雪の風邪
夏に私の部屋で雪が降っている。6畳の部屋の小さなちゃぶ台の上で小さな人型の者が両手を上げ祈るようにしていた。最近熱く苦しかった部屋の中が妙に快適だと起きた私は思ったが、私は小さなそれを見てまだ夢の中にいるようだとまた布団の中に潜った。
少しすると頭の辺りが冷たく感じた。仕方なく私は布団からもぞもぞと這い出すと小さな人型が枕元に立っていた。
「もし、そこのお方。私の仲間を知りませんか?」
人型は私に話しかけているようだった。それはサンタクロースの様な小さな帽子をかぶり白いモコモコとした服を着ていた。そして、その上には夏には似つかわしくはない雪が降っていた。私が驚いていると人型は何かを察したのか続けて話し始めた。
「申し遅れました、私は雪の妖精です。」
その言葉を聞き私は思わず笑ってしまった。
確かに小さいし顔もないから人形の様に見えなくもなかったが、さすがに雪の妖精は無いだろうと思えたからだ。
しかし、そんな事を考える私とは裏腹に人型はそれを気にしている様子はなく続けた。
雪の妖精と名乗るそれは私の周りを見渡しながら言った。
私は自分の周りを見ると先程まで寝ていた場所には何も無かった。どうやら雪の妖精はその仲間を探しているらしい。
そこでふと疑問に思い聞いてみた。
どうしてここに居るんだ? 何故この部屋にだけ降るんだ? と。
雪の妖精は私の質問を聞くと下を向いてしまった。
その姿を見た私は慌てて言い直そうとしたが、それより先に雪の妖精は答えてくれた。
私はこの家に住む人間達に迷惑をかけてしまったのです。だからこうして仲間の雪達と共にここに来ました。そう言って悲しげな声で俯いたままだ。私は何も言わずただ聞いていた。すると突然雪の妖精は立ち上がり私の方を向くと言った。
あなたはこの家の主ですね? 私はそうだと答えた。すると雪の妖精はこちらに手を伸ばしてこう言った。
お願いします。どうか私達の事を誰にも言わないでください。そして、私達が居たことも忘れてください。きっともうすぐここは寒くなります。そうなれば私達は消えてしまいます。でも、仕方が無いんです。だって人間は冬になると寒いと言うじゃないですか。
それに、夏になれば暑くて溶けてしまうかもしれない。だからせめてそれまでだけでもいいんです。私達をここに置いて下さい。お願いします。
雪の妖精の言葉を聞いた私はしばらく考えた後ゆっくりと口を開いた。
分かったよ。君たちの事は秘密にするしここには置いておく。ただし、条件がある。
雪の妖精は安心した様に息をつくと笑顔になって答えた。
ありがとうございます!
それで、条件とはなんでしょうか? それじゃあ一つ約束してくれないか?絶対に他の人に姿を見せないこと。それと、ちゃんと屋根のある場所で暮らしてくれ。それが守れるならここで一緒に暮らせば良い。
雪の妖精は嬉しそうに飛び跳ねると何度も頭を下げお礼を言ってきた。
私達は寒さに耐えられるように出来ていますから大丈夫ですよ。本当にありがとうございます!それでは早速ですが屋根をお借りしてもよろしいですか? そう言うと雪の妖精は窓際にある物置用の小さなベランダに降り立った。そしてそこにあった椅子に乗ると何も無い空に向かって手を合わせた。私はその様子を見て不思議に思った。まるでそこに誰かがいるみたいじゃないかと。しかし、そこには誰もいないはずだ。私は首を傾げながらも布団に戻り再び眠りについた。
目を覚ますと外は明るくなっていた。時計を見ると朝になっていた。私は眠い目を擦りながら起き上がりカーテンを開けると昨日と同じ光景が広がっていた。
雪の妖精はまだ祈っている様だった。私はその姿を見て少し可哀想になった。だが、仕方がない事なのだ。これがこの世界のルールなのだから。私はそう自分に言い聞かせると雪の妖精に声をかけた。
そろそろ朝ごはんを食べたいんだけど・・・。
私が声をかけるとその祈りをやめこちらに振り返った。
おはようございます。すみません。起こしてしまいましたね。
雪の妖精が挨拶をすると同時に雪も降ってこなくなった。私はそれを見て不思議な気分になりつつも返事をした。
ううん、別にいいんだよ。ところで君は何をしていたんだ? 私が聞くと雪の妖精は少し恥ずかしそうにしながら答えた。
実は私達には名前が無くてですね、だから仲間のみんなで話し合って決めたんですよ。これからはこの姿のまま生活する事になったんですけど、ずっとこの姿でいる訳にもいかないですし、だからとりあえず何か呼び名を決めようってなったんです。
私はなるほどと思った。確かに名前は大事だ。しかし、それは私にとっても同じ事である。しかし、雪の妖精は私のそんな気持ちなど知らずに話を続けた。
それでですね、私達の中で一番最初に生まれたのが私なんです。そして、次に出来たのがあの子でした。
雪の妖精はテーブルの上を指差して言った。
すると、いつの間にかちゃぶ台の上に雪だるまが座っていた。
私達の名前はその二人が考えてくれたんです。
雪の妖精がそう言うと雪だるまもこちらを向いて小さく手を振った。
その時にふと疑問に思い聞いてみた。
君たちはどうやって意思疎通をしているんだ? 雪の妖精は不思議そうな顔をしたがすぐに納得したような表情をして答えた。
ああ、これは念話と言って私達の間でしか出来ない会話です。
私はそれを聞いて驚いた。この子達はテレパシーの様なものを持っているらしい。確かに言われてみるとこの雪だるまからは雪の妖精の気配を感じる。しかし、それは微弱すぎてはっきりとは分からなかった。
でも、この子がこの家に居てくれるだけで部屋がとても涼しくなって助かります。だからこの子は私の相棒として一緒に居る事にしました。
雪の妖精はそう言って嬉しそうにしていた。