第45話 不遜なるトランペット:悪党のブレイブマーチ
ボス部屋の閉じられた扉から、光が差し込む。そして、トランペットの音色が聞こえる。
俺も、自称魂魄闘技の男も一斉にその方向へと顔を向ける。そこには、巨漢がいた。いかにも悪そうな小悪党と言った感じだ。その男が沈黙を破る。
「煙がくゆりくゆりと立ち込め、空気が鳴く。これァ俺の登場の合図だ。
俺の名前はサリット。子分どもにガキが最近世間を騒がしてる組織の野郎共に襲われてるだのなんだの言われたんで助けたら、誘拐されたんだってガキがいってたよ。別に俺らは正義の味方って訳じゃあねえ。」
男は不遜なる態度で葉巻を吸いながら言葉を紡ぐ。
「だが、ガキから頼られる。気に入らねえヤツらが気に入らねえ事してる。それで駆けつけないヤツがいるかよ。」
この顔見たことあるような?···
思い出した!初めて冒険者ギルドに行った時、手取り足取り教えてくれたサミットさん、絶滅動物保護ギルドに寄付してたサギットさんに似てる。
サリットの身体か漏れ出る煙が自称魂魄闘技マンの口を覆う。自称魂魄闘技マンは瞬く間に泥のように眠った。
「大丈夫か。」
「こいつは、俺の魂魄闘技らしい。そう言ってた。この身体を乗っ取るつもりなんだったと。俺を誘拐したやつはこいつに殺された。」
「ほう、魂魄闘技に乗っ取られたのか?相当強力な力なのか。だが制限時間とかは分かるはず···いや、そうせざるおえない状況に陥ったのか。」
自称魂魄闘技マンの身体がピクリと動く。
「我は···我は眠らん。我は負けん。我は血肉を求める。我の邪魔をするものは排除する。我の名は崩鎖点!破滅をもたらす澄んだ黒だ!濁りきった白には負けん!」
アイツ崩鎖点とかいう名前なのか。なんかキレてる。因縁でもあんのか?
「あっちいってろガキ。後学の為に戦いは見てていいぞ。安心しな、手はださせねえし、流れ弾すらださねえ。崩鎖点、ここで会敵するか。」
俺は指示通り逃げて、物陰に隠れた。見学と洒落こもう。ひとまず整理しよう。乗っ取られてた間の記憶は無し。カンムの死体は確認。
どうやってあんな風にやったんだ?鎖でねじ切ってもあんな摩り下ろしたような断面にはならないだろう。あの鎖の力にはまだ奥があるのか?この戦いで見れるといいが···
なんで俺はこんなに冷静なんだ?おかしいだろ。転生で何か根本から変わったのか?少し怖いな···この話はやめておこう。それより、戦いが始まったぞ。
崩鎖点が鎖をムチのようにしならせる。俺の物とは大違いの威力だ。やはり覚醒したばっかりだと馴染んでないとかで威力が変わるのだろうか。
サリットはその攻撃に身体から発生させた雲で受け止める。さらに、雲で鎖を巻き取っている。崩鎖点は鎖を断ち切り、対処した。
空中に浮いた崩鎖点が、四肢を鎖化させ、数多の鎖をサリットに向かわせる。サリットは全身を煙化させ、鎖を避けながら崩鎖点へと向かう。そして、崩鎖点に肉薄し、顔だけ顕現させる。
「よお、崩鎖点さん。」
「相変わらず忌々しい。」
サリットの雲は龍のように畝り、いつの間にか顕現したサリットの拳に纏わりつき、その拳で崩鎖点を殴る。
「馬鹿め!」
躱したと思われた鎖は、いつの間にか方向転換し、サリットの背中を打ち付ける。サリットは衝撃でカハっと声をあげ、拳の威力は減衰してしまった。だが、崩鎖点の顔に当たった拳についていた雲は、崩鎖点の身体にひび割れているような傷をつける。
怯んでしまったサリットはそのまま鎖でめった打ちにされ、身体のあちこちから血をだす。大丈夫なのだろうか。
「煙の漢サリット!この程度で怯まんぞぉ!雲濘!」
サリットの背中から、煙が溢れ、Xのような形を作る。サリットをめった打ちにしていた最中に距離をとっていた崩鎖点に物凄い速度で落下するように向かっている。
「こういう時はなんて言うんだっけか!思い出した!さらに向こうへ!プルスウルトラァァァ!!」
俺は、サリットという名前を聞いていた。物凄い極悪人なんだと。サリットは人を脅し、自分のいい噂を流してるとか、女子供でも容赦しない畜生とか、色々な話だ。
だけど、セリフといい、行動といい、俺にはヒーローにしか見えなかった。正義の味方じゃねえ発言はどこにいったのだろうか。
「いつの時代だってお前は忌々しい!私の邪魔ばかり!」
サリットの雲を纏う拳に、崩鎖点の鎖を纏う拳がぶつかり合う。自由に彷徨う雲と、不自由を迫り縛る鎖は、綺麗に対比しているように見えた。
「小僧!見とけっつったのは嘘だ!ありゃあお前の魂魄闘技だ!仕舞え!」
その声を受けた瞬間、俺は考える前に走っていた。何故か嬉しかったのだ。今の俺の目を見て欲しい。絶っ対キラッキラだ。
崩鎖点へと近づく。近づくにつれ増す威圧感に、段々と後ろ髪引かれるような気分になる。足が竦んでいく。
「これは、お前にしかできないんだ!」
サリットからの一言。たった1つだけで勇気が湧く。何故なのだろうか。いい歳した大人が仮面ライダーを見るためにテレビに張り付いている子供みたいな気持ちになっている。
俺は、ジャンプして崩鎖点に近づき、左手を向ける。どこからか飛んできた鎖で左腕があらぬ方向に曲がった。サリットに向けている意識が多いのだろうか。本来なら腕を貫通して真っ二つの筈だ。
「まだ腕はある...!」
右手で崩鎖点に触れる。崩鎖点が黒い霧となり、俺の身体へと吸収されて行く。
「白臥ァァァ!」
崩鎖点は完全に俺に吸収された。疲労困憊の俺は、そのまま自由落下したいく。
(あ...不味った。折角この戦いを切り抜けたのに...)
「おっと、あぶねえな。」
サリットがキャッチしてくれた。安心感が物凄い。煙が俺を包む。
「寝とけ。」
◇???
杭はちゃんと作動しているようだね。
いやー物凄い戦いを見れた。ただ、途中で杭が外れたような感じがしたな。
···いや、まさかね。可能性として考えておこう。どう成長するか見ものだ。
サリットの裏で流れているトランペットは、悪党の詩とか、ヒプノティック ブラス アンサンブル ウォーって調べたらイメージが着きます。
サブタイに、グロッケンシュピールだのトランペットだのついているのは結構というかかなり重要です。
グロッケンシュピールのセツナとサリットは楽器持ち(プレイヤー)です。
プレイヤーは物語が進むにつれ、増えます。
コンダクターはプレイヤーに共鳴します。プレイヤーとコンダクターは共に道を歩みます。




