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星歌とヴィオリカ  作者: やつさき
第2章 英雄学校試験編 魂懐
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第58話 サクソフォン 煌めきの明星 その4


 ヴィオリカの体は火傷と裂傷でぼろぼろだった。呼吸は浅く、視界は紙一重で揺れている。

 だが、脳だけは妙に冴えていた。疲労の淵でこそ掴める「微少な変化」に彼の目は執着する。


(ここまで追い込まれて、まだ“勝ち筋”がないとは言わせねえ――いや、勝ち筋なんて単体で存在しねえ。いっぱい並べて、相互に噛み合うようにしちまえばいいんだ)


 ヴィオリカは自分の残りフラグメント(鎖)を頭の中で並べ替えた。やれることは三つだけだ。


 ひとつは相手の膜に小さな欠陥を何度も生ませることで累積摩耗を加速すること。

 ふたつめは、自分を導線にして電流を返すことで相手のリソースを自分に寄せること。

 みっつめは、その“寄せた電流”を逆手にとって瞬間的な過負荷を作ること——


 ただし、どれも単独では致命的でない。だが同時に起こると、破綻が生まれる。


「読め……勝ち筋を全部消すつもりか?我の逆算はそこまで甘くないぞ」


 ロスリエルの声が冷たく響く。その瞳はまだ余裕があるように見えた。


 だがヴィオリカは確信していた。

 膜が再構成するたび、その内部演算が微かに遅れる瞬間がある。そこを積み重ねれば“必ず”穴が開く。


 ヴィオリカはまず、意図的に“見える”攻撃を仕掛けた。大仰な振りで複数の鎖を飛ばし、ロスリエルの注意を散らす。


 彼の狙いは「注意の分散」ロスリエルがどれに対処するか瞬時に判断する、その瞬間にある微小な膜の再配置に差を生じさせる。


 ロスリエルは徹底的に観察し、狙った一本を消すように見せかけ、別の一本を無効化した。ヴィオリカの演出は半分成功した。


 だが彼はそこで満足しなかった。散らした鎖のうち三本を“敢えて”当てにいかせ、その反作用で生じる電流の帰路をあらかじめ設定しておく。言わば誘導路だ。


(ここからが本番だ。相手は“電気は返ってくる”と思う。だが俺が用意したのは“相互帰還”。ロスリエルと俺、両方に帰るようにする)


 次の動作は残酷にシンプルだった。ヴィオリカは自分の体の一部、具体的には心臓に近い鎖の一節を“敢えて露出”させた。

 そこを相手の電撃が通過するように配置する——自分を導線にする覚悟だ。


 普通なら自殺行為だが、ヴィオリカはその導線を複数の“並列”に分岐させ、もう一方の端をロスリエル自身に巻きつけるように仕込んでいた。


 つまり電流の一部は自分を通り、もう一部はロスリエルに還る。帰路が“交差”する瞬間に生じるのは、同位相での干渉か、あるいは位相差による過負荷だ。


 ロスリエルの方でも観測器は働いていた。ヴィオリカが自分を導線にするのを見て、薄い笑みが浮かぶ。「やるな」と。


 一見彼の勝ちに見えた。


 だがロスリエルは、ヴィオリカが“並列”を作っているのを読み切れていなかった。彼はまだ、単一の帰路としてしか計算していない。

 ここで起きるのは“計算の前提”のずれだ。そう、「仮定の崩壊」。


「来い、全部返してみろ。我の全能で受け止めてやる」


 ロスリエルは拳を突き出し、全エネルギーを放射した。空間が震え、観客席の声も届かない。光の海がヴィオリカを包む——


 だがヴィオリカは笑っていた。


 なぜなら彼の“帰路”は既に閉じている。目論見通り、電流は並列分岐してロスリエルの別の箇所へと跳ね返る。ロスリエルがそれを全て吸収しようとするたび、膜の内側で演算が連鎖していく。小さな摩耗が波紋のように拡大していく。


「ッ!」


 ロスリエルの身体が一瞬、波打った。まるで内部の導線が痙攣したかのように。ヴィオリカはそのわずかな歪みを見逃さない。累積――それがついに致命的なラインに達しようとしていた。


(行け! 全部乗せる! 一気に軋ませろ!)


