なりの理由があった。


 アザゼルは「何を望む?」と日下部(クサカベ)に問いかけるが、彼は何も望まなかった。


 だが、アザゼルは、彼の心の奥底にある、一番強い欲求を見抜いていた。

 彼の欲求は「他人の幸福」

 彼を傷つけなくとも、周りの人間達を不幸にしていくだけで、彼は苦しんでいった。


 最愛の人物が、彼に暴言を吐いても、無視しても、相手にしなくなっても、どういった形で、傷つけられようが、彼は動じない。


 アザゼルは、二者択一を日下部に迫る。



「貴様か、その女、一人だけに生を与える」



 彼は、大学の三階から、窓を突き破って飛び降りた。


 硝子(ガラス)の破片が腕に突き刺さる。

 頭から垂直に落ちていく。

 見慣れた大学の路傍(ろぼう)が、眼前に近づいていた。


 それはもう感じたことのない恐怖だったという。


 言うなれば、死の一歩手前。


 その最中、アザゼルは、彼を見込んで力を与えた。


 彼の能力《転生》は

 『ALLIVE(アライブ) ARRIVE(アライブ)生到達(せいとうたつ)

 と、唱えれば発動する。 


 アザゼルは、至高の魔術師であるマジック・セレストリアの考案した禁忌(きんき)の呪文を彼に教え、力を与えた。


 その呪文こそ《アライブ・アライブ》


 異世界の人間に魔法を教えることこそ禁忌である。

 代償は大きく、アザゼルは力を失い、脆弱(ぜいじゃく)な人間として生きることを余儀なくされた。


 一方で、日下部シン〈クサカベ・シン〉は、最愛の人物を助けるため、何度も転生する。


 しかし、その夢は叶わず……


 アザゼルは、こうも言っていた。


「魔王になれば、選択肢が増える」


 その選択肢が良いのか悪いのかも、わからない。

 今のクサカベ・シンにできることは、魔王になることだけであった。


 異世界人の魔力は桁外れに高い。


 それを活かして、彼は――炎・氷・自然・雷――を極めた。


 現在の彼は、階級で言うならば『天王子』に匹敵する。


 髪は、燃え上がり

 歩く大地を凍てつかせ

 山や大地や森林を揺るがし

 雷のような覇気を纏っている。


 そんな彼が、数ヶ月前から四王国に来ていた。


 魔力の調整は、高度な技術であり、能ある鷹は爪を隠す。

 ともいうため、彼は、魔力が全くない人間のフリをして、階級試験を順にこなしていった。


 数か月で、天王子となった。

 恐るべき速さであり、四王国でも一目置かれていた。


 彼が、クロノスと出会ったとき、気になる話を聞いた。

 恐らく、自分と同じ世界から来たと思われるネカァという人物の存在。


 階級試験を受けていたのには、理由があったのだが、その目的は二の次となる。



 ネカァに関する情報


 異名:緋色の剣士

 階級:元四権英雄

 出身:異世界の使者



 どれも伝説的な内容ばかりで、彼は、妹のヒイロという人物の存在を知ることとなった。


 そこで、九つの世界を《転生》を用いて、渡った。

 八つの世界には、ネカァという人物はいなかった。

 名前すら存在していなかったのだ。


 だが、ヒイロという名前の人間は、九つ目の世界にいた。


 片っ端から、探し回り、その世界で、姉が神隠しに遭ったという、新聞の記事を見つける。


 彼は、そのヒイロに会ってみようと決めた。

 順番が前後しますが、この話のつづきは

『40話 異世界人ネカァ』のあとがきに記載されている。

『40.5話【閑話】ヒイロちゃん』に繋がります。

 よろしければ、ご覧ください。

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