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(5)よさこいで村を救いたいと言っていたのに……

 村長は俺の手を取り熱心に語り出した。

 

「レンどの、あなたは私たちの恩人です。異国の地から我々をお救いくださった聖人様です。あなたの情熱的な舞いに我々も心を奪われました。私たちにもどうか、その、よっこりもっこいを……」

 

「よさこい、な」

 

「あぁ、失礼。そのよさこいとやらを教えてくれませんか。村人全員で踊れば、きっとラビも逃げ帰ってくれるはず。我々の手で、村を救うことができるようになります」

 

「……はぁ。はい」

 

 村長の熱意に押され、俺は「はい」しか言葉がなかった。

 

「やるぞー!!」

 

「村は俺たちで守るんだー」

 

 村人が次々と決起し、声を上げて己を鼓舞した。

 

「レン、よかったね。踊り手が増えたよ。多人数で踊れば、効果が抜群かもしれない」

 

 ブリちゃんは背伸びをしながら俺の肩をぽんと叩いた。なんだか彼女は嬉しそうだ。

 

 

 この状況に1番戸惑っていたのは俺だった。

 

 異世界に転生してまで、よさこいを踊ることになろうとは。

 よさこいが未知の踊りであるこの土地で、どうやって大群衆をまとめ上げて踊れというんだ。

 

 

 異世界で死ぬはずだった運命から一転。命拾いしたのは幸運だったが、村の危機を救う役目を俺が担うって!?

 

 

「一緒にがんばろね!」

 

 心を許したせいか、懸命に俺の手を握り締めるブリちゃんは健気でとても可愛く見えた。

 ブリちゃんの高さは手を置くのにちょうどいい高さなので、ぽんぽんと頭を撫でると、「はわわわぁ」と目をキラキラさせた。

 

 うん。まぁ、とりあえず、やるしかねぇな!

 

「おう! やってやるぜ!」

 

 俺は腹の底から気合いを入れて返事をした。


 

 

        * * *

 

 

 陽が昇り始めた早い時間から、村人全員を集めてよさこいの特訓が開始された。

 集落から広場の方へ人が続々と集まってくる。

 

 よさこいといえば、カタカタと音が鳴る小道具、鳴子が欠かせない。

 村の大工や手先が器用な人間が俺の鳴子を参考に、一晩で20個ほどのレプリカを作ってくれた。鳴り具合も軽快で、見よう見真似で作ったと思えないくらいだ。

 もちろん村人全員には行き届かないので、代表者である村長と若い男に持たせた。

 

 広場の中央には舞台のような木製のお立ち台がある。村人が見渡せるように、俺はお立ち台に上がり、集まった村人に向けて声を張り上げた。

 

「よーし、やるぞー!」

 

 集合した村人はざっと300人ほど。俺が号令をかけると、群衆は口々に「おー!」と気合の声を上げる。

 

「いいか、演舞はうまい下手じゃない。心だ。みんな、心で踊ってくれ。……まずは俺の動きを真似して欲しい」

 

 俺は腕や足を大きくゆっくりと動かすが、村人たちは見たことがない動きに呆気に取られ、立ち尽くしていた。

 

「ほら、ここで、腕をあげ、手首にスナップを効かせて鳴子を響かせる……太ももを上げて跳ねるようにジャンプ」

 

 解説を入れても、誰ひとり思うように踊れていない。手をジタバタと動かし、闇雲にその場で跳ねているだけ。どう見ても舞いの体を成していない。

 

「ほら、みんな、踊れていないぞ! 俺の動きに合わせて……ほら!」

 

 声をかけてもなかなか揃わないので檄を飛ばす。

 

「もっとしっかり腕を振るんだ! しっかり! そんなんじゃ全然だめだ」


 檄を飛ばして早々、うめき声が聞こえ、広場は不穏な空気に包まれた。

 

「ううっ! 腰がっ」

 

「村長、大丈夫か!?」

 

 1番張り切っていた村長が腰を押さえてうずくまっていた。思い切り体を動かしたことで、腰をやってしまったらしい。

 

「レン殿。もう少し……ゆっくりお願いできんかね。それと、動きがわしには高度なようじゃ。今まで生きていて、こんな動きはしたことがない」

 

「俺としては難しいことを教えているつもりはない。悪いが、必死に食らいついてきてくれ」

 

 村人たちは不満そうな顔をこちらに向け、村長も渋々頷き、練習は再開された。

 

 その後の空気は最悪だった。誰も楽しく踊る者はなく、村人はただやらされて踊っているだけだった。

 

 その中で教える俺の感情も最悪だった。ちっとも楽しくない。些細なことでイライラしてしまう。

 

「ほら、動きが揃ってない。演舞は団体の動きを揃えるのが最高に美しいし、迫力を生み出せるんだ。全員の動きが揃っていれば、ラビの大群もビビって逃げ出すかもしれねぇ。わかったか! 動きを揃えろ!」

 

 そう指導した時、村人の若者が鳴子を叩きつけて叫んだ。

 

「やってらんねぇよ。こっちは一所懸命やってんだ!」

 

 その一言を皮切りに「そうだそうだ」と若者中心に練習の輪から抜けていく。

 中高年層は「畑仕事がある」「家の修理」だとか理由をつけて次々と去って行ってしまう。


 コントロールする大人がいなくなった子供たちは鳴子をおもちゃにして遊びだす始末。

 後に残されたのは、腰を痛めて踊れない村長と数名の部下たちだけ……。

 


「嘘だろ……。あんな熱心に教えてくれって、言いたのに……」



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