第5話 昼下がりの事件
ギードとセリアはホワイトラビットから得た素材をギルドに売った。お金が手に入ったことでギードとセリアは昼食をとろうとしていた。
しかし向かった食事処で無銭飲食が発生しギードとセリアは追うことになった。当たり前だが食事処の店員の許可は得ていた。無断で追いかけてはいなかった。
あれからどれだけの時間が経っただろうか。いくら元気な老人でも運動神経抜群の若人にはついてはいけなかった。この感じからして犯人は若かった。
「はぁ。駄目だ。儂はもう歳だ」
ギードは先頭を走っていたが次第に息切れを起こし立ち止まった。両膝に両手を置き息を上げていた。両肩が上下していたところを見ると限界だった。
無詠唱魔法では間に合わないことはセリアでも分かった。ちなみにセリアもギードほどではないが息を荒げていた。こんなにも走ったのは初めてだった。
冷静に分析すると犯人は街道に入っていった。しかも人通りがとても多いことで有名だった。これでは見つけるのが困難に思えるが逆に考えて犯人は油断していた。
「はぁ。ふぅ。ううむ。奴は確かにここを右折しておった。だが――」
犯人の右折先を覗きながら歩いていると街道の人混みに席巻された。もう手遅れに見えるだろうがセリアはしっかりと犯人の恰好を覚えていた。
立ち往生するギードを通り越したセリアは一人で犯人を捜そうとした。すると堂々と真ん中を歩いている犯人らしき人物を見つけた。
ここからでは後ろ姿のみだがセリアは確信した。ここは追わずに静かに追跡するべきだとセリアは感じ取った。
「見つけた。静かに追おう。師匠」
この時のギードはセリアの発言を耳に入れると一気にたくましく感じた。この子の素性をどうしても調べたいと本気で思うようになった。
セリアは自分が異常であることにそこまでの危機感を抱いてはいなかった。だけどギード次第ではそう思う日がくるかも知れなかった。
もしセリアがこのままの調子で成長し続ければ間違いなくすぐにギードを必要としなくなるだろう。もうそれくらいの潜在能力を得ていた。
今はまだ自覚症状がない。だからセリアはなにも考えることなく平然と犯人を追跡し始めた。後を追うようにギードも動き始めた。
それにしてもだ。無銭飲食の犯人はどこに向かおうとしているのだろうか。幸いなことに追う時には入ろうとした手前だったが飲食後ならギードもセリアも駄目だろう。
無銭飲食の犯人が逃亡で有罪なら善意で追いかけた食事後の人達も同類だと感じていた。実に運命的な出会いだったが犯人とだと思い辛かった。
このまま追跡すれば間違いなく昼の食事は抜きになりそうだった。昼食が取れないはかなり惜しいが追跡を受け入れたからには責任がつきものだった。
やはり受け入れたからには責任追及は逃れられない。だからこそにセリアは慎重に追跡をした。どうやら犯人は一直線にどこかに向かっているようだった。
あれから追跡をして十何分は経過した。止まる気配がないと見せかけていきなり立ち止まり犯人は謎の建物に入っていった。
犯人が入っていった建物をセリアは調べた。すると驚いた。なんと犯人が入った建物は孤児院だったのだ。どうして? とセリアは自失した。
そこに遅れてギードがやってきた。ギードとセリアは横並びになり会話が出来る状態になった。しかしギードもまた驚いていた。
「ぬぅ? ここは確か第二孤児院だったはずだが――」
第二孤児院? セリアはギードの言葉を耳に入れるとそう思った。私達以外にも孤児院があるだなんて初耳だった。ならみんなは? どこにいったの?
「知らんのか。そうか。……セリアや。お主がいた孤児院は第一と名付けられておった」
第一孤児院? 私達が? セリアの気持ちは複雑だった。どうして私達の居場所を奪ったのか分からなかった。どうして? なんのために?
