026.ハンターズギルド
翌朝、王都へ出るために門へ行き、ジュールラックの右半身に話しかける。
「おはよう、ジュールラック。王都へ行きたいのだが」
すると真鍮のジュールラックの目がきょろりとこちらを向いた。
「おや、お兄さま! おはようございます! 本日はどのような干し肉を?」
「いや、すまない。肉は持っていないんだ」
「なんだよ。じゃあ用はねぇよ」
肉でこんなに態度が変わるのはいっそすがすがしい。でもなんと言われようと王都につなげてもらわなくてはならない。
「これを見ろ」ルカは背負った矢筒と弓を見せた。
「んん?」ジュールラックは細い目をさらに細めた。
「私は狩人だ。王都のハンターズギルドに登録に行くんだ。もし狩りがうまくいけば、ジュールラックへの土産もできるだろうなぁ」
「さすがはお兄さま! なんとお志の高い! ハンターズギルドですか、いいですねぇ!」
ジュールラックが器用に揉み手をしてピンク色に変わる。もしかしなくても、今後も肉をたかられそうだ。ルカは苦笑しながら開いた門を通った。
出たところは昨日入ってきた場所と違った。
(え……? どこだ、ここ)
ルカは戸惑って通りを見渡した。
「お兄さま、ハンターズギルドと仰っていたので、このジュールラックめが、その近くに出しましたよ」
褒めろと言わんばかりの声が背後でした。見ると真鍮色のジュールラックが笑っている。ジュールラックのいる門のなかには昨日とは違う建物があった。
「一本向こうの通りの、入口に巨木を構えた建物がそうです。屋根を覆うくらいのオークの木ですから、すぐにわかりますよ。昨日の場所から歩くと大変ですからね」
「……わかった。ありがとう」
「お役に立ったわたくしに、どうか肉のお恵みを」
「わかった、わかったよ」
ルカは肉の念を押されて歩き出した。
(「その近くに出しました」と言ったな)
先ほどの口調からして、目的地があればある程度近くに出せるのではないだろうか。ジュールラックがいる建物は昨日のところと今のところ、二ヶ所以外にもありそうだ。
(ただでは教えてくれないだろうな)
ジュールラックの言葉通り、通りを移動するとすぐ巨大なオークに寄り添うように建つ建物が見えた。三階建てだが屋根は完全に肉厚の葉を茂らせた太枝に覆われている。
建物に入るとそこはよく採光の取れた空間で、全体的に木目の美しい内装で統一されている。いかにも狩人然とした風体の男たちが左手奥の壁の前に集まっている。なにやら紙が何枚も貼り出されているようだ。手前にはかぎ型にカウンターが配置されており、横並びに座っている職員の前にひとつずつ椅子が置かれている。
正面の席に座っている女性職員と目が合うと、「こちらへどうぞ」と呼びかけられ彼女の前の椅子に座った。
「ようこそ、ハンターズギルドへ。登録ですか? ご依頼ですか?」
「登録をお願いします」
金髪を短く切り揃え、銀縁の眼鏡の奥に水色の目が涼やかだ。愛想笑いがまったくないのもいい。
ルカは必要な書類を書いてハンターズギルドの説明を受けた。
・ハンターズギルドは狩人のための団体である。
・狩人がハンティングした獲物の買い取りと、ハンティング依頼を受けギルドメンバーに斡旋するのが二大業務である。
・それに付随して買い取った獲物を解体して希望する商会などに卸すこともしている。
・依頼は左奥の掲示板に貼り出してあるので、受けるならカウンターで申請すること。
・依頼していない獲物は必ず買い取れるとは約束できない。
「とはいえ食肉になる獲物でしたらまず大丈夫です。魔獣をハンティングする際は臨時でもパーティーを組むことをお勧めします。魔獣は魔法を使うので、事前に情報を調べる必要があります。公開されている情報でしたらこちらのカウンターでもお教えできます」
「わかりました」
「ルカさんは一時登録ですね」
先ほど書いた書類を見ながら女性職員が確認した。
「はい」
「一時登録者は国への受注義務がない代わりに買い取り金額が正式登録者より下がります。正確に言うと査定金額を出し、まず三割をギルドが得ます。正式登録者は残りの七割が取り分になります。ギルドの得た三割から国に税金を納めていますが、一時登録者の場合はさらに一割税金がかかります。つまりルカさんの取り分は査定額の六割になります。それ以外の不都合はありません。正式登録にはいつでも変更できます」
「わかりました」
すごい早口だ。国への義務が面倒だったルカは迷わず一時登録にした。そのあと実績によってランクが上がるとかの説明を受けたがもうほとんど聞いてなかった。
「ではこちらが登録証です。(仮)となっているのは一時登録だからです」
ルカは差し出された金属のプレートを見た。
「何年経っても一時登録のままでも大丈夫ですか」
「問題ありません。ほかに質問は?」
「ありません」
「では登録はこれで終了です。今日は依頼を受けられますか?」
「いえ、とりあえず森に行ってみて狩れそうなものがいれば狩ってきます」
「わかりました。獲物が獲れたら右奥の買い取り台に持ち込んでいただければ、査定と換金ができます」
ルカは礼を言って席を立った。すごい早口で説明してくれたおかげでまだ三の鐘の前だ。さっさと行こう。ルカは一番近い南の門に駆けていき、さらに森まで突っ走った。