1話 私はこの国で女王になる
貴方は希望を知っているか。希と望が合わさり、希望となる。
希望とは、未来にノゾミをかけることである。
希望と願望の違いは、主観的なものにとどまり、現実のなかで具体化されなくてもよい。
場合によっては、現実には不可能なことを、過去の変更不可能なことすらも、願望としてかまわない。
だが、希望は、現実的な可能性を踏まえて抱かれるものであり、現実に不可能なことは、失望や絶望とはなっても希望となることはありえない。
まあ、異世界でなければの話ではあるのだが………
そして、ここは異世界。
「――セレスティアル――」
この異世界で遙か昔、勇者とされる存在がいたそうだ。
勇者は、万人にも相当する力や、人智を超えた能力。
また、聡明であった。
我々の世界でも数々の物語として描かれる。
または、小説や漫画、アニメや映画、ビデオゲーム等の媒体で、所謂、主人公として描かれることが多い。
この異世界「――セレスティアル――」にも伝説的な勇者がいたとされる。
残念ながら、この世界のことを知る人物は誰もおらず、この世界を語るものはいない。
もしかすると、何かの拍子にピースが繋がり、語られるかもしれない。
そんな淡い期待をよせながら、私だけが知っている。この世界にまつわる話をしていく。
勇者には、4人の仲間、基4人の英雄と結束し、魔王を封印したと言い伝えられている。
魔王の力は強大であり、倒すことは困難とされた。
魔王の風貌・力・発言から、古の伝説と酷似しており、魔王は、幾百年も昔に存在した伝説的存在とされていたが、あまりにもその力が強すぎるために、勇者は苦戦する。
勇者達は、何度も敗北を喫する。
①有り体な場合、勇者が強すぎて、魔王をボコボコにして、ハーピーエンド。俗に言う「最強」。
②異世界から勇者を「召喚」したら、その勇者がとても強かった。
③異世界「転生」をした我々の世界の人間が、知識や技術を用いて、魔王を翻弄する。
といったような、勇者ならではの、「正義は最後に必ず勝つ。」といった定説が存在する。
―――だが、現実にはそうはいかない。
この世界の魔王は、酷いことに人々の生命力である魔力を好み、人々から、魔力を奪った。
そして、魔力を奪われたのは、勇者も同じ、勇者は諦めずして、戦うのだが、魔力を持たずして戦うのは、鎧を纏った相手に、木剣で挑むのと同じである。
勇者は、魔王から逃れるためではなく、世界中を旅して、賢者と呼ばれる存在を探し求めて彼らと話をする。
賢者たちと四権英雄と協力し幾世代にも渡り、賢者の力。四権英雄の力。
そして、勇者の力を用いても、あまつさえ、魔王を倒すことこそ叶わなかったが、魔王を封印することに成功する。
だがそれは、魔王の魔力の増大を止めて一時的に封印しただけであり、その神物。
「プラネットパズル」は、幾億年の効果があるとされているが、魔王はいつ復活してもおかしくない。
なぜならば、現実というものは、予想を上回ってくるものであるからだ。
また、封印に掛かった歳月。
年数にして、およそ240年。
勇者たちは、賢者達の協力を仰ぎ、約一年かけて、力を持つピースを作ったとされる。
そのピースは、約240年で完成し、封印に成功したとされる。
だが、現在では、あまりにも荒唐無稽な話。
「プラネットパズル」が、どこに存在するかもわからないため、プラネットパズルは一種の偶像と化し、信じるものもいなくなった………
そして、この異世界「――セレスティアル――」には、四つの国が確認されている。
騎士の住まう 剣の国 「スーペリア」
僧侶の住まう 聖杯の国 「インペリアルハーツ」
商人の住まう 貨幣の国 「アダマス」
農民の住まう 無知の国 「フォーチュリトス」
また、それぞれの国の中でも階級がある。
「四権英雄」 エース
国を象徴する王よりも強く、これ以上上がないことからも、国に一人存在するかどうか危ぶまれる。
最強にして、別格。
国一つの力に匹敵するとされる力を持つ。伝説的存在。
「天地国王」 キング
文字通り、国を背負う者。
力・判断力・知性。
どれもが著しく高く。
あらゆる点に於いて欠点のない者がなれるとされている。
「海内女王」 クイーン
キングと同等の存在。
男性ならば、キングに。
女性ならば、クイーンになれる。
もし、実力があるのであればの話だが。
「天王子」 ジャック
天才という言葉が相応しい。
故に天。
実力は、キングやクイーンに劣るが、いずれは彼らに代わる者として名高い。