「……ごっほん! セリアや。どうやらお主の敵を儂は知っておるかも知れん。知りたいかのう?」
え? 敵? そこまでのことだったの? この閉鎖は――。とセリアは困惑だらけだった。でもそれでも知りたい気持ちの方が勝っていた。だから――。
「教えて! 師匠! 守りたいよ、みんなの居場所を」
実にさみしい雰囲気で言っていた。最初こそは知りたい一心だったが途中からはむなしさだけが残っていた。どうして人はこうも自己勝手なのだろうか。
「そうか。よし。教えようかのう。……セリアや。お主の敵は――」
余りの不自然なところにいたのか第二孤児院から人が出てきた。肝心なところで訊きそびれてしまった。だけどいずれセリアは耳にするだろう。
「なんですか! 貴方がたは!? 私達はここを立ち退きませんからね!」
ギードとセリアは勘違いを受けていた。確かに変な立ち位置ではあるがそこまで言われる所以はなかった。だからギードとセリアは誤解をなくそうとした。
「なにをおっしゃるか! 儂らはただの通りすがりですぞ!?」
ギードは嘘を付いた。一様をおいてセリアは喋る間隔を失っていた。なんとも言えないがギードもセリアも下手だった。これでは逆に怪しさ満点だ。
「どうしたんだよ? 姐さん」
またしても誰かが第二孤児院から出てきた。その恰好を見た途端にセリアは思い出した。無銭飲食の犯人を。さりげなく出てきたこの男の子が犯人だった。
「あー!?」
思わずセリアは男の子を指差した。名は知らないが間違いなく無銭飲食の犯人だった。しかもこれによってただの通りすがりではないことが分かってしまった。
「なに? なに? ウィルとは知り合いなの?」
男の子の名はウィルだった。名前を知ったところでなんの意味があるのだろうか。とは言えここまで来たら逃げられないだろうとギードもセリアも覚悟を決めた。
「知り合い? んにゃ? 知らないけど」
そらそうだ。あんたは逃げるのに必死だっただろうにとセリアの想いは込み上げた。なんともこの感じからして常習犯だろう。ならここは話があるとセリアは乗り出す。
「あんたでしょう!? 無銭飲食したの!」
ウィルはそれを聞いた途端にセリアに対して「うげ!?」と言った。なんだか無駄にすっきりしたセリアだった。こんなにもすっきりしたのは久方ぶりだった。
「なぁあにぃ? ウィル! またしたの!? もう駄目って言ったでしょ!」
やはりかとセリアは思った。ギードもまたやりおるなとセリアに対して関心を抱いた。しかしどうして無銭飲食をしようと思ったのだろうか。気になり始めていた。
「だって……俺達は所詮お払い箱じゃんか。だから――」
セリアには分かった、独りで生きていけるように無銭飲食の練習をしていたと。ってそれだと顔バレしたら最後なのでは? とセリアは心の中で思い込んだ。
「言ったでしょう!? ここは私が守るって! ウィルは余計なことしなくていいの! 分かった?」
う。分かったよとウィルは心を入れ替えた。ならもう後は余計なお世話なのでは? とセリアとギードが思い始めた。犯人が分かったことでもう解決したも同然だった。
「帰るかのう? セリアや?」
ギードの発言を真に受けたセリアは頷いた。だからギードとセリアはどこかに行こうとした。もうここに用はないと立ち去ろうとしたがウィルが話し掛けてきた。
「あ! 待てよ! あんたらは何者なんだよ!? 一体!?」
セリアはギードに説明を任せた。するとギードはこう言った。まるで自分達が超一流のギルドであるように。
「ほっほう。儂らか。儂らはしがないギルド暁の集いの一員だ」
暁の集い? とウィルは不思議そうに言った。この出会いがいずれ運命の歯車を回すことをセリア達は知らなかった。そうギードは言い残すとセリアと共に去っていった。