(0)プロローグ
俺、山崎廉太郎が最期に見たものは、顔面に迫る線路と車両だった。それは20年間生きてきた中で、初めて見る光景。
警笛。悲鳴。閃光。
それらに包まれながら、俺は奈落に落ちていく。
息を呑む間も無く、視界が暗闇に覆われた。
* * *
次に俺が見たものは赤髪ポニーテールの幼女だった。
幼女は言い過ぎかもしれない。俺の感覚では近所の中学生くらいの身長だ。
草の匂いが鼻をくすぐる。
眼下には生い茂る草原があり、遠くに山や森林が見える。
そんな緑に包まれた小高い丘のてっぺんに、俺は座り込んでいた。
ここはどこだ?
あたりを見回すと、赤髪ポニーテール女の他にも、よくわからん人間がうじゃうじゃ俺を取り囲んでいる。
「今回の生け贄は若くて活きが良さそうね」
目の前の赤髪ポニーテール女が俺の全身を眺めてこう言った。
すると、俺を取り囲む老若男女の群衆から口々に称賛の声が上がる。
「さすがは狩人様」
「これで我が村も助かるぞ!」
「狩人様、ラビの大暴走からお救いください!」
外国人と思われる人間の言葉を俺は聞き取ることができた。それはなぜだかわからない。
足元を見ると、赤い光を放つ線で描かれた魔法陣が展開されている。その上に俺はちょこんと座っていた。
自分の記憶を呼び起こしてみる。
大学の授業終わりによさこいの練習して、メシ行って……、その後どうしたっけ?
目の前に広がるのどかな光景は俺が住んでいた現代とは似ても似つかない場所だ。
群衆の男女も誰ひとり見覚えがない顔で、顔の特徴も、服装も、俺が見たことがないものだった。
見知らぬ顔。見知らぬ場所。頭の中で話が繋がった。
これはつまり……、異世界転生……!?
しかも、生まれ変わるのではなく、俺のままの姿で……!
大学に行った時の格好、黒の半袖Tシャツに、ジーパン。ノートと筆記用具と貴重品を入れたリュック、そのままの格好だ。
狩人と呼ばれた赤髪ポニーテール女がスッと手を上げると、群衆がサッと静まり返った。女の発言を聞こうと皆が唾を飲み、視線を向けている。
「ラビの大暴走はおそらく日没頃。この生け贄を捧げ、引き付けている間にやつらの大群を追い返す!」
声高らかに叫んだ女に呼応するように群衆は口々に拳を震い上げ雄叫びを上げた。
なぜこの世界に俺が連れてこられたか、経緯は不明だが、聞き捨てならない言葉が耳に入った。
生け贄、だって?
俺が……?