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星歌とヴィオリカ  作者: やつさき
第2章 英雄学校試験編 魂懐
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第60話 オーヘルトシューレ


 ――魔法とは、世界を彩る光である。

 そう幼いころに教えられたが、ヴィオリカは本当の意味をまだ知らなかった。


 英雄学園への入学が決まり、彼は英雄学園行きの魔導列車《オルビス号》に乗った。

 そしてすぐに、知ることになる。


 “本物の魔法とは、世界そのものが生きているように見えることだ”――と。


 ◇



 列車が魔力の奔流を切り裂くように進むと、車窓の外に異様な光景が広がった。


 森の木々は魔力の粒子を吸い込み、葉が淡く光っている。

 道端の岩がふわりと浮いては地面に戻り、まるであくびをする生き物のよう。

 空には、光の紋様が描かれては溶けていく。


 そして遠く――白く輝く巨大な塔。


「……あれは、なんだ」


 ヴィオリカの声に、隣の乗客が答えた。


「転移ゲート塔さ。学園都市の魔法はあそこから流れ出してるんだよ。魔力脈と繋がった、世界最大の魔法装置だ」


 塔の周囲に浮かぶ光輪は、巨大な星のように脈動していた。

 まるで世界が息をしているかのようだ。


 ◇


 ◆英雄学園は――魔法そのものが街を歩いていた


 魔道列車の扉が開いた瞬間、ヴィオリカは息を呑んだ。


 アウロラの街では、魔法がただ“使われる”のではなく、“勝手に動いていた”。


 どこからともなく、猫の獣人だろうか。猫耳と尻尾の付いている生徒がやってきた。


「君の案内任せられてるニャテラだよ。よろぴー。早速着いてきなー。」


 ニャテラに連れられ街の景色を見ると……


 空を漂う新聞紙が、まるで鳥のように羽ばたきながら見出しを叫び、

 街灯のガラス玉がくるくる回って昼夜を判定する。

 書物が店先で勝手に宣伝し、魔法薬店では瓶がちょこんと蓋を開け、香りを漂わせる。


 空を見上げれば、学生たちが箒……ではなく、魔導軌条アークラインに乗って滑走している。

 軌跡に残った魔力が、光の羽根となって空に落ちていく。


 通りには魔法で作られた生物がいた。


 透明な身体の小さなルシッドキャットが、子供の肩に乗り、

 小妖精スプライトが花屋の周りを飛び回り、花に水を撒く。

 水滴は自ら動いて花弁に吸い込まれ、花がぱっと色鮮やかに開いた。


「す……すげえ……!魔法の技術おかしいだろ……」

「ふふーんすごいでしょ。ここの名前はオー・ヘルトシューレ!魔法がいっぱいあるのはなー、物好きな研究してる学生とかが生み出したものがほとんどなんだよお!」


 大通りには様々な屋台が並んでいる。


「見ろ見ろー! 新作の《半自律型防御ローブ》だ!

 君を危険から守るけど、たまに余計な動きするよ!!」


 ローブが勝手に客の肩を叩き、「買え、買え」と言わんばかりに布の端を振る。


「こっちは《精霊果のカラフルソーダ》!

 飲んだら声がエコーするよ!!」


 店主が叫ぶと、ソーダ瓶の中で精霊がぷかぷか浮かんだまま手を振っている。


「《自走羽ペン》! 買ってくれたら宿題が勝手に進む!

 ただし先生にバレる!」


 羽ペンが「バレる……バレる……」と悲しそうに震えている。


(いや売る気あるのかこの店)


 ヴィオリカは思わず笑ってしまった。

 少し歩けば、まるでテーマパークのような景色になる。


 空へ伸びる魔導塔スパイラル・タワーの壁面では、

 魔法陣が絶えず形を変え、色とりどりの光を放っていた。


 通りの両脇には喋る看板があった。


「いらっしゃーい! 当店の魔導薬は三分の二は爆発しないよ!!」


「安心安全、当店の魔法杖は七日間の使用保証付き!

