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17 彼の家族


屋敷では、すでに昼食を用意してくださっていた。

荷物は使用人が部屋に運び込んでくれると言うので、私とエリアスが案内された席に座ると、ご家族も同じテーブルに座った。


「移動ばかりで疲れただろう。ゆっくり休むといい」


エリアスのお父様が優し気に表情を緩めて言った。エリアスは表情も変えずに答える。


「はい。でも今日は昼食の後、マチルダを街に案内したいと思っています」

「エリアス、帰って早々動き回るなど。マチルダさんのことを思いやったらどうなの」


私は騎士で体力がある。お気遣いは嬉しいが、これから外出しても全く問題ない。


「コルネリア様。大丈夫です。私から、領地を見て回りたいと彼に願ったのです」


コルネリア様とはエリアスのお母様の名前だ。エリアスから事前にご家族の名前を聞いていたのだ。コルネリア様は嬉しそうに顔を輝かせた。


「マチルダさん、名前も良いけれど、お母様と呼んで下さってもよろしいのよ」

「お母様、ずるいわ!マチルダさん、私のことはハイデマリーと呼んで」

「マチルダ嬢、私のことはお父様……いや、ディートリヒでもいいな……」


エリアスの家族は皆楽しい人たちのようだ。彼らの求める呼び方をそれぞれ一巡すると、彼らも満足そうな表情となった。エリアスは辟易したような表情になっている。


「ハイデマリー。今日、子どもたちはどうしてるの?」

「連れてきてるわよ。今は下の子二人が昼寝してるから、三人まとめて後で会ってやって」


ハイデマリー様の子というと、将来的に私の養子となる可能性がある子どもたちだ。私も会った方がいいのだろう。エリアスもそのつもりで彼らに気を回しているのだ。


(余計なことを考えてはいけない)


「ハイデマリー様。私もお子様たちにお会いしたいです」

「もちろんよ!義理とはいえ甥と姪になるのだもの。夕食では同席できるようにするわね。まだ幼いから見苦しいところがあるけれど、それは見逃してやって」


彼らとは夕食で対面できるようになった。五歳の男の子、三歳の女の子、一歳の男の子だという。

その後も昼食は和やかに進み、エリアスがそろそろ行くと言ったことで終わりとなった。




予定通り二人で馬車に乗り込むと、エリアスは一息ついた。気が緩んだらしい。


「ごめんなさいねマチルダ。私の家族が」

「なぜ謝る?素敵な方たちだった。それにしても、エリアスはご家族の前だと言葉が少なくなるのだな」


私の指摘に、エリアスは心なしか顔が赤くなる。


「そう言われると何だか恥ずかしいわ。でも、あなたに家族を受け入れて貰えてよかった」


エリアスが心底安心したという顔をした。私は胸が詰まるような感覚を覚えた。



少し馬車が走るとすぐに伯爵領の領都に着いた。馬車から出ると、私は眼前に広がる街の光景に目を奪われた。

かなり大きな街だ。街は清潔で、人が多く活気にあふれている。ところどころに緑が配置され、道も整備されている。道は整然と人と馬車の区分けがされていた。

ここは近隣の領の交通の要衝として発展してきたらしい。そのためか、様々な商品が販売されている。王都以外では珍しいことだ。


「凄い街だな」

「そうでしょう?結構自慢に思ってる。私が伯爵位を継承してから発展したの。商人への規制を緩和したり、街道を整備したり、試行錯誤よ。私が清潔でない街が嫌だから、そこも頑張ったわ」

「うん、道が舗装されていて、街が清潔だと印象が全く違うな。色んな街へ行ったが、ここは素晴らしい」


私が称賛すると、エリアスは心底嬉しそうな笑顔になった。麗しい顔が、更に眩しくなる。


(ずっとこんな笑顔をしてくれていたらいい)


彼が守りたいものは何だろう。彼が成したことは何だろう。

エリアスのことが、もっと知りたい。


「人が増えすぎても、それはそれで問題があるの。今はそれをどう解決するかを考えてるわ。街を無計画に広げる訳にもいかないしね」


エリアスは子どものように輝く笑顔で熱心に彼の考えを聞かせてくれた。

私は彼の話に、ただ聞き入っていたのだった。




街を一通り巡り、屋敷に帰ると、夕刻になっていた。

屋敷に入ると、既にご家族が私たちを待っていた。ハイデマリー様は小さな子供を腕に抱いていて、その隣に可愛らしい子どもたちが立っている。彼らがハイデマリー様の子どもたちだろう。

ハイデマリー様は私達に気が付くと、子ども達に言い聞かせた。


「ほら、イザーク、ナターリエ。ご挨拶なさい」

「こんにちは、エリアスおじさま、マチルダさま」

「こんにちは……」


二人は、はにかみながら私たちに挨拶してくれた。

兄のイザークは幼いながらもキリリとした表情だ。妹のナターリエはイザークにくっついて興味深そうに私たちを見上げている。

本当に愛らしい。エリアスは彼らに近付くと、それぞれ頭を撫でた。彼らは嬉しそうエリアスを見る。


「久しぶり、イザーク、ナターリエ」

「うん」


イザークが答え、ナターリエは無言で頷いている。私は彼らに合わせて体をかがめた。


「初めまして。私はマチルダというんだ。よろしく」

「はじめまして」


私にも同じようにイザークが答え、ナターリエが頷く。可愛らしい二人に私の頬は緩む。ハイデマリー様が私の横に来て腕の中の子どもを見せてくれた。


「そしてこの子が末っ子のヴィクトル。一歳でまだ話せないわ」


ヴィクトルは人見知りなのか、ハイデマリー様の胸に掴まってこちらを見ようとしない。頬がぷっくり膨らみ、まだ赤子らしいフォルムだ。


「ヴィクトル、大きくなったね。もう歩く?」

「ようやく一人で立てるようになったところよ。もう少しかしら」


エリアスは当然ながら甥と姪を可愛がっているようだ。柔らかい表情で彼らを見ている。彼は子どもが好きなのかもしれない。


「ヴィクトル。初めまして」


私はヴィクトルの顔の位置に移動し、彼に挨拶した。彼はじっと私を見ると、パッと表情を明るくした。ハイデマリー様は意外そうにそんな彼を見ている。


「まぁ、珍しい。この子人見知りなのよ。マチルダさんのこと気に入ったのね」

「ふふ。こんなに可愛い子に好かれるなんて嬉しいです」


やり取りを見ていたエリアスが試しにヴィクトルの顔の前まで移動すると、彼はぷいっと顔を隠してしまったので、エリアスは憮然とした。


「お前……マチルダは、私の婚約者だよ」

「子どもに向かってなに言ってんのよ。あんた本当に私の弟?」


ハイデマリー様は呆れたようにつぶやいたのだった。



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