第44話 壊蘭罰敵 終
あの身体が全て鎖になったモードを解除したのは理由があって、俺はあれ以上あのモードを続けていたら、もう元の身体には戻れなくなっていただろうからだ。
身体の構造を無意識下で忘れてしまって、多分あの亜人に出てくる黒い幽霊的な身体にしか戻れないのではないか、という”勘”があった。それで、色々考えた結果その勘に従った。
多分短時間に何度もあの形態に移っても、その無意識下で身体の構造を忘れる間隔が短くなるだけではないのだろうか。
別に部分的に鎖にする分には良いと思うし、あの形態の強さを考えるとそんな条件があってもおかしくないとは思う。
どうせならあの形態にカッコイイ名前を付けたいな。分解鎖形とかどうだろうか、厨二臭っせえ!!
まあそれは良いとして、一先ずはカンムだ。俺がバフを受けた時の全能感とか高揚感とかは色々本当に半端なかった。元から強いカンムのフィジカルとかを含めるとどんだけ強くなってるかは・・・想像したくないかもしれない。
そして、カンムの魂激空間の油断すると物凄いデバフとやらがかかると言う性質上、カンム自身が油断してしまわないように、精神を鍛えているだろう。
そこからはじき出される結論は、カンムはやばいくらい強いって事だ。まあそれはとっくに知ってるつもりだけど。フィジカルも何もかも負けている俺がそれに打ち勝つには、それなりの創意工夫とかがいるだろうな。
正直、この能力には多分俺が知らない力とかもあるだろう。それを見つけて、試して、とにかく勝つ可能性を少しでも上げるんだ。
「先にこっちから行くぞ、小僧。」
カンムが超スピードで向かって来る。だが、見えるようになってきている。速いのには変わりないけどね。
攻撃は単純だ。フツーの腹パン。だけど、クソ速いから避けられん。そこでどうするかと言うと俺はちょうど腹パンが来るであろう部分を鎖にして空洞を作った。カンムの腹パンがスカったら空洞を縮め、カンムを捕獲。完璧じゃないか?
作成は・・・成功した。しかも、鎖の締め付ける力が強いのか、手首を切断出来そうな気配すら感じる。だが、カンムの超パワーによって抜けられてしまった。
「ふむ、今のは流石に危なかった。あと数瞬でも、抜けられていなかったら俺は右手とおさらばだったろう。」
「お前ぶち込む先もなさそうだしなあ?右手がないとひとりで出来なくて困るかあ?かかってこいよ、実質的に去勢してやる。」
「お望み通りにしてやるよ。」
瞬間カンムが消えた。それと同時に、俺の身体も横に引っ張られた。俺がいた場所を見ていると、クレーターが出来ている。クレーターの上には鎖で腕を地面に縛られているカンムがいた。
賭けは成功したようだ。俺は、周辺に鎖をばらまいていた。そして、鎖が誰かに踏まれたりしたとき、身体を横に引っ張られ、俺がいた場所に大量の鎖が襲うという罠を展開していたのだ
もちろん、俺が引っ張られる方向から攻撃されたら終わるし、以外とガバがあったが行けた。
カンムを縛っている鎖の締め付けを強くする。
(右腕がとれた!このまま足も・・・)
そう思った瞬間、カンムが消えた。そして俺の目の前に現れ、こう言った。
「すまんな小僧。正直に言うと油断していたよ。じゃあな。」
ストレート!即座に鎖でガードしなければ!いや、これは間に合わない───
身体全体を鎖に変化するしかない!俺の勘が駄目だといっているがやる!