 暴発した場合はこちらの紙に署名を! 命の保証はしません!」


影魔法専門店シャドウ・クラフトへようこそ。

 暗い気分の時ほど良い買い物ができますよ……ふふふ……」


 そしてついに、街の中心。

 入学式が行われる巨大な塔へ。


 塔は雲に届くほど高く、

 周囲を光の輪が何十枚も浮かび回転している。


 近づけば近づくほど空気が重くなり、

 魔力の粒子が肌に触れてピリピリとしびれる。


「これが……英雄学園の心臓部……」


 塔の根元では、魔力の川が地面を走っていた。

 光がひとつの流れとなり、街の隅々へ行き渡っている。


 アウロラはただの都市ではない。


 魔力そのものが街になった場所だ。


 ここを歩くだけで、魔法の奥深さに触れられる。

 ここで暮らすだけで、魔法と一緒に呼吸してしまう。


 胸がずっと高鳴っていた。


 心臓が跳ね、胸の奥が熱くなる。

 魔法が“存在”している街。

 魔法使いが暮らすというより、魔法と人が同じ呼吸をしている場所。


「……よし。寮選分儀式に向かうか」


 ヴィオリカは塔へと足を向けた。

 魔力が背中を押すように、熱く、強く。


 ◇


 英雄学園の中心――《選定の円環》。

 そこは“魔法そのものが学生を選ぶ”場所だ。


 天井は遥か上空まで伸び、円環状の魔法陣が幾十にも重なり輝いている。

 六つの巨大な魔力石は、それぞれ浮遊しながらゆっくりと回転していた。


 赤は《アルメリア》――情熱、戦闘、誇り。

 青は《フォルティシア》――共鳴、調和、精神。

 緑の《ヴェルデリア》――自然、癒し、生命。

 金の《グラディオン》――勇気、剛力、騎士道。

 紫の《ノクスフェル》――影、静寂、探究。

 白銀の《リュミエール》――魔導学、知識、学究。


 まるで六つの“人格”がそこに座って、新入生を見下ろしているかのようだった。


 ◇


 ◆魔法の儀式が始まる


 教師のひとりが杖を掲げると、

 空気がふっと震え、魔力石たちが“息を呑む”ように静まった。


「では――寮選分儀式を開始する」


 名前がひとり、またひとりと呼ばれ、

 石が光り、寮が決まり、歓声が響き、

 時に石が不機嫌そうにうなったり(明らかに気に入らなかったのだろう)、

 時に複数の石が喧嘩するかのように光をぶつけ合うこともあった。


 だが――


「次、ヴィオリカ・シャトーカノン」


 その名が響くと、場の空気が変わった。


 六つの魔力石が、まるで「待っていた」と言うように一斉に揺れた。


「……なんだ?」「こんな反応、見たことないぞ」


 ざわめきが広がる。


 ヴィオリカは中央へ進む。

 光の柱がゆっくり降り、足元の魔法陣が輝く。


 ◇


 ◆魔力石たちが“ヴィオリカを品定めする”


 足を一歩踏み出すたび、石たちの色が濃くなる。


 最初に反応したのは――青の《フォルティシア》。


 ふわりと優しい風が吹き、

 彼の周囲に透明な音色のような魔力が舞い始めた。


(精神共鳴……俺を読み取ってる?)


 次に反応したのは緑の《ヴェルデリア》。


 床から蔦のような光が伸び、ヴィオリカの靴を軽く包む。

 それは“怖がらないで”と言わんばかりの穏やかな光。


(生命魔法まで……?)


 最後に強く光ったのは――紫の《ノクスフェル》。


 影が揺れ、黒い羽のような魔力の粒子が舞い落ちる。

 それは静かで、鋭く、観察するような光。


 三つの石が同時に強く脈動し、

 青・緑・紫の光がホールの天井まで伸びた。


「三寮同時反応……!」「これは滅多にない!」


「どこに決まるんだ……?」「ロスリエル殿下に続き2人目?!」


 観客席がざわめき、教師でさえ顔を見合わせる。


 ◇


 ――寮決めは“本人の意思”ではないのだ


 教師が告げる。


「ヴィオリカ・シャトーカノン――魔力石に触れ、寮の意思を確かめなさい」


 触れるのは一つ。

 だが選ぶのは石ではない。

 石が彼を選ぶのだ。


 ヴィオリカの目の前で、三つの石が自分を見ているように揺れた。


 青は温かく、

 緑は優しく、

 紫は静かに、

 彼の心を覗き込んでいる。


(俺がどんな魔法を使い、どんな道を歩むのか……)


 情熱のアルメリアではない。

 力のグラディオンでもない。

 知識のリュミエールでもない。


 ヴィオリカは迷った末、

 “自分の魔力が最も強く引かれている色”に手を伸ばした。


 ――紫。


 指先が触れた瞬間、影の魔力が彼の腕へ流れ込む。


 影が螺旋の形になって胸へ吸い込まれ、

 次の瞬間――


 紫の紋章が胸元に刻まれた。


「ノクスフェル寮配属!!」


 教師の声がホールに響き渡る。


 観客席がどよめき、

 魔力石ノクスフェルが満足げに低くうなる。


(……俺、ノクスフェルなんだ)


 影と静寂と探究の寮。

 魔法の“奥”を追い求める者たちの場所。


 思っていた熱でも、光でもない。

 でも――妙にしっくり来る。


 胸の紋章が静かに脈打ち、彼の魔力と共鳴した。


 ◇


 ◆ノクスフェル寮――影と静寂の塔へ


 儀式のあと、ヴィオリカが外へ出ると、

 彼の足元に、黒紫の光の蝶がぽっと現れた。


「導きシャドウガイド……!」


 ノクスフェル寮に選ばれた者だけに現れる“案内魔法”。


 蝶はふわりと舞い、

 ヴィオリカを先へ先へと誘う。


 歩きながら、ヴィオリカは街の変化に気づく。


 さっきまで騒がしかった街の魔法が、静かに、深く、穏やかに変わっている。

 影が柔らかく揺れ、空気がすっと軽くなる。


 蝶が導いた先には――


 深紫の塔。

 窓には淡く光る影の紋章。

 空には黒い羽根のような魔力が漂っている。


 まるで夜そのものが建物になったような寮だった。


(ここが……俺の居場所か)


 胸の奥で、紋章が静かに燃える。


 熱ではない。

 光でもない。

 影の、静謐な熱。


 蝶が塔の門へ吸い込まれていく。


 ヴィオリカも一歩、足を踏み入れた。


「――ようこそ。“影の賢者”の寮へ」


 薄暗いロビーから、低く美しい声が響いた。


 その瞬間、ヴィオリカの新しい生活が動き出した。


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