第2話 ギルドの発足
雨上がりに差し込むは光の筋。まるで光の筋が希望を報せにきたようだった。
そんな報せをセリアはなにも思わなかった。ただひとつだけ思ったことがあるとすれば、それは――。
みんなが守れるだけの力がほしかった。なんとしてでもみんなが住める居場所がほしかった。
たとえ子供だと言われてもセリアにとってみんなが家族だった。だけど今のセリアにはもう家族はいなかった。
いるとすればセリアの前を歩いている老人。名はギード。後ろ姿をじっくり見ると賢者っぽかった。
セリアが気付いた時にはギードは立ち止まっていた。たったひとつの大きな建物を前にして。
急に立ち止まったギードに当たることなくセリアは横にずれ並んでみせた。やはり孤児院よりも遥かに大きいと感じた。
「驚いたかのう? 儂も最初は驚いたもんじゃ」
ギードの言葉を最後まで聞いたセリアはいつの話をしているのかが分からなかった。
だけどギードの若かりし時だろうかと思うと次第になんだか親近感が湧いてきた。それでも歳は誤魔化せないが。
小さなセリアからすればここはまだ自分には早いのでは? と疑問に感じ始めた。
それもそうだろう。だってここは――。
「ほれ。なにをしておる? 早く入らんか」
両扉の片方を開きつつギードがセリアを見ながら言った。その次の瞬間にはセリアの表情は曇っていた。
なぜなら建物内部から異様なまでの酒の臭いがしたからだ。それだけではない。なんとも言えない大人臭がしていた。
この瞬間にセリアはやはり場違いなところにきてしまったと思い始めていた。挙句、鼻を摘まみ始めた。
そんなセリアの光景を見たギードは自分が初めてきた時のことを思い返した。不思議とギードの笑みがこぼれた。
「ほほ。そうじゃったな。セリアはまだ子供。いかん。無理は――」
この時のギードは無理は禁物と最後まで言おうとしたがセリアは急に大人びたように鼻を解放し歩き始めた。
どうやらここで負けたら人生が終わりだとセリアなりに思い込んだようだった。覚悟を決めた気持ちが伝わってきた。
幸いなことにギードは扉を開けっ放しだった。そこに吸い込まれるようにセリアは入っていった。
「うむむ。やりおるな。なかなかの。ほほ」
ギードは孫のようにセリアを見ていた。これも成長の一緒だろうとギードは思い込んだ。弟子が逞しいことに越したことはなかった。
セリアが初めて警戒し入ることを躊躇した建物は酒場兼ギルドの本部だった。周りからは複合施設と呼ばれている。
非常に子供にはきついが未成年でも入るくらいなら許されていた。こうしてセリアが先に入り後からギードが入ったのだった。
セリアは入った途端に驚きが隠せなかった。今まで孤児院から出たことがあっても露店しか巡ってこなかった。
いつも子供ながらに大きな建物には驚かされていた。まさに今、セリアは驚いていた。想像を絶するほどに広いと感じていた。
すると後からきたギードが今度はセリアの横に並んだ。それなのにセリアは気付かずにただ景観に驚きを得ていた。
「ふむぅ。驚いたかのう? セリアや。離れるでないぞ」
ギードがそう言うと先導し始めた。親子なら手を握りそうだったがギードとセリアは師匠と弟子なのでそれはなかった。
仕方がないのでセリアはギードの後をついていった。人混みはそんなにないと感じたがこの臭いは酒なためか夜が心配だった。
夜な夜なセリアは噂を耳にしたことがあった。それも本当だったんだと心の中で思い起こした。大人の憩いの場がここだと感付いたようだった。
セリアが聞いた噂はなんでも夜になると大人がこぞって集まり酒を浴びるように飲めるところがあるだった。
酒の臭いくらいならセリアは露店で嗅いだことがあった。その時よりも遥かに鼻が捻じ曲がりそうだったがなんとか耐えていた。
嫌々と言えるくらいの大人臭にセリアが耐えて歩いていると前のギードが急に立ち止まった。当たらないように横に並んだ。
カウンター越しと言うかセリアにとってはやや高く不便に感じた。だけどギードは気に掛ける様子もなく受付嬢に話し掛けようとした。
「すまんのう。儂と……この子でギルドを創りたいのだが」
この瞬間を以ってセリアはここがギルドを創るところなのかと思い込んだ。よくよく考えてみると途中からギルドってなに? 状態と化したが。
この時のセリアは本気で暁の集いがなにをする組織なのかが理解できていなかった。今になって思えばどうやってみんなを助けるのだろうか。
あの時のセリアは確かに力を欲していた。だけど本当にそのような力が暁の集いで手に入るのだろうか。不審な状態になってしまっていた。
「その子……とですか。ではまずは――」
受付嬢の言いたいことをセリアは理解した。これだけで気付いたのは凄いがセリアは何事もなくギルドに入れるのだろうか。
「十四才です!」
正直にセリアは言った。やはりセリアは気付いてしまったようだった、ギルドに入るには年が重要であるということに。
「そうですか。概ね問題はありません。では次は――」
受付嬢曰くギルドを創るには名前を付ける必要性があった。当然だけどここは暁の集いと名付けた。ギードが微笑んでいた。
なんだかんだでなんとかギルド暁の集いを登録できたギードとセリアはお互いに眼を合わせると微笑みあったのだった。
こうして遂にギードはギルド暁の集いを創設しセリアは一番弟子として暁の集いのギルドメンバーとなった。
果たしてセリアは無事にギルド暁の集いの一員として日々を送れるのだろうか。