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転生悪女は大事なことを忘れている  作者: つきかげ
第一章 幼少期編
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3、友達大作戦


 お茶会を開こう。

 そうと決まったら早速イメチェンしないと。

 ディアナは元は美人だけど、メイクとドレスのセンスが独特すぎる。派手で刺々しくてザ・悪女な見た目だ。

 これからは、できれば外見だけでも普通の貴族令嬢のようにしなくっちゃ。

 

 まずは縦巻きロールの髪をナチュラルに。そして派手なアイシャドウと極太アイラインもやめておこう。これだけでも威圧感が軽減するわ。

 それとドレスも上品に着こなさないとね。露出は少なめにして、つけすぎた装飾は思い切って取ってしまおう。背伸びしすぎたデザインが多いから、今度からは子供らしさのある年相応なドレスを買った方が良さそうね。

 あ、あとこの爪……。

 実はずっと気になっていた。

 この国には付け爪やマニキュアをする文化は浸透していない。それなのに私の爪は色がつけられている。

 これは公爵家が異国の商団から珍しい化粧品をたくさん取り寄せているから。その商団は、おじい様の代から懇意にしている商会で、この国では手に入らない商品をたくさん持ち込んでくれるのだ。

 つまりディアナのこの爪は、異国から取り入れた最先端のオシャレなのだ。

 ただ少し気になるのはそのクオリティだ。色ムラだらけだし、甘皮部分も処理されていないし、よく見ると染料が爪からはみ出てしまっている。

 ニナが一生懸命塗ってくれたのだけど、慣れない作業に苦労したというのが分かる仕上がりだ。ニナには悪いけど、これはもう一度自分で塗り直す必要があるわ。

 処刑エンド回避のために、小さなことから地道に改めていこう。

 


 


 あれから二週間。

 急遽開催されたお茶会には三人の令嬢が参加してくれた。本当は同世代の令嬢令息二十人に招待状を出したのだけど、ほとんど都合がつかなくて不参加となった。

 急な招待だったから仕方がない……きっとみんな予定があったんだわ……うん、今は深く考えないでおこう。全員に断られなくてよかった。

 参加してくれたのは以前から交流のあったレバン伯爵令嬢とジェイス子爵令嬢。そして今まで話したことすらなかったアクアズ男爵令嬢だ。

 お菓子を囲んで楽しくお話しようと思っていたのだけど、以前から交流のあった二人の令嬢たちはお菓子には手をつけず、貼り付けたような笑顔を作っている。


「ディアナ様、今日も一段とステキデスワ」

「ありがとう。あなたもその髪飾り素敵ね」

 どこで買ったの? と聞こうとしたのだけど言葉を遮られた。

「宝石もステキデスー! ほんと尊敬いたしますワ!」

「異国の商団から取り寄せたのですか? さすがディアナ様! スゴイデス!」

「ソンケイシマスワー!」

「あ……ありがとう……」


 棒読みだ……。この子達、本当にそう思ってる?

 あきらかにお世辞だし、おだてられてる。

 確かにこんなに褒められたら、以前のディアナだったら気分を良くしたかもしれない。だけど今の私には通用しない。むしろ心の壁を感じてしまう。

 二人の令嬢は不自然な笑顔のまま言葉を続けた。

 

「ディアナ様、シヴォン家の連中が最近また調子に乗っているので懲らしめてくださいよ」

「懲らしめる……?! 悪いけど、もうそういうことはしたくないわ」

 私がきっぱりそう答えると、レバン伯爵令嬢は眉を顰めた。期待はずれだって顔をされちゃったけど、悪役は卒業すると決めたばかり。だから何を言われようがお断りよ。

 すると今度はジェイス子爵令嬢が何やら文字がびっしり書かれた紙を持ち出してきた。

「ディアナ様、うちの兄が宝石の事業を始めるのです。ぜひ王都のファッションリーダーであるディアナ様にご支援いただきたいので、こちらにサインをいただけませんか?」

「そういうのは私の一存では決められないの……一度お父様に相談してみるわね」

 そう言って契約書を受け取ろうとしたけれど、子爵令嬢はなぜか慌てて手を引いた。

「や、やっぱり結構です。これはディアナ様に書いていただきたかったので。ふふ、公爵様はお忙しいですし」

 子爵令嬢は目を泳がせている。もしかして怪しい事業なのだろうか。よく分からないから、これ以上は触れないでおこう。

 一方、伯爵令嬢の方は隣で深いため息を吐いている。

 二人ともせっかく来てくれたのに、あまり楽しそうには見えない。何がいけなかったのかな。

 

 そんなことを思いながら、今度はまだ一言も声を発していないアクアズ男爵令嬢に声をかけた。

「アクアズ男爵令嬢、そのお菓子はお口に合いますか?」

 すると男爵令嬢はピタリと硬直した。まるで蛇に睨まれた蛙だ。

「あのーどうかしましたか?」

「ヒッ、ごめんなさい」

 彼女はガクガクと震え始めた。どうしちゃったの?!

