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第六回 女書生の封雯馨

自身が犯した罪の贖罪(しょくざい)のために苦しむ世間の人々を救う旅を続ける凌桃華(りょうとうか)と彼女と行動を共にする衆生界(しゅじょうかい)の守り神、善地三太子(ぜんじさんたいし)冠永(かんえい)。そして2人のお目付け役である神界(しんかい)の裁判長、晴天法王(せいてんほうおう)と神界の書記官(しょきかん)である神記官(しんきかん)秀鈴(しゅうりん)は女性たちが次々と行方不明になっているという嫁家村(かかそん)へやって来た。村長の案内で一同が宿屋の前に到着すると宿屋の前に1人の書生(しょせい)が正座をしていた。冠永たちの気配に気づいたのか、書生がこちらを振り向いた。


「あなた方は……?」


書生に不信感を持たせないように冠永たちは旅人を(よそお)うことにした。


「私たちはこの村に立ち寄った旅の者でございます」


冠永は丁寧な言葉遣いで書生の問いに答えた。


「そうですか……この村の宿屋は今、大掃除の途中だとかで宿をとるには夕方まで待つ必要があるそうなのでこうして座って待っていたのですが、これも何かの縁。少しお話しませんか?」


書生の提案に一行は了承し、宿の近くの長椅子へ腰を下ろした。


「自己紹介が遅れて申し訳ありません、私は封雯馨(ふうぶんきょう)。しがない書生ではありますが、立ち寄った村や町の私塾(しじゅく)で教鞭をとることもあります」


「ワシは趙晴天(ちょうせいてん)と申す旅の商人ですじゃ。近くの町で(あきな)いをしていたところ、町の方々からこの村について教えてもらいましてな。息子と娘2人と共に参ったところなのです」


晴天法王は嫁家村を訪れた際に浅黒い肌の恰幅の良い大柄な中年男性の姿から背の低い温和そうな老人に姿を変えていたので神界の神であることがばれないように偽名を使った。


それと同時に冠永たちも趙冠永(ちょうかんえい)趙桃華(ちょうとうか)趙秀鈴(ちょうしゅうりん)というふうに偽名を使い、自己紹介したのだった。


「そうですか……ご家族で商いをされているのですね。私には家族がいないので(うらや)ましいです」


「封さんにはご家族はいらっしゃらないのですか?」


凌桃華が言うと封雯馨(ふうぶんきょう)は表情を(くも)らせた。


「ええ。私は幼い頃に両親を亡くして、家もなくなりまして……親戚の家で暮らしていたのですが、その家に馴染(なじ)めずに出て行ってしまいまして。その後、転々としながら一人で生きてきました」


「そうだったのですか……」


「すみません……私のような人間の身の上話などお聞きするのもお嫌かと思います、どうかお忘れください」


「いえいえ、そんなことはありませんよ」


謝罪する封雯馨(ふうぶんきょう)に優しく声をかける冠永。


「ところで、皆さんはこの村に嫁入りする女性が行方知れずになっているという噂を聞きつけていらっしゃったとか?」


「ええ。それらしい情報を集めていたところ、この宿屋の前であなたが座っておられるのを見かけましてな」


「なるほど……では、お力になれることがあるかもしれません。ご事情を聞かせていただけますでしょうか?」


「構いませんが……」


こうして一行は封雯馨(ふうぶんきょう)から話を聞くことにした。


「私がこの村に来たのは旅をしていて、その途中でこの嫁家村へ立ち寄りました。この村で女性の行方不明者が大勢出ていると聞き、どのようにすべきか考えていたところなのです。もしかすると女性の失踪は妖怪の仕業(しわざ)ではないかと思いまして」


「妖怪ですか……この辺りにはそのような妖怪が(ひそ)んでいると?」


秀鈴が言うと封雯馨(ふうぶんきょう)(うなず)いた。


「確証はありませんが、可能性としては十分あり得ると思います。おそらく犯人はこの山に住み着いている何者かではないかと……」


「なるほど。では、ワシらでその妖怪の正体を突き止めてみましょう」


晴天法王が提案し、一行は村長に話を聞こうとしたが冠永がふと封雯馨(ふうぶんきょう)の右手を見ると包帯が巻かれているのが見えた。


「封さん、その右手は怪我でもされたのですか?」


冠永が質問すると封雯馨は突然顔を赤らめて言った。


「えっ!?あ……いえ、怪我をしたわけではないのでお構いなく……」


「左様ですか。いや、お気を悪くされたのなら申し訳ありません」


「いえいえ、そんな……ご心配には及びませんので……」


慌てて返事をする封雯馨(ふうぶんきょう)に申し訳なさそうに頭を下げる冠永であった。そこで村長が口を開いた。


「おお、言い忘れておりました。行方知れずとなった女性たちは皆我が村の風習である花嫁修業に合格した者ばかりでした」


「村長さん、その花嫁修業って先程おっしゃっていた村長さんの奥様が(しゅうとめ)(ふん)して花嫁の査定(さてい)をする儀式の事ですか?」


凌桃華が村長に質問すると村長は大きく頷いた。


「左様でございます。村の外からやって来た女性は嫁家村で花嫁修業に合格して嫁入りすると同時に村の住民として認められるのです。なのにこのところ儀式に合格した女性たちが行方知れずとなるのは何か良くないことの前触(まえぶ)れなのかも知れません」


