第四章 一話 ガーディアン
黒髪の少年は元の世界でこれまで通りを過ごしていた。
授業は聞いているだけでは物足りない。
進行が遅く、退屈だった。
そんな中、唯一の楽しみができていた。
異世界の少年少女とカードを交えて親睦を深めていくことだ。
空から橙へ移り変わる中、待ちわびたように道を駆ける。
幸いにも家との距離は近過ぎた為、少年は帰宅後の違和感には迅速に対応出来た。
違和感とは、小学5年生くらいの茶髪の少年が玄関で待っていたことだ。
「やあ、初めましてだね、クォーデ。」
クォーデは初めましてを返してから、お約束のように直球な質問を投げた。
「僕に何か用か?」
「ぼくとこれをやろう。」
茶髪の前に出されたカードの裏面。
クォーデは即座に意味を理解し、素直に返す。
「是非、と言いたいところだけど、生憎さっきまで居た所にはカードを持ち込めなくて、この家に置いたままだったんだよ。」
「それは、これかい?」
茶髪は横にあるケースを手渡す。
クォーデは受け取ったケースからカードを出して、何もすり替わっていないことを確認する。
「間違い無い、これだよ。」
私服に着替えたクォーデは部屋を案内し、彼を招いた。
お互いにカードデッキを置き、手合わせの準備をする。
「いくぞ!」
「ああ!!」
「「エンター・プレイヤーズ、フォーマル・オープン!!」」
これが少年少女の交流と戦いの手段である。
「『アクション・スペース・ダメージスタイル』!!」
茶髪の少年が表にしたカードは、クォーデにとって見覚えがありすぎた。
「やっぱりそれか、僕も同じだよ!」
茶髪は別に驚く訳でもなく、ただ少し意外という様子だ。
「へえ、君のことだから『アクション・フィールド・ライフスタイル』かと思ってたよ。
ただ、ダメージスタイルならもっと好都合、実力を確かめさせて貰うよ!」
「そっちの実力もね。
先攻を貰って、ドロー!」
序盤はお互いに1ダメージずつ与え合っていた。
クォーデが蓄積ダメージ3の状態でターンエンドした直後、茶髪の少年は顔から感情を消す。
「ここまでは特に何もなく静かな状態。
間違いなくぼくに本気を出せと挑発しているようなもの。
それなら仕方ない、挨拶も兼ねて、エンター。」
彼が出したカード『ガーディアン候補生 アガリフ・ヨルムガト』は、
着地と共に彼の名前を知らしめた。
「僕はアガリフ、もう候補生ではなく正式な『ガーディアン』だ。
それでも、カードは残ってるから入れているけどね。」
クォーデは、いいじゃんと共感しつつ、本題を突く。
「ガーディアン、それに、僕のところに来たことの意味があるんだね?」
「勿論だよ、クォーデ。」
会話は続けつつ、カード捌きはそのまま続いている。
アガリフがエンターした時の効果で、クォーデの場のカードは4枚とも全滅だ。
「ぼくら『ガーディアン』が『インベーダー』に対抗しないと、まずいことになる。
そこで、君にも協力をして欲しい。」
少し考えてから、クォーデは返す。
「そっか、事情は分かった。
すぐにうんと頷ける訳じゃないから、そこは数日間考えさせて欲しいかな。」
更に、アガリフがアタックさせた『ガーディアン候補生 アガリフ・ヨルムガト』を指さして続ける。
「それに、今はこっちのほうに集中したいからね。」
「ああ、悪かったね。」
アガリフの【ダメージインフリクター:2】。
「本来、ダメージを負ったプレイヤーのデッキのカードを上から1枚だけダメージとするんだけど、
この効果によって、もう1枚追加でダメージにしなければならない。」
合計で2ダメージを負ったクォーデは、あと10ダメージ食らってしまえば敗北となるのだ。
「成程、【ライフブレイカー】みたいなものか、厄介だね。」
「更に、【ダメージインフリクター】を有するカードがダイレクトアタックしてブロックされなかったので、
アタック終了時に『決死の守護』を発動するよ。」
アガリフの口角が上がっていることに気付いたクォーデもまた、口角が上がる。
「2ダメージと引き換えに、次のターンの間だけ、
【ライフブレイカー】か【ダメージインフリクター】を持つカードからはダメージを受けないのか。」
アガリフは頷きながら続ける。
「『ガーディアンサポーター トエリ』でもアタックだ!
アタック時効果で、ダメージカードを更に1枚裏にすることで、ぼくが起き上がる!」
再度アタックが可能となった候補生を構える姿が、クォーデには幻視えた。
「また来る!
けど、ワイル、『捧げ物の罠』!
トエリをディヴォートして貰うよ!」
受けるダメージを少しでも抑える心算だ。
「アタック中のカードがスペースを離れたから、アタックは強制終了、やるねクォーデ。」
楽しさを感じる、ほのぼのながら熱い奥深さに、両者震えていた。
そして、束の間に相手を称えることに違和を感じ、クォーデは構えを緩めなかった。
アガリフもまた、そんな少年に気付き、構え直すのだった。
「おっ、鋭いね。
見せてあげるよ、『ガーディアン』の連続アタックを。」