「ごめんなさい。ゆ、許してください」

「ななな何がです? もしかして私、以前貴女に何かしました?」

「いえ何も。あの、やっぱり体調が良くないので帰ります。さ、さようなら」

「ええっ……!」

 呆気に取られているうちに、男爵令嬢は逃げるように去っていった。

 

 あの子、怯えてた。体調不良の割にはお菓子をたくさん食べていたのも気になる。

 もしかして、私が怖くて帰ったの? もしそうなら……かなりショック……。


「何あれ、無礼ですね!」

「あの子、変わってるって有名ですよ。ディアナ様が気に留める価値もないです!」

 残った二人の令嬢たちは相変わらず貼り付けた笑顔でそう言った。


 それから間もなくして、お開きとなった。今はニナが部屋の後片付けをしてくれている。

 はあ……とっても疲れた。友達を作るのって大変だ。

「お嬢様。これはどなたかの忘れ物ですかね」

 ニナの声の先に目をやると、先程レバン令嬢がつけていた髪飾りの一つが落ちていた。

「レバン令嬢のものね。彼女はまだ門のところにいるだろうから届けてくるわ」

 改めて今日来てくれたお礼も伝えたいし。

 私はそう思いながら、髪飾りを持って外へ出た。


 門の外に停められた馬車の前に、彼女の後ろ姿があった。

 私は早足でその後ろ姿に近づく。

 

「はあ、ほんと期待はずれ。時間の無駄だったわ」

 これはレバン伯爵令嬢の声だ。隣にいるのはジェイス子爵令嬢だ。

「ほんとよね。利用価値がないんだったら、あんな子に媚び売らないっつーの!」

「でもディアナ・ベルナールの取り巻きになっても大した恩恵は得られないって分かってよかったわ」

「そうね。もう誘いに乗ることもないわ」

「あーあ、疲れたわ。帰りにカフェにでも寄りましょう」

「いいわね。今度こそ楽しくお茶しましょ、ウフフ」

 え……。


 頭が真っ白になった。

 ……そっか、この子達は最初から私と友達になる気なんてなかったんだ。

 全身から変な汗が出てきた。


 今、顔を合わせるのは気まずい。私は忘れ物の髪飾りを握ったまま、咄嗟に後退りをした。

 だけどその瞬間、小石に躓いて盛大に転んだ。

 

 最悪だ……。

 派手に物音を立てたせいで、目の前の二人を振り向かせてしまった。

「ディ……ディアナ様?!」

 二人は目を丸くし、その後すぐに真っ青になった。


「あの……これ、忘れ物です」

 

 私は何事もなかったかのように立ち上がり、レバン令嬢に髪飾りを手渡した。

 二人はポカンと口を開けてこちらを見ている。陰口を言われて、馬鹿にされて……今までのディアナだったら、二人に殴りかかってたかもしれないわね。

 だけどそんなことはしない。これ以上騒ぎを起こしたくないし、そんなことできる元気も残っていない。

 

 何も聞かなかったということにすればいい。来てくれた感謝を述べて、笑顔で見送ってやろう。そしてクールに立ち去ろう。

 

「きょ、今日は来てくれて、ヒグッ……ありがっ、グスッ……ありがどうねっウウッ……」

 

 無理だった。

 頑張ってクールな顔を作ろうとしても、両目からは滝のように涙が流れるし、嗚咽も鼻水も止まる気配がない。

 二人の令嬢は困惑して顔を見合わせている。

 もう限界だ。居た堪れない。私はそのまま背を向けて、屋敷に向かって走った。

 どんなに気持ちを抑えようとしてもできそうにない。たとえ私が悪女でも、前世の記憶持ちでも、傷つく時は傷つくんだ。

 私の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになってしまった。


「げっ、どうしたんだよ。姉上」

「グスッ……なんでもないっ」

 最悪。なんでこういう時に限ってギデオンと鉢合わせするのよ。

 こんな姿見られたら、馬鹿にされるに決まってる。

 だけどギデオンは、いつもの馬鹿にするような顔をしなかった。むしろ珍しく真面目な顔をしている。

「今日来てたやつらに何か言われた?」

「……」

 こういう時は妙に鋭い。終わったことをもう掘り返したくないのに。

「その顔は図星か。フン、あの程度の家柄なら社会的に消せるだろ」

「ちょっと、物騒なこと言わないで」

「なんだよ。一応心配してやってるのに」

「余計なお世話よ!」

 そんなことしたら、悪役ルート一直線じゃないの。さっきまで流れ出ていた涙がスッと引っ込んだ。

 ギデオンはそんな私の顔を覗き込み、ニヤリと笑った。

「姉上ができないなら、俺がやってやろうか?」

「はあ? あんたには関係ないでしょ!」

 ギデオンに変に首を突っ込まれたら、話がややこしくなるに決まってる。悪女ディアナの弟なだけあって、こいつも中々悪役思想だわ。

 私はハンカチで顔をゴシゴシと拭ってから、彼をひと睨みした。

 もうあっちに行きなさいって合図のつもりだったけど、この弟に伝わるはずもない。もういつも通りのムカつく悪ガキ顔になってるし。

 

「それにしても、ひっどい顔してるな。泣きすぎて目が腫れてるよ。いいのかなぁ、明日は王子殿下にお会いする日なのに」

「あっ……」

 すっかり忘れてた……。

 正直、お茶会の準備でそれどころじゃなかったわ。

 明日は月に一度の『魔力統合の儀』が行われる日だ。王子とその婚約者は王室専属の魔法使いからお互いの魔力を強める講義を受ける。将来王族として生きるための花嫁修行のようなものだ。とっても大事な婚約者の務めだって頭では分かってる。

 だけど今日はとても辛いことがあった。できることならあと五日ぐらい寝込んでいたいのが本音だ。

 もちろん殿下とは、誕生日パーティーのあの一件から一度も会っていない。心身共に疲れきってるのに、あの殿下とまた顔を合わせなきゃならないなんて……。

「行きたくなーい! やだやだ! 家で寝ていたーい!」

「ガキみたいなこと言うなよ。ベルナール家のためにも婚約者の義務ぐらい果たせ」

「くうっ……」

 ガキにガキって言われた。しかも真っ当なことも言われた……。

 憂鬱だけど行くしかないよね……。 

 

 






なんだかんだで姉想いの弟くん……


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