村長の話を聞いた一行が行方不明となった女性たちについて話そうとしたその時、冠永たちが村に入ってきた入り口から人影が現れた。その人影は高齢の老婆で気の強そうな顔立ちをして、白粉(おしろい)と赤い口紅を塗りたくり、派手な(がら)の着物を着ていた。


「村長、こんなところで何をしておるのじゃ?まさか儀式の費用の着服など考えてはおらぬじゃろうな?」


老婆が言うと村長は必死に弁明した。


「め……滅相も無い!村長である私がそのような事を考えるはずがないじゃないか、楠蘭(なんらん)


「ふん……どうだかのう」


村長と口論する老婆に凌桃華が声をかけた。


「あの……お婆様(ばあさま)は村長さんとどのような御関係で?」


凌桃華が質問すると老婆は鼻息を荒くして答えた。


「私は村長の妻の張楠蘭(ちょうなんらん)じゃ。お前さんたちは他所(よそ)からきたお客さんじゃろ?何もないところじゃが、ゆっくりしていきなされ」


「村長夫人、この村の風習である花嫁修業に合格された方々が行方知れずになる事件に関して何か知っておられるでしょうか?」


封雯馨(ふうぶんきょう)が尋ねると張楠蘭は首を傾げた。


「うーむ、これといって知っていることは無いのじゃがのう……おお、そうじゃ!そこの娘さん方、花嫁修業の儀式をするつもりはないか?」


張楠蘭は凌桃華と秀鈴、そして封雯馨(ふうぶんきょう)を見ながら言った。


「えっ、それってどういう……?」


凌桃華が尋ねると張楠蘭はニヤリと笑って言った。


「行方不明となった女たちは花嫁修業の儀式に合格した者ばかり……ということは、合格者が狙われるのは間違いない。そんな時、合格者が一人でいれば相手も油断するはずじゃ。そこを全員で捕まえる、どうじゃ?やってみる気はあるか?」


「ちょ、ちょっと待ってください!私は旅の書生で、決して女性では……」


張楠蘭に封雯馨(ふうぶんきょう)が反論すると張楠蘭はほくそ笑んだ。


「何を言っとる!お前さんは男装(だんそう)しておるようじゃが、私の目はごまかせんぞ。それいっ!」


張楠蘭が封雯馨(ふうぶんきょう)の腰の帯を掴むと思い切り引っ張った。


「きゃああああああっ!?」


すると突然、封雯馨が男性らしからぬ甲高い悲鳴を上げる。腰の帯が(ほど)けたことにより上着が脱げてサラシを巻いた美しい肢体(したい)(あら)わになった。


「おお!やはり女じゃったか!はっはっはっ!」


張楠蘭が高らかに笑うと封雯馨(ふうぶんきょう)はわなわなと震えて叫んだ。


「ひどい……!せっかく女性であることを隠して旅していたのに……こんなことって……!」


「すみません、封さん!私が余計な事を口にしたばかりに……」


凌桃華が頭を下げて謝ると張楠蘭は呆れながら言った。


「まったく……こんな初歩的な手に引っかかるとは情けないのう」


「くっ……!」


封雯馨(ふうぶんきょう)は悔しそうに唇を嚙んだ。その表情は先程までの悠然とした書生というよりも花も恥じらう乙女そのものだった。冠永は彼女を傷つけないように顔を両手で覆った。

その様子を遠くから見ていた晴天法王が何かを(ひらめ)いて冠永たちに言った。


「村長夫人の作戦を試してみないか、お前たち」


「どういうことですか?」


秀鈴が尋ねると晴天法王が答えた。


「簡単なことだ。桃華と秀鈴、そして封さんに花嫁修業の儀式を受けてもらい、合格した者を狙う誘拐犯を皆で一網打尽(いちもうだじん)にするのだ」


「なるほど……いい案かもしれませんね」


秀鈴が納得したように頷くと凌桃華は不安そうに言った。


「でも、お姉さま。私は花嫁修業なんて一度もしたことがないのですが……」


「心配ないですよ、桃華。私が側でついてますから」


不安げな凌桃華を安心させようと秀鈴は優しく微笑んだ。そして一行は村長夫人の提案に乗ることにしたのであった。すぐに一同は村の広場へ向かい、花嫁修業の儀式を行うことになった。