ここで、王族となれるか、常民になるかが定まる。
「界十戒」 オクト
モーセが世"界"に"十"個の"戒"めを与えたことから、名付けられた。
元々は、八であり、二つ足された。
「博愛級」 セプト
"博"識なるもの"愛"を知る。そして、得しは"級"である。
「繁栄蜂」 オウグ
虫を取り除けば、8画となることから、蜂が名付けられる。
蜂が齎すのはその甘い蜜による繁栄だ。人類も。花も。動物も。甘い香りが漂ってきそうだ。
「幸運志知」 ジュラ
"志"を"知"る者、"幸運"である。
「寛大陸」 ジュン
"寛大"であれ、"大陸"のように構えていろ。
「変加護」 メイ
"変"化を"加"えろ、"護"れ。
「士正義」 エイリル
騎"士"になりたくば姿勢から、"正義"は己の心の内に宿りし。
「誕生」 チーマ
人は2回生まれる。一度目は、この世に誕生した時。つまり、生を授かった時。
二度目は、人生に意味を見出した時。
「希望」 フェブ
最初は無であるが、そこには希望もある。
そこに、フェブの少女ユニムがいた。
これはたった一人の少女の物語。
日が沈んだ頃、一軒の家に明かりが灯していた。
「なあ、ユニム。大人になったら、何になりたいんだ?」
無骨な体格のいい人間がシチューを飲みながら、少女に尋ねる。
「私は、この国でクイーンになる」
男は頬杖をつくと、少し難しい顔をしては、考える。
キッチンにいる女性は微笑んでいた。
「大した夢だな。
しかし、ユニム。クイーンは確かに凄い。
なるのは簡単じゃないぞ。
この国で3番目に偉い海内女王になるってことだぞ?
わかっ………」
「おじさん。私は生まれた時から、1人だった。
親には捨てられた。
私に与えられたのは名前だけ。
血縁のない、おじさんと、おばさんが私をここまで育ててくれた。
だったらもうあとはなるしかない。本当なら、エースになりたいさ。
でも、私みたいな女でエースになった人間はいないんだ。
だったら、せめてクイーンにでも」
ユニムの必死な表情を見て、男はパチッと手を叩いた。
「そうか。わかった。ユニムももう明日で12歳だ。自分のことは自分で決める。
いつか、この日が来ることはわかっていた。
おじさんは農民だが、ユニムの親はあの、騎士の国スーペリアの人達かもしれないからな。
………できるさ。ユニム。俺は信じてる。さあこい。俺と握手するんだ」
真剣だったおじさんの表情が綻ぶ。
「おじさん」
ユニムは、目を輝かせて、顎の前で、握りこぶしを作ると喜んだ。
この国において、握手とは、仲間の証明。相手の強さを認めること。で、あるからだ。
ユニムは手を差し伸ばす。男は服を少し捲り、その太い腕に切り傷のような物がちらほらと覗いていた。男はその手でユニムと握手をした。
「おじさん。どうしたんだ?その傷」
ユニムが気になり、質問した。
男はすかさず、傷を隠したが、焦りは見せなかった。
「昔の傷だ。大したことはない」
「そうなのか。そういえば、聞いてなかったな。おじさんの階級はいくつなんだ?」
「繁栄蜂のオウグだ」
「なんだって?」
「どうかしたか?」
「おじさんこんなとこで何してんだ。階級試験を受けたら、セプトになれるぞ」
「いいか。ユニム。世の中階級だけじゃねえ。階級が上がれば、それに伴い責任を負うことになる。
それに、俺がオウグなのは、自分で成り上がったわけじゃねえ」
「そ、そうなのか?おじさんオウグだったのか………」
おじさんはシチューを飲み終えると、息を吐き、視線をユニムに移した。
「今は国の中にいるからな。安全だ。
だが、外に出たらどうなるか知ってるか?」
「えっと、この国の外側は海だろ?何もないんじゃ………」
「まあ、俺がそう教えたからな」
ユニムは左手で頬杖をつき、少し考える。
おじさんがニヤケているからだ。
「な、なにがおかしい。おじさん」
「ふっふっ。実はな」
「海の先には、大陸が広がっている。世界は広い。あの言い伝えは知ってるだろ?」
「あの言い伝え………」
ユニムは記憶を思い返す、思い返していたのは子供の頃聞かされた"伝説の勇者"の話だ。
「まさか………」
「そうだ。この国の資源だけで、神物、プラネットパズルが作れるわけないだろう?」
「おじさん。私は外に行きたいぞ」
「ふっふっ。言うと思ったが、フェブじゃ、行けねぇぞ?なあ、ユニム。外に出るにはどうしたらいいと思う?」
「決まってる。階級試験を受けるんだ」
「本気か?ユニム。確かに、明日で12歳だが」
「おじさん。私は本気だ」
こうして、ユニムの試験への道のりが始まった。