 ヴィオリカは最後の賭けに出た。分解鎖形を最大まで展開し、身体の全てを鎖の“網”に変形させる。だが今回は違う。


 中心を固定せず、網目を流れる電流の位相差を人為的に作り、干渉を誘発する。言語化すれば簡単だが、実行は狂気じみている。


 自分の肉体の一部を“位相調整器”として差し出すのだ——受けた電流の位相をずらし、返す電流と干渉させる。


 ロスリエルも全身の膜を強化して応戦する。だが“膜”の再構成にはエントロピーが伴う。ヴィオリカが狙った通り、再構成のコストが蓄積し、微小だが不可逆な損耗が発生する。


 電流が交差するポイントで熱と雑音が生まれ、膜の密度が崩れる。ついにロスリエルの瞳がわずかに曇った。


「馬鹿な……その手があるか」


 ロスリエルは焦りを見せないよう努めるが、指先の震えがそれを裏切っている。だが彼も王候補だ。ここで崩れるわけにはいかない。


 ロスリエルは最後の反撃として、自らの魂魄を凝縮させた“終端”を作り、全電力を一点に集めて強制的に膜を再結晶化しようとした。


 それはリセットに近い荒業だ——成功すればヴィオリカの計算は泡と消える。


「これで終わりだ!」


 両者の意思が同じ瞬間に爆発した。ロスリエルの終端が閃き、ヴィオリカの網目が光を帯びる。観客の視覚が追いつかないほどの速さで、エネルギーの奔流が干渉を繰り返す。


 光はねじれ、電流はうねり、位相が裂ける。空気が焼け、魂魄の囁きが一瞬だけ人の言葉に近づく。


「ここで――決める!」


 ヴィオリカは叫びと同時に自らの“中心”を解除し、網目全体を崩壊させた。それは同時に導線の役割を終わらせる合図でもある。電流の返り道が消え、残るは干渉で歪んだ電磁場と、収束しきれないエネルギーの塊だ。


 ロスリエルはその瞬間、皮肉にも本気で微笑んだ。彼もまた全てを捧げる覚悟を決めていた。終端が弾け、彼の魂魄の膜が限界を超えた。


 光の階梯が一つ、二つと崩れ、最終的に二人を覆っていた“形”の輪郭が吹き飛んだ。


 大爆発――ではない。もっと凄惨で、静かな終わりだった。光と光がぶつかり合った場所は、ただの空白へと変わり、残されるのは粉塵と、静寂、無傷で気絶している2人と、ミレフリア・カタストロフだった。


 観客席からは信じられないほどの沈黙が落ちる。誰も声を出さない。時間だけが、ゆっくりと動く。


 数秒、数十秒、時間が経ち、地面に落ちていた鎖がゆっくりと静止する。かろうじて残った破片が、瓦礫の合間で光を帯びている。しかし、ロスリエルの鎧も、ヴィオリカの鎖も、どちらも土に還るよう崩れ去った。


「……相打ちだな」


 どこかで、かすれた声が漏れたような気がした。だがそれが誰の声かを確かめる者はいない。闘技場にはただ、風が通り抜ける音だけが残った。


 二つの魂魄闘技が真っ向からぶつかり合い、互いの“全て”を削り合った結果。勝者も敗者もない、ただの等価交換。


 だが確かなものが一つだけある——この日、この闘技場で示されたのは、王の覇道でも、英雄の独裁でもなく、二人の信念が互いを認め合ったということだ。



なんかバトルが難しくなっちゃいましたね。ここで補足すると、魂魄闘技を使ったらハイになっちゃいます。どっちも口調が荒くなってるのはそのせいです。


あと、ロスリエルが異常に強いのは、覚醒した直後だからです。覚醒した直後には、その魂魄闘技の潜在能力がだいたい解放されます。


ロスリエルの能力は難しいです。使い方が分からないと弱いため、今回はヴィオリカと相打ちになってしまいました。


ヴィオリカの場合は、鎖ということもあって罠とか鞭とか使い方が簡単ですよね。潜在能力が解放されてもある程度簡単なのと、覚醒直後なのもあって結構カンムと張り合えちゃいました。


そこで、覚醒直後のロスリエルと相打ちということは、とある疑問が生まれますよね。


今のヴィオリカはかつてのカンム程の強さを手に入れたのか?はたまた─────





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