緊張した表情で花嫁修業の儀式に臨む凌桃華、秀鈴、封雯馨(ふうぶんきょう)の三名とそれを見守る冠永と晴天法王。


「それでは、これより花嫁修業の儀式を()(おこな)う。儀式に挑戦する三名、前へ!」


張楠蘭が声高らかに儀式の始まりを宣言すると、凌桃華、秀鈴、封雯馨が祭壇の前に立った。


「まず最初に花嫁修業の合格、不合格を決める試験を行う!この試験を見事に合格した者が晴れて花嫁修業を修了した者として認められる。では早速はじめるぞ!」


張楠蘭は祭壇の前に立ち、村長に目配せすると村長は村の若者たちを呼び、(たく)を三台運ばせた。その卓には料理に使う食材や調理器具が並べられている。


「まず第一の御題は料理じゃ!これからお主たちには思い思いに料理を作ってもらう。合格すれば次の儀式に移る!不合格ならば、即刻退場してもらおう!」


張楠蘭が言うと凌桃華が真っ先に手を挙げた。


「アタシ、やります!」


「よし、ではお主からじゃ」


張楠蘭の合図で凌桃華は食材や調理器具を吟味(ぎんみ)し、まな板の上に乗せた野菜に包丁を入れて切り始めた。しかし上手くいかないのか野菜はなかなか切れない。


「うーむ……これは厳しいかもしれぬな……」


その様子を見守る張楠蘭は難しそうな顔で腕組みしながら言った。


「桃華……大丈夫でしょうか?」


冠永が心配そうに言うと晴天法王も頷く。


「我々にできることは見守ることだけだ、三太子殿。彼女たちを信じよう」


「ええ」


二人が見守る中、凌桃華は料理に悪戦苦闘する。そして20分後、何とか野菜を切り終えた彼女は素早く肉と一緒に中華鍋(ちゅうかなべ)(いた)めた料理を張楠蘭の所へ運んだ。


「あの……作ってみたのですが……」


恐る恐る言う凌桃華。張楠蘭が口を開いた。


「ふむ……で、これはなんなんじゃ?」


「に、肉野菜炒め……のつもりで……す」


「肉野菜炒めじゃと?どれどれ……」


張楠蘭は凌桃華の作った料理を口にすると目を見開いて驚きの声を上げた。


「おい!ちょっと待てい!!野菜はちゃんと火が通っておらんし、肉には塩をかけすぎじゃ!こんなもの食べられたもんじゃないわ!」


張楠蘭にダメ出しされ、がっくりと肩を落とす凌桃華。その様子を見た冠永はショックを受けていた。


「そんな……一生懸命作ったのに……」


「まったく……よくもこんなまずい料理を私の前に持ってきたものよ。不合格じゃ!次!」


張楠蘭は呆れながらそう言うと別の女性が手を挙げた。


「次は私です」


それは封雯馨(ふうぶんきょう)だった。彼女が前に出ると素早く山菜を包丁で切り分け、川魚の切り身と共に中華鍋に入れて水と紹興酒(しょうこうしゅ)を注ぎ込み、じっくり加熱させてから器に盛りつけていった。


「これは……川魚と山菜の煮付けか。しかし、味はどうかな?」


張楠蘭は封雯馨の作った料理を口に運ぶと驚いたように呟いた。


「うむ!美味い!こりゃあ、驚いた!」


その言葉に封雯馨(ふうぶんきょう)が驚いて顔を上げる。すると張楠蘭は大きな声で叫んだ。


「よし、合格じゃ!」


張楠蘭の言葉に封雯馨(ふうぶんきょう)はニコリと笑って手を叩いた。凌桃華も嬉しそうに飛び跳ねて喜ぶ。


「やったわね!封さん!」


「ええ、でもまだ油断はできません。次の試練はもっと難しいものになるかもしれませんし」


二人はお互いを励まし合っていたが、最後の挑戦者は秀鈴である。彼女は天界の書記官である神記官なのだが、料理が趣味なために料理は得意分野なのである。


「次は私が行きます!」


秀鈴は素早く食材を吟味すると牛肉や豆苗(とうみょう)などを調理していく。その手際(てぎわ)は料理人も顔負けである。やがて秀鈴は中華鍋で肉と野菜を炒めた料理と汁物、そして付け合わせの焼き餃子を皿に盛って張楠蘭の元へ運んだ。


「ほほう、これは美味そうじゃ。では頂くとするかのう」


張楠蘭が料理を口に運ぶとたちまち目を見開いて驚いた。


「うん、美味い!これまた美味いぞ!」


「ありがとうございます」


秀鈴はぺこりと頭を下げると張楠蘭は満足げに頷いた。


「よし!お主も合格じゃ!!次の試練は裁縫(さいほう)であるから、気を引き締めて(のぞ)むのじゃ!」


「はい!」


秀鈴は元気よく返事をすると広場に戻った。広場では卓に置かれていた食材や調理器具が片付けられており、裁縫用の道具一式が彼女たちを待っていた。


「それじゃ始めるぞ!まずはこれを()ってもらおうかの」


張楠蘭が手渡したものを秀鈴と封雯馨(ふうぶんきょう)はまじまじと見つめる。それは古着で作られた上着であった。


「ええと……これは?」


秀鈴が不思議そうに尋ねると張楠蘭は答えた。


「この服を着ればどんな女性でも美しくなれるという言い伝えがあるのじゃ。まあ、とりあえず縫ってみるがよい」


張楠蘭に言われて秀鈴と封雯馨は上着を縫い始めた。二人共、裁縫は得意なのか見事な手際で上着を仕上げていく。その様子を見守る冠永、凌桃華、晴天法王の三名は手に汗握った。


