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002.神の恩恵

 この世界の人間には〈神の恩恵〉と呼ばれる特殊能力が与えられる。

 内容は人それぞれ。顕現するタイミングもまちまちだが、早い子は生まれてすぐ、遅くとも十二までには賜るものらしい。

 基本的には一人にひとつだが、世の中には五つ持っているという者もいる。王様なんかはたしか五つだったはずだ。高貴な血筋が関係するのかもしれない。一介の村人には御伽噺と大差ない話であった。


 しかし、十二になれば御伽噺ほどではないにしろ、一般庶民が夢を見られる儀礼がこの国にはある。

 それが〈検査の日〉だ。


 良い〈恩恵〉を得た者は国が奨学金を与えて国立学校で勉強させ、将来官吏なり騎士なり、国に尽くす仕事に就くことができる。安定した高給が約束されるうえに、労働力を取られた家族にも年金が支給されるという好待遇だ。憧れる者は多い。

 そしてその資質があるか調べるために、十二歳になった子どもは全員検査を受けるのである。


 具体的には十二になったあとの最初の二至二分の日(春分・夏至・秋分・冬至)、各地の礼拝所にある聖石を使うと、〈神の恩恵〉の名称が浮かび上がるらしい。それを国から派遣されている官吏が立ち会い、優れたものかどうか確認する。


 ルカは春分が過ぎてから生まれたので、夏至の日に町の礼拝所まで検査に行かなければならない。ひなびた小さな村には聖石が設置されていないのだ。

 億劫ではあるものの、幸いにして同時に検査を受ける者はこの村にはいない。通例では大人が一人か二人引率するのだが、ルカは村の者が苦手だったのもあり、一人でのんびり歩いて行くつもりだった。だがいざ出立の日になってみると、村長が行商の馬車がちょうど来るように手を回してくれていた。

 山を下りて一応両親に出かける旨だけ伝え出てくると、村の門のところに行商の男が待っていた。


「兄ちゃん、行ってらっしゃい」


 家族の中で弟だけが見送りに来ていた。この弟はヴォルフのところに一度遊びに来て以来すっかり気に入ってしまい、家の畑の手伝いもそこそこに、山小屋に入り浸るようになった。自分とは似つかない、つややかな黒髪が陽光の下で優しい風になびく。


「行ってきます」


 ルカはこの村で唯一自分に懐いてくるリヒトが、近頃かわいくてしかたがないのだった。




「町までは丸一日かかるから、休憩までは荷台でのんびりしてりゃいい」


 行商の男はそう言うと自分は御者台に移りすぐに馬車をった。ルカは礼を言い素直に荷物の横に腰かけていた。

 この男は定期的に村に様々な物資を運んでくれ、村で作っている野菜や木工品などを買っていく。ルカも狩った獲物の皮や干し肉を売ったことがあるので顔見知りであった。壮年を迎えた頃合いで、もっと王都に近い町に家族がいるらしい。ルカの見た目に反応したことがない、二人目の人だった。


 正直幌馬車なのはありがたい。体質上、目も肌も日光に弱いようで、今日のような日差しの強い日は日陰がないと厳しいのだ。


(山や森ならいくらでも隠れていられるんだけどな)


 わざわざ検査の日など設けた国に、恨み言のひとつも言いたくなってしまう。この日を楽しみにする者は多いと聞くが、ルカはこのまま山で狩人として暮らしていきたいので、国にとって重要でないほうが都合がいい。それに自分がどんな〈恩恵〉を授かっているのか、大体予想がついていた。




 それは七歳の時だった。

 ルカは日常的に兎やキジを狩れるようになっていた。弓と並行して投擲や罠猟も覚え始め、狩りを楽しめるようになってきた反面、調子に乗る時期でもあった。

 それまで一人で山小屋から大きく離れることなどなかったのに、ヴォルフが村へ下りた隙になんとなく一人で小屋を離れてしまった。待っている時間がもったいなく、一人でももう大丈夫ではないか。ヴォルフが戻ってきたときに一人で狩った獲物を見せたら褒めてもらえるんじゃないか。なんで小屋を出たのかもう覚えていないが、大方そんなことを思ったんだろう。


 ヴォルフと一緒に仕掛けた罠を見回ったり、獣の気配を探ったりしながら、どんどん山深くへ分け入った。太陽の方角もわかるし、木に紐で印もつけている。歩き方はわかっているので迷うこともない。そしてヴォルフが自分を連れていってくれないところに、足を踏み入れたくなった。

 初めてのことに挑戦してもしばらくなにも起きないと、人は慣れるものだと七歳のルカは知らなかった。慣れとは油断であると、わかってもいなかった。


 背後で茂みが揺れる音がした。振り返ると、そこにルカの一・五倍ほども体高のある、大イノシシがこちらを見据えていた。

※ルカの身長120cm想定なので、イノシシ体高180cmですね。オッコトヌシ様よりは、小さい。たぶん。

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