俺は身体を全部鎖にした。結果、まだ意識はあるし、元の身体にと戻れる。俺の思い違いか?とも思ったが、やはりそうではなさそうだ。じりじりと焦燥感とか色んな物が襲ってくる。
辺りに鎖をとにかくばらまいた。そこから自分の腕を生成したりして、攻撃する。殴る以外にも、手から魔術を放ったりもする。効いているかは・・・考えないようにしておこう。やはり、カンムに致命傷を与えるには鎖しかないと思う。
鎖でカンムの足を絡めとったり、ムチのように打ち付ける。結構効いてはいるみたいだが、そろそろタイムリミットだ。また緊急で回避する時用に時間は残して起きたいからそろそろ出現しなければ。
「よう、また会ったな。」
「ふっ、殺す。」
挨拶もなしに殺すかよ。だいぶ殺意に染まってるみたいだウォッ!?ローキックは足を鎖化して回避、そのまま回し蹴り・・・は上半身全て鎖化!
出来た隙に拳に鎖を巻き付けて攻撃を・・・
カンムの拳が光るのが見えた!ここで攻撃してはだめだ!退け!
俺がさっきいた場所から、物凄い衝撃がした。衝撃波でぶっ飛ばされた。その隙にカンムは追撃をしようとしていた。
俺は・・・分解鎖形をした。
◇カンム
このまま追撃を・・・チッまた消えたか。だが、良いだろう。こういうあまりに強すぎる能力ってのには時間制限がつきものだ。俺の経験則上、この感じだと、”時間をオーバーしたら自我が無くなって能力に従い全てを破壊する魔人になる”とかだろうな。ガキが相打ち覚悟でっていうのなら俺は死が確定するが、それはないだろう。
ガキは魂魄闘技に覚醒してそんなに経ってねえって言うか、覚醒直後だ。全身の鎖化もそこまで長くは持たないだろう。本人もそれは自覚している筈だ。それに、緊急回避用の全身鎖化時間も残して起きたい筈だから、直ぐに出てくるだろう。
・
・・・
・・・・・・
出てこねえな。何故だ何故だ何故だ。俺が見誤ったのか?ガキの全身鎖化時間が思ったより長かった?
いや・・・違う。
や ら れ た
ここは今、道蘭嚥下の猛窟の地下6階。このダンジョンは全部で地下7階ある。あのガキも馬鹿じゃない、転移で誘拐して戦ってんだから、大分奥の方ってんのは理解してるだろう。あのガキがここは地下7階までだと知っているなら?まずいな。
俺ならコアのある場所まで行き、コアを壊した後に、転移の魔法陣でダンジョン外まで逃げる。ガキを攫った場所は1階だから、ダンジョンが崩壊するまでには逃げ出せるだろう。
だが何故だ?あのくらいの年頃のガキで、ここまでの精神力。何かがおかしい。強さはまあ良い。才能に恵まれてたとか親に身体を弄られたとか理由が付けれる。
稀に現れるニホンとかいう異世界から転生してきたやつか?いや、そいつらは物凄い才能と強さがあるが、あれほどの精神力がない。余程平和な国で育ったのか、動物を解体するだけで吐いたりするしちょっとの怪我でも泣き喚く。
「チッ···考えても埒が明かねえか。」
全速力でコアのある部屋まで向かう。下への階段は何処だったか?···くそ、ちゃんと覚えておくんだった。えーと、この道を右だよな。モンスターか。
「邪魔だ。」
モンスターを一蹴して、自らの記憶に従い進んで行く。分からない所は勘も利用しつつ進んでいく。
下への階段!見つけたぞ。しかも血痕もある。なら、ガキも下へ行ったと見ていいな。
7階からボス部屋までは一直線だ。コアを破壊する前に向かおう。
◆ヴィオリカ
今、分解鎖形で逃げ、コアを破壊している。中々に硬いな。アイツも馬鹿ではないしそろそろ気づくだろう···って思ってましたよ私は。
「思ったより早かったじゃあないか。」
「俺と戦いながらコアの破壊、破壊後も転送陣の奪い合いだ。お前の負けだよ。」
「分解鎖形」
全身が鎖化する。ジリジリと、このままでは俺は俺では無くなってしまう。魂魄闘技に乗っ取られてしまう。という焦燥感が襲うが、お構い無しだ。
「分解鎖形、あまり長く続かないだろ。そいつぁ強すぎる。制限時間付きだろう。良いのか?それはお前も分かってるはずだ。・・・はぁ···そういう事か。いいぜやってやる。」
瞬間、カンムの威圧感が2倍3倍に膨れ上がったのような感覚が襲う。今の内に地味なダメージを与えておくか。四方八方に巡らせている鎖をカンムに打ち付ける。
そろそろか...