「うむ……これは美しい仕上がりじゃのう」


しばらくして完成した二人の上着を見て張楠蘭が満足気に言う。秀鈴の作った上着は淡い桃色の花柄、封雯馨(ふうぶんきょう)の作った上着は藍色で縦縞模様になっており、どちらもまるで貴族が着る絹のような出来栄えだった。


「さて……これを着れば花嫁修業の合格なのじゃが……心の準備は良いか?」


張楠蘭に念を押される秀鈴と封雯馨。二人は強く頷くと上着に袖を通した。


「うっ……」


「これは……!」


着替え終わった二人は言葉を失った。衣服から漂う上品な花の香りと柔らかな感触が二人の身体を包む。それは今まで感じたことの無いような感覚だった。


「どうやら成功したようじゃな、よし!合格じゃ!!」


晴れやかな表情でそう宣言する張楠蘭。その瞬間、晴天法王が拍手をして二人を称えた。


「実に見事であったぞ、二人とも!」


「ええ……!とても素敵だったわ!」


続いて凌桃華の賞賛の言葉に秀鈴は恥ずかしそうに頬を赤らめた。封雯馨(ふうぶんきょう)も心なしか表情が明るくなっている。


「ありがとうございます!」


秀鈴が礼を言うと晴天法王は凌桃華に言った。


「それでは桃華よ、村長に花嫁修業の合格者が2人出たと伝えて来てくれ。誘拐犯もその噂を聞きつけて2人を捕らえようとするはずだ、そこを我々で誘拐犯を逆に捕らえるのだ」


「わかりました、いってきます!」


凌桃華は力強く頷くと村長の家へと駆けていった。


「ふむ……しかし、お主も大したもんじゃのう。あの料理の腕、どこで身につけたのじゃ?」


張楠蘭が秀鈴に尋ねると彼女は笑顔で答えた。


「神界……じゃない、いつも家族に料理を作っておりますので」


「そうか……なら、今度は花嫁修業を更に厳しくしても問題なさそうじゃな」


張楠蘭はニヤリと笑って言うと秀鈴の笑顔が引きつった。


「あ、あの……私、花嫁修業は程々でいいなぁ……なんて……」


「ふふふ、冗談じゃよ!」


そんな秀鈴の様子を見た張楠蘭は愉快そうに笑うのであった。一方、村長の許へ報告に向かっていた凌桃華と冠永は花嫁修業の儀式について話していた。


「秀鈴さんと封さんが合格したから良かったけど、アタシだけ不合格だなんて面目ないわ……」


「気にしないで、桃華。君はよく頑張ってくれたじゃないか」


落ち込む凌桃華を冠永は優しく励ます。しかし、凌桃華の表情は晴れない。


「でも……あの二人と比べるとアタシはまだまだね」


「そんなことはないさ。花嫁修業なんて初めてなのによくやったと思うよ」


「そうね……ありがとう、冠永さん」


(うう……冠永さんに情けない姿を見せちゃった。ちゃんと人並みに料理が作れるように努力しなくっちゃ……)


凌桃華は心の中でそう誓うと冠永と共に村長の家へ向かった。


「ふむ……花嫁修業の合格者は二名ですか。では新たな合格者が出たと村中に伝えて参りますので、後のことはよろしくお願いしますぞ」


「はい!お任せください、必ずや誘拐犯を捕らえてみせます!!」


村長の言葉に力強く返事をする冠永と凌桃華であった。その時である。


「きゃーーーーーーーーーーっ!」


「な、なんじゃ!?」


「今の悲鳴は秀鈴と封さん!?」


村長の家の外から聞こえてきた悲鳴を聞き、凌桃華と冠永は揃って驚いた。


「行ってみましょう、冠永さん!」


「ああ!」


二人は村長に一礼すると全速力で駆け出した。秀鈴と封雯馨の身に何かがあったのではないか。二人の胸中に嫌な予感が広がる。


「こ、これは……!?」


悲鳴がした場所へ到着した凌桃華と冠永が見たものは気絶している張楠蘭を介抱している晴天法王の姿であった。


「法王様、何かあったのですか!?」


冠永の言葉に晴天法王は首を振って答えた。


「すまぬ。先程突然黒い竜巻が現れたと思ったら秀鈴と封殿を巻き込んで空中へ消えてしまったのだ。近くにいた村長夫人は突風に吹き飛ばされた時に腰を打ってしまったようでな、今は木陰で休ませているところだ」


