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第3話 装備を整えよう

 無事に暁の集いを発足し終えたギードとセリアは酒場兼ギルドを後にした。なぜならセリアの装備を整えないといけなかった。


 今のセリアでは武器もなく野晒しになっても可笑しくなかった。このままでは埒が明かないのでギードはセリアを連れ武具屋に来ていた。


 セリアにとってこれまた大きな建物だったがギルドや孤児院ほどではなかった。外観の割に中の人の気配はどこよりもなかった。


「ふむぅ。似合うではないか」


 セリアが着替え、試着室から出ると見違えるほどになっていた。まずお世辞にも清潔とはいえない服装から冒険者用のレザー生地仕様となった。


 実にたくましい恰好になったがセリアの内心は後からくる不安に乗っ取られそうだった。不安の方が大きくなっていったが首を左右に振り気合いで乗り切った。


「ほほう。奮発し甲斐があるのう。のう。店主や」


 ここにギードとセリア以外に店主がいた。店主は手をこまねきながらにこやかでいた。客人がくるのは久しいようだった。


「そうですねぇ。なによりも光る短剣が際立ちますねぇ」


 店主の発言にギードは顔をしかめた。なぜならギードが注目していたのはそこではなかった。しかもギードに対しての忖度にもなっていなかった。


「そこではないがの。まぁ……よいかのう」


 空回りをしている気の流れにギードは優しい口調というよりは生易しい感じで言っていた。しかも気が抜けておりなんともやる気がない感じだった。


 ギードと店主はこんな感じだがセリアはと言うと急に恥ずかしくなっていた。本当にこれからギルドの一員として働くんだと思うと気が焼きもちしていた。


 今回のセリアは両頬を赤くさせていた。下を見、どんよりしたような姿勢だった。そのような状態に一番に気付いたのがギードだった。


「恥ずかしいなどと思っておっては……この先はない。どうする? やめるなら今――」


 ギードが言い切ろうとした途端にセリアが大きく左右に首を振った。精一杯の抵抗といったような感じだった。セリアのそのような光景を見てギードは微笑んだ。


「そうじゃ。その意気じゃ。儂を失望させないでおくれ。のう? セリアや」


 ギードの生易しい口調にセリアは付いていくだけで精一杯だった。だからセリアは次に首を上下に振っていた。実に微笑ましい空気だとギードは感じていた。


「で? お客さん。お買いに?」


 ギードとセリアがなんとも言えない関係になっていると店主が横から入ってきた。確かにこのままでは冷やかしとされてもなんら不思議ではなかった。


「ほほう。どうするかのう? セリアや」


 それでも微笑みが止まらないギードは買うか買わないかをセリアに委ねた。急に決断を振られたセリアは意を決して言うことにした。


「買います! 買わせてください! お願い……します!」


 セリアは緊張しながらも試着室にある鏡を瞬く間に一回だけ見た。その後に元に戻し自己主張をした。


 そんなセリアをギードは誇らしいと感じた。なぜならギードはセリアを見るたびに昔の自分と照らし合わせていた。初々しさが実に微笑ましかった。


 ただ店主が言い過ぎなセリアに少し引いていた。もう少しだけでも対等に会話が出来ないのだろうかと店主は感じていた。


「……分かりました。では料金をこのようになります」


 それでも店主はと言うと不気味がる一様ではなくきちんと真摯に対応した。店主もギードもその場で支払いを終わらせようとした。


 そんな光景をセリアは見ると今にも泣けてきそうだった。なぜだろうと思えば思うほどに涙が溢れ出ていた。拭き取るのを忘れるほどだった。


 店主に対して払い終えたギードはセリアを見た。すると泣いていることに驚きを得た。この時にギードはそっと包み込むように微笑んだ。


「ほっほう。……のう? セリアや。人は……なぜ? 泣くのか。分かるかのう?」


 今度は優しく語り掛けるようにギードは言った。それはまるでセリアにとっては川の向こうにギードがいるようだった。もどかしかった。


 人はなぜ? 泣くのかなんてセリアに分かるはずがなかった。それが分かったら泣き止めたはずだった。でもそれでも涙が止まらなかった。


「ふむぅ。……人はのう。セリアや。不思議と流れる涙には訳があってのう。セリアは今……人の温もりを感じとったのだろうな」


 人の温もり? これが? とセリアはギードの言葉に合わせるようになぜか両手を見始めた。その手はもうセリアだけの物ではなかった。


「儂は想うぞ。セリアや。人の命は決して独りだけの物ではないと。よいか。セリアや。どんなことがあっても人前で泣けるようになりなさい。それが儂の教えだ」


 今のセリアには難しいのかも知れなかった。でもそれでもセリアは人の温もりを忘れずにいようと思った。なんだか胸の突っかかりが取れた気分だった。


 次第に自然と涙の痕が消えていった。なぜ泣いていたのかは分からない。でもそれでも忘れてはいけないと感じた。自分が人であったということだが理解出来なかった。


 まだまだあどけないセリアはこれからもギードと一緒に行動し、どんどん成長していくだろう。その時のセリアはきっとギードよりも優れていることだろう。


 たった一つの出会いだが運命の歯車は着実に回り始めているのだった。この出会いこそ本当の本当にセリアにとって大切にしなければいけない重大な出来事だった。

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