感覚で分かる。意シキが段々ぅスクなってイク。思い出した。本当のこの魂魄闘技のカタチを。
自らの身体を形成していく。これではない。ヴィオリカ・シャトーカノンの肉体では無い、異形の姿へと。
「我の名は崩鎖点。鎖綻、そう呼ぶ者も居るが、どっちでもいい。カンム、君の名を聞こう。」
「カンムだよ。さっき自分で言ったくないか?」
「その名では無い。魂の名だ。」
「黎明発破だ。」
カンムがそう発すると、崩鎖点は笑った。それはまるで、旧友にあったかのような懐かしみの笑みとも、殺し合いを期待する笑みともとれた。
「やろうか、我なりの殺気を見せよう!」
カンムは殺気を受け、初めて鳥肌がたった。ただただおぞましかったのだ。それと同時に、殺気関係の魂魄闘技を持っている自分が更に技を極めれば、これ以上までの域へと到れるのだろうか?という期待もあった。
崩鎖点は小手調べに、鎖をしならせカンムに向かわせた。その攻撃はヴィオリカのそれとは倍以上の威力を持っていた。それを、軽々とカンムは避けた。
「ふむ、思っていた何倍もやれるようだ。」
崩鎖点は鎖を渦巻きのように巻いた。その鎖は体積はそのままに、段々と圧縮され、黒くなった。光すら通さない程の黒だ。
カンムは、その黒い何かから目が離せなかった。その異形の何かの発する雰囲気があまりに異様だったからだ。
「崩点:ボルテックス」
黒い何かから鎖が渦巻きのようにしてカンムに遅いかかる。カンムは右腕を犠牲にしてそれを避ける。
「堕廻点:凛集超徒」
猿のような小鬼が崩鎖点に遅いかかる。だが、崩鎖点は黒い粒のようなものを散弾のように飛ばし、それに貫かれ小鬼は消え去った。
「崩点:破滅鏡」
崩鎖点の右手にある何かがひび割れた鏡のようになる。何かからとてつもない引力が発生し、カンムが吸い込まれた。カンムは真っ二つになって死んだ。断面はすりおろされたようになっており、辺りには血が飛び散っている。
「さて、どうしようか。まずは地上へ行き、蹂躙。この身体はまだ弱いから鍛錬も必要だな...ん?」
崩鎖点の身体が勝手に動き、妨害してくる。やがて身体の制御はきかなくなり、見た目も完全にヴィオリカに戻った。
ヴィオリカの身体から黒いモヤがでる。そのモヤが形を成し、崩鎖点の姿をとる。
「鎖がだせない...」
「当たり前だ。お前の魂魄闘技は私だからな。いい加減早く俺の肉体を返せ。」
「俺のだぞ。」
「奪うまでよ。」
ヴィオリカは叩きのめされた。肉体への影響に配慮してか、四肢の欠損などはなかったが、身体を鎖で固定化される。
「さて、始めようか。」
「ペッ。地獄に堕ちろよ。いきなり出てきやがって。」
崩鎖点の額に青筋がピキリと浮き上がった。顔からは怒りがあからさまに感じられる。
ヴィオリカは諦めていた。乗っ取られていた際の記憶はあったため、どれだけこいつが強くとも誰かが自分を殺してくれるだろうとなっていた。
─────そこに、不遜なるトランペットの音色が差し込む─────