「そうですか……それで、二人は一体どこに!?」


凌桃華が尋ねると晴天法王は真剣な表情で答えた。


「それがわからんのだ。竜巻の消え方も不自然だった」


「黒い竜巻……もしかしたら、件の誘拐犯の仕業かもしれませんね」


冠永の言葉に晴天法王は静かに頷いた。すると冠永は凌桃華の方を向いた。


「桃華、もしかしたら誘拐犯は竜巻に乗って村の外へ行ったかもしれない。今から森を探索すれば奴を捕まえられるかもしれないよ」


「そうね、冠永さん!必ず秀鈴さんと封さんたちを助け出しましょう!!」


凌桃華は決意に満ちた表情で叫ぶと冠永と共に森へ向かって駆け出した。すると晴天法王が2人を呼び止めた。


「待て二人とも。先程感じた邪気はもう村を通り過ぎてしまっている、追跡は不可能だ」


「そんな……!」


晴天法王の言葉に凌桃華は動揺した。


「それではもう打つ手が……」


肩を落とす冠永に晴天法王が声をかける。


「いや、まだ手はある。今晩桃華に花嫁衣装を着せて誘拐犯をおびき出すのだ。そこを我々が取り押さえれば良い」


「法王様、待ってください。先程の様に黒い竜巻によってさらわれてしまえば取り押さえることができず、秀鈴と封さんの二の舞になってしまいます!」


「だが三太子殿、もう他に方法が……」


「いえ、諦めるには早いです。桃華を危険な目に()わせずに済む方法がまだあります」


そう言うと冠永は深呼吸をしてから口を開いた。


「私が花嫁衣装を着て、誘拐犯をおびき出して敵の本拠地に乗り込めば良いのです!」


冠永の提案に凌桃華と晴天法王は目を丸くして驚いた。


「な、なん……だと……!?」


「え?え?それってもしかして冠永さんが女装(じょそう)をするって……コト!?」


「そういうことだ桃華。私が女装をして誘拐犯を油断させれば奴の本拠地に乗り込むことができるはずだ」


冠永の言葉に凌桃華と晴天法王は納得したように頷いた。


「なるほど……それならば確かに敵は油断するだろう」


「でも、冠永さん大丈夫?恥ずかしくない?」


凌桃華の言葉に冠永は恥ずかしそうに頬を染めながらもはっきりと答えた。


「正直言って恥ずかしいよ。でも、これは秀鈴や封さんを助けるためだけじゃなくて今までにさらわれた村の女性たちを助けるためなんだ。だから、やるしかない!」


「冠永さん……!」


凌桃華は感動して胸がいっぱいになった。自分のためではなく村の女性たちのためにこの危険な賭けに打って出ようとしている。そんな彼がとても勇敢で頼もしく見えたのだ。


(やっぱりアタシは冠永さんのことが大好き!自分を(かえり)みず、こんなにも大勢の人たちのことを考えられるなんて……)


凌桃華は改めて自分の気持ちを確信するのであった。


「うむ……そういうことなら致し方あるまいな」


晴天法王は神妙な表情で頷いた。


「では、すぐに準備に取りかかろうではないか。花嫁衣装は村の女性たちに事情を説明して持ってきてもらうように手配しよう」


晴天法王の言葉を受け、凌桃華と冠永は力強く頷いた。


そしてその日の夜、村中の女性たちが手に手に花嫁衣装を持って村長の家へと集まって来た。彼女たちは凌桃華たちに頭を下げると言った。


「みなさん……どうかさらわれた方々をお助けください……!」


「もちろんです!そのために私は全力を尽くします!!」


冠永は花嫁衣装を受け取ると力強く答えた。


「この衣装を着た冠永さんを見れば誘拐犯は油断するはず。後のことは冠永さんにお任せするわ」


「ああ、必ずさらわれた女性たちを助けてみせる」


凌桃華の言葉に冠永は力強く頷いて答えた。

そして冠永は深紅の花嫁衣裳に身を包んで誘拐犯をおびき寄せるために準備を始めた。ただ、女装をするのは初めてのことであったので衣装を身につけるのは凌桃華に手伝ってもらうこととなった。


「こ、これは思ったよりも恥ずかしいな……」


深紅の花嫁衣裳を身に纏い、恥ずかしそうに頬を赤らめる冠永。その様子を凌桃華は微笑ましそうに眺めていた。


「ふふ、本当に似合ってるわよ、冠永さん。これならきっと誘拐犯も油断するはずよ」


「ああ……ありがとう桃華」


冠永の女装姿を見て喜ぶ凌桃華だったが、その時ふと彼女はあることに気がついた。


(あれ?そういえば……よく見ると花嫁衣装を着た冠永さんって、アタシより色っぽい!?)


