第6話 孤児院の敵
先程の事件に納得がいったギードとセリアはのんびりと二人で昼食をとった。事件があった食事処は第二孤児院の人達がどうにかしているだろう。
この時のセリアはどうしてもギードに訊きたいことがあった。それは孤児院の敵についてだった。聴きそびれたせいで気掛かりになってきたようだ。
肝心のギードは忘れたかのように食事をとっていた。それならば訊き出そうと思い切るが訊きそびれてしまっていた。食べながらの会話は難しかった。
隣りのセリアがそんな状態だと知らずにギードは黙々と食事をとっていた。実に美味しそうに食べていた。これでは終わるまでは難しいとセリアは感じた。
こうなったらと早食いしてさっさと終わらせようとしたが途中でギードの癪に障ったのかセリアを見始めた。セリアは気付かないで一生懸命に食べていた。
「これこれ。セリアや。そう慌てるでないぞ」
言われたからには気を遣わないといけないのかとセリアはかなり迷った。この時のセリアは余りにも身勝手だと怒られるのかな? と不安がっていた。
もし怒られるのならここは渋々でも聴いていたことにしていた方が無難だと感じた。だからセリアはギードの追い打ちを避けるべくゆっくりと食べることにした。
実に面倒なことだがセリアは食事をとる速さは遅くなっていった。余りにも遅いと今度はセリア自身が狂いそうだった。だって訳ありの早食いだったからだ。
「そうだ。もっと味わって食べなさい。せっかくの料理だからのう」
はっきりすれば今のギードは気に障るだけの存在だった。どうして気付いてくれないのだろうとセリアは厭きれ気味だった。このままではいつかは爆発しそうだった。
また静かな二人の時がきた。聞こえるのは周りの他愛のない会話。昼下がりだと言うのになんという賑わいなんだとセリアは感心した。孤児院にいた頃と似ていた。
それがまさか今日の内に閉鎖だなんて納得がいかなかった。それにギードは孤児院の敵を知っている感じがした。いいや。本人談なのだから確かなのだろう。
駄目だ。セリアの気持ちが心の底から溢れ返っている。もうそれは噴火のようだった。我慢が出来なくなったセリアは急に食べるのをやめ椅子を下げては立ち上がった。
「あーもう駄目! 師匠! 孤児院の敵ってだれですか!」
ついに大胆不敵に訊いてしまったセリアは後戻りが出来なかった。急に立った上に大声で訊いたので周りがざわつき始めた。本当は普通に会話がしたかったのだけど。
それでもセリアは座らなかった。孤児院の敵が気になりすぎたようだった。もうそれくらいに頭の中が孤児院の敵で一杯だった。早くしてそいつを止めないとと思った。
並々ならぬセリアの威勢にギードは物腰をあえて固めていた。なぜならここからは敵討ちになると感じた。ギードは堅いパンを皿の上に置き真顔でセリアを見た。
「そうだな。温かいスープが冷める前に言っておくかのう。すなわちお主の敵は――」
意味深な間を残しギードの言葉をセリアは最後まで聴こうとした。無言のままにセリアは固唾を呑んだ。ついに明かされるのだとセリアが緊張した証拠だった。
「財政難だろうな」
へ? だった。まさかの答えに気が抜けたが確かに聴いたことはあった。第一孤児院がまだ健在だった頃に国営であると。私営先は見つからなかったってことなのか。
余りの衝撃のなさにセリアは驚くよりも両目が点になっていた。このままではこの空気のまま夕方を迎えそうだった。いくらなんでもギードは待てないと付け足した。
「よいかのう。ただの財政難ではない。……ちょいとのう。ここでは話し辛いわ。場所を変えようぞ」
重要な会話なのだとギードはそう言いながらお釣りがくるほどのお金をカウンターの上に置いた。どうやらギードはお釣りを受け取る気がないようだった。
今はそれどころではないとギードは椅子を下げ立ち上がり店の外に出ようとした。セリアはギードが出ると思いついていった。こうして二人とも店を出たのだった。
店を出たギードとセリアは路地裏にいた。ここならば大丈夫だとだれもが思うほどに人の気配がなかった。逆に言えば子供であるセリアがくるようなところではなかった。
「師匠! ただの財政難ではないってどういうことですか!」
もう我慢の糸が切れていた。セリアは声を張り上げて訊くほどだった。耳障りだったのかギードは不愉快そうな表情をし人差し指だけ立て唇の上に当てた。
「し! 声が大きいぞ。よいかのう? 財政難の話だが……実は不審な点がいくつもあるのだ」
注意喚起した後はすぐに手を下げた。その後は優しそうな口調で諭すように言っていた。ギードの言葉を最後まで聴いたセリアはただの財政難ではないと感じた。
「よいか。まず第一にな。この王国は財政難になるはずがないのだ。なのにだ。まるで横流しがあったかのように消えておるのだ」
ギードの話を聴くとこの王国はどこかに税収などのお金を横流ししているらしかった。子供のセリアには少し難しい問題と化していた。首を傾げるしかなかった。
「儂はのう。実はつい昨日まで宮廷魔導師として活動しておった。だがのう。嗅ぎ回っておった儂を大臣だけに止まらず王までもが追放しよったのだ」
セリアには分からないことだらけだった。だけどなんだか同じ匂いがした。これはきっとなにかの運命だと感じた。セリアはなぜか涙を流し始めた。
「儂はこう思う、既に本物の王はこの王国にはおらんと。大臣もまた偽者にすり替わっておると。にわかには信じられないだろうが――」
「信じる! 私は信じるよ! なんかさ。分からないけどさ。師匠とは同じ匂いがしたんだ。だから!」
「ほほ。そうか。信じてくれるか。ならばこうはしておれんな。ここは二人でこの王国の事変を救おうではないか。のう? セリアや」
「うん! 私も救いたい! みんなの居場所を! だから――」
「こうはしておれんな! では早速――」
最後にギードが練習あるのみだと言うまでもなくセリアは思い描いていた。自分自身が練習している場面をいま以上に強くなってみんなを救っている場面を。
こうしてギードとセリアの会話は終わった。不思議と一体感と化したギードとセリアはより強くなるべく練習に向かった。今の暁の集いでは立ち向かうには無理があった。
まだ二人しかいない暁の集いでは王国に勝つのは無理がありすぎた。だけどギードとセリアは似たもの同士が故に城下町を中心にどんどん有名になろうとしていた。
たとえそれが狙われるほどに強くなったとしても。