冠永の花嫁姿は深紅の花嫁衣裳が似合っているだけではなく、どこか妖しい色香(いろか)(ただよ)わせている。


(ど、どうしよう……アタシじゃ花嫁衣装は着られないし……あっ、そうだわ!冠永さんにお化粧(けしょう)してあげなくちゃ‼)


「ねぇ、冠永さん」


凌桃華は冠永の両肩を(つか)んで言った。


「誘拐犯に男性だとバレたら困るからお化粧をしてみない?ほら、花嫁衣装を着てお化粧をすればもっと色気が出るかもしれないし!」


「な……なんだって!?い、いや……それはちょっと……」


凌桃華の突然の提案に冠永はたじろいだ。女装だけでも恥ずかしいというのに更に化粧まで(ほどこ)されるのはあまりにも惨めで抵抗がある。しかし、凌桃華はいたずらっぽく自分の(くちびる)()めると言葉を続けた。


「大丈夫よ。冠永さんならきっと似合うと思うし、アタシがちゃんとお化粧してあげるから!だから、ね?」


「うう……わ、わかった」


凌桃華の勢いに押される形で冠永は渋々と頷いた。すると凌桃華は嬉しそうに笑って言った。


「うふふ!ありがとう、冠永さん!」


そうして冠永は凌桃華によって深紅の花嫁衣裳を身に纏ったまま化粧を施されていったのだった。


「完成よ。冠永さん、目を開けてみて!」


凌桃華の声と共に冠永は化粧が施された自分の顔を鏡で見た。そこには唇に鮮やかな深紅の(べに)が引かれた美しくも愛らしい花嫁の姿があった。


(これが……私!?)


鏡に映る自分の姿に驚きを隠せない冠永。すると凌桃華は感嘆の声を上げた。


「わあ、可愛い!!やっぱりアタシの目に狂いはなかったわね!!」


(そうかなぁ……?)


凌桃華の言葉に疑問を抱く冠永であったが、彼女が喜んでくれたことだけは嬉しく思った。


「三太子殿、桃華、ちょっといいか……うおっ!?」


そこへ晴天法王が現れると冠永の美しい花嫁姿に度肝を抜かれてしまった。


「と、桃華……三太子殿は本当に女性にしか見えんぞ……!?」


晴天法王に言われて凌桃華も冠永の花嫁姿を眺めて息を呑んだ。


「本当に綺麗ね、冠永さん。これなら誘拐犯だってきっと騙されるわ」


「そ、そうかな……?」


(ま、まあ桃華は喜んでくれているみたいだし、いいか……)


困惑する冠永であったが凌桃華の笑顔を見れたことは素直に嬉しかった。一方、晴天法王は何かを思い出したかのようにポンと手を打った。


「そうだ、二人とも。そろそろ夜になるから村の広場に行こう、恐らく誘拐犯は再び姿を現すに違いない。なあに、こんな(うるわ)しい花嫁がおれば誘拐犯の奴はさらわずにはおれんだろうからな!」


晴天法王の自信満々な言葉に凌桃華は微笑み、冠永は恥ずかしそうに俯いた。こうして三人は準備を終わらせると村の広場へと向かった。


「皆の衆!花嫁がやって来たぞ!」


晴天法王が村の広場で叫ぶと、そこには既に多くの人々が集まって来ていた。皆、今回の誘拐事件に胸を痛めており、花嫁を一目見ようと集まって来たのである。そして人々は冠永の美しい花嫁姿を見て驚きの声を上げた。


「わぁ、本当に美しい花嫁ね!」


「これはおめでたいわ!」


人々に祝福の言葉をかけられて冠永は恥ずかしそうに頬を染めた。一方で凌桃華も嬉しそうに微笑んでいる。


(よかった、みんな喜んでくれている……!)


自分の女装がみんなに認めてもらえたことに喜びを感じる冠永であった。すると突然強風が吹き荒れたかと思うと黒い竜巻が迫ってくるのが見えた。


「皆さん、気をつけてください!奴が現れました!!」


凌桃華が叫ぶと人々は警戒した様子を見せたが、その心配は杞憂に終わった。黒い竜巻は冠永の狙い通りに彼を包み込むと上空へ飛び去っていった。


(よし、これで作戦通りに誘拐犯を誘い出すことができたぞ!)


冠永が心の中でしてやったりとほくそ笑むと左腕の袖の中から菜の花の種を取り出し、目印として地面に撒いて行った。そのまま黒い竜巻は村の近くにある竹藪(たけやぶ)の奥深くに向かっていき、その先にある洞窟の奥深くへと入っていく。そして洞窟の中を進むとその先には一つの大きな空間が広がっていた。

それはまるで鍾乳洞(しょうにゅうどう)のような幻想的な雰囲気の空間であった。


(ここが誘拐犯の本拠地か……)


冠永が警戒していると奥から一人の男が現れた。男は黒い装束を身にまとっており、頭巾で顔を隠していた。


「ひひひっ、まさかこんな美しい花嫁をさらえるとは今日は本当についてるぜ!昼間にさらった嬢ちゃんたちもべっぴんだったから今夜は思う存分楽しめそうだ!!」


男が下品な笑い声を上げると、冠永は彼をキッと睨みつけた。


「まあまあ、落ち着けって。そうカッカするなよ。せっかくの美人が台無しだぜ?俺様の御殿(ごてん)に案内してやるから機嫌を直してくれよ、な?頼むよ~」


(御殿?もしかしてそこに今まで誘拐されてきた女性たちが捕まっているのか?だとしたら、この男の機嫌を損なうようなことをするわけにはいかないな……)


そう考えた冠永は男に向かってニコリと微笑むと小さく頷いた。


「へへっ、そうこなくっちゃな。ここはちと暗いから足元には気を付けるんだぜぇ?それじゃあ俺様の御殿へ出発と行こうか!」


男は嬉しそうに笑うと冠永を先導して洞窟の奥へと進んで行った。その頃凌桃華たちは嫁家村で冠永のことを心配していた。


「冠永さん、大丈夫かしら?」


「うむ……誘拐犯の狙いは三太子殿だから彼一人でも大丈夫だろうが、一応我々も後を追うとしよう」


晴天法王の言葉に村人たちは頷いて彼らの後に続いて歩き始めた。凌桃華と晴天法王は冠永が道しるべとして撒いた菜の花の種を辿って行くのだった。

冠永と黒装束の男が洞窟の奥深くに進んで行くとやがて大きな広場へと辿り着いた。その広場の中央には大きな建物があり、そこでは大勢の女性たちが奴隷のように働かされていた。そしてその中には秀鈴と封雯馨(ふうぶんきょう)も混じっていた。彼女たちは皆、腕に手枷(てかせ)をはめられている。


「っ……!」


その光景を見た冠永は思わず息を吞んだ。すると隣に立っていた黒装束の男が言った。


「どうだ?美しいだろう?」


「……」


冠永はその声を聞いて確信した。誘拐犯の正体はこの黒装束の男で間違いないだろう。


「ここが俺様の御殿だ。ここにいる女たちはみんな俺様がさらってきた女たちだぜ?」


男がそう言うと、女性たちに向かって叫んだ。


「お前たち、今帰ったぞ!」


「ご主人様、お帰りなさいませ」


女性たちの目に光は無く、ただ黒装束の男に従順に従うのみであった。


(女性たちがはめている手枷から(かす)かに邪気(じゃき)を感じる……あの手枷で女性たちを操っているのか?)


冠永がそう考えていると、黒装束の男は(ふところ)から小さな袋を取り出して言った。


「さあ、お前たちにお土産(みやげ)だ。この美しい花嫁と一緒に食べてくれよ」


「まあ、それは(うれ)しいですわ」


女性たちは笑顔で言うと袋の中から色とりどりの飴玉(あめだま)を取り出して口にした。そして口の中で転がしながらうっとりとした表情を浮かべる。


(あの飴玉……まさか!?)


その様子を見ていた冠永は嫌な予感がして眉をひそめた。そんな冠永の反応を見て黒装束の男はニヤリと笑うと自分もその飴玉を口の中に放り込んだ。


「安心しな、この飴の中に毒は入ってねえよ。ただ、ちょいとばかし刺激のある味だがな。くくっ……だがあの手枷をはめている限り俺様から逃げようと思った瞬間、身体中に激痛が走るって寸法だ」


(やはりそういうことか……!)


黒装束の男は奴隷にした女性たちを手枷で操り、脱走しようとした女性を痛みで服従させているのだ。そしてそれを何度も何度も繰り返してきたのだろう。


(あの男は危険だ!早く手を打たなければ!!)


冠永がそう考えていると男は女性たちに冠永を紹介した。


「お前たち!この麗しい花嫁さんは新しい仲間だ、仲良くしてやってくれ」


男がそう言うと、女性たちは目を(かがや)かせて冠永を見つめた。そして黒装束の男から冠永のことを色々と聞いていた彼女たちであったが、やがて一人の女性が冠永に近づくと突然彼に抱きついた。


「え?」


「ねえ、私たちと一緒に楽しみましょう?あなたみたいな綺麗(キレイ)な方なら大歓迎だわ!」


そう言って女性は妖艶(ようえん)に微笑むと冠永の胸を触り始めた。突然のことに驚きながらも、冠永はその女性を優しく抱きしめると同時に彼女の後頭部に人指し指で触れた。


「あ……ん♪」


すると女性は恍惚の表情を浮かべて気を失ってしまった。冠永は女性が傷つかぬように感覚を一時的に麻痺させるツボを()いたのだ、勿論(もちろん)気を失うのは一時的なので人体に害は無い。


「き、貴様!!」


冠永の行為を見た男は激昂し、彼に殴りかかろうとしたが冠永は周囲の女性たちに彼女の介抱を任せると、すかさず男の腕を掴んで投げ飛ばした。


「ぐわぁ!」


男は壁にぶつかり悲鳴を上げる。冠永は男に怒りの言葉をぶつけた。


「嫁家村の女性たちを誘拐したばかりか、奴隷のように扱うとは……言語道断だ!」


「な、なんだお前は!?その声……お前は男か!?」


冠永の声を聴いた男は驚愕する。今まで絶世の美女と思っていたのが女装した男だったということに気づき、動揺を隠しきれなかった。


「まさかお前……昼間にさらった嬢ちゃんたちの仲間か!?」


「そうだ!彼女たちは返してもらうぞ!」


冠永がそう言うと、黒装束の男は洞窟の奥へと逃げ出した。冠永は男を追おうとしたが、女性たちの救出が最優先と考え直して右腕の袖の中に手を入れると小型化した錫杖(しゃくじょう)を取り出した。

錫杖は袖の中から取り出されると1メートルを超える大きさとなり冠永は錫杖を地面に突き立てると弱い電流が走り、女性たちの腕にはめられている手枷を破壊した。これで彼女たちは自由の身となった。


「さあ、早く逃げるんだ!!」


冠永の言葉に女性たちは頷き、一斉に逃げ出した。そして冠永は秀鈴と封雯馨(ふうぶんきょう)を見つけるとすぐに合流した。


「秀鈴、大丈夫かい?封さん、怪我はありませんか?」


2人に優しく声をかける冠永に気付いた秀鈴はすぐに返事をする。


「三太子殿下!お助けいただき、ありがとうございます」


秀鈴の言葉に封雯馨(ふうぶんきょう)は首を(かし)げた。


「三太子殿下?あなた方はご兄妹ではないのですか?それに冠永さんの力は……」


「封さん、嘘をついてしまい申し訳ありません。実は我々は兄妹ではなく、嫁家村の女性失踪事件を解決するために神界(しんかい)から派遣されてきた神なのです」


冠永が説明すると封雯馨(ふうぶんきょう)は納得したように頷いた。そして彼らは洞窟の奥へと進むとそこには黒装束の男の姿があった。


「この女装野郎!よくも俺様を騙しやがったな、せっかく上玉(じょうだま)の花嫁たちをさらうことができたと思ったらとんだ誤算だったぜ。こうなりゃこっちも奥の手を出すしかねえか……」


黒装束の男がそう言うと、男の身体は見る見るうちに巨大化し、黒い体毛に(おお)われたかと思うと冠永たちの目の前には巨大な黒いネズミが姿を現した。


「どうだ!これが俺様の真の姿、天嫁山黒鼠精(てんかざんこくそせい)黒毛労(こくもうろう)だ!」


黒毛労が叫ぶと、冠永たちは動揺したがすぐに冷静さを取り戻した。


「なるほど……やはりお前は妖怪だったか」


「そういうことだ!さあ、大人しく花嫁たちを渡せ!!」


黒毛労は冠永たちにそう叫んだが、封雯馨(ふうぶんきょう)はキッと(にら)みつけて言った。


「あなたみたいな野蛮な化け物に(とつ)ぐなんてお断りです!!」


封雯馨(ふうぶんきょう)の言葉に同調するように秀鈴も言う。


「そうよ!あなたみたいなネズミなんかに女性たちを渡すわけにはいかないわ!」


秀鈴がそう言うと、黒毛労は苛立(いらだ)った様子で2人に襲いかかってきた。


「なら仕方ない、ここでお前たちを喰ってやる!!」


秀鈴と封雯馨(ふうぶんきょう)に襲いかかった黒毛労だったが、間一髪のところで冠永が錫杖を使って2人を守ることに成功した。


「ぐあっ!」


攻撃を弾かれた黒毛労は後方へと吹き飛ばされた。


「冠永さん、ここは私に任せてください。どうやら右手の封印を解く時が来たようです」


「えっ?封さん、それってどういう……?」


冠永が困惑していると封薇馨は左手で右手に巻いていた包帯を掴むとそれを素早く解いた。


霊気解放(れいきかいほう)!!」


その瞬間、封雯馨(ふうぶんきょう)の周りに光が放たれ彼女の右手は光に包まれる。


「な、なんだ、その光はぁ!?」


黒毛労が叫ぶと封雯馨(ふうぶんきょう)は高らかに声を上げた。


「暴力を振るうのは……やめなさいッッ!」

※注釈


私塾(しじゅく)…中国において初等教育を(にな)う私設の教育機関。日本では江戸時代に漢字・

国学・洋学者等による中等教育以上の私設教育機関として普及した。


豆苗(とうみょう)…大きく成長したエンドウの若い葉と(くき)の先端を()んだもの。

特有の風味があり、ビタミン類が豊富な野菜。ほのかなエンドウ豆の香りと甘味、シャキシャキとした食感が特長。油との相性がよく、風味と食感を活かした炒め物が向いている。


冠永(かんえい)が作中で人の感覚を一時的に麻痺(まひ)させるツボを()いて気絶させる場面が

 ありますが、これは中国文学作品の一つである武侠小説(ぶきょうしょうせつ)において用いられる

 『点穴(てんけつ)』という技です。  

相手の身体のツボを指で衝いて(ふさ)ぐことで気の流れを遮断(しゃだん)し、身体機能を

 麻痺(まひ)させたり、止血や毒が回るのを防ぐこともできます。また、気功(きこう)が優れている

 人は点穴で身体の動きを封じられても自ら体内で気を(めぐ)らせることにより、点穴を解除する

 ことができます。

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