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018.道中の仲間

 指定された通り、二の鐘のころに役所前の馬車の乗りつけ場に来た。人はまばらだが、リヒトのほかに子どもが二人いる。こんな時間に役所前にいる子どもは明らかに馬車に乗る奨学生だろう。向こうも気にしているようでチラチラこちらを盗み見ている。一人は燃えるような赤毛の小柄な女の子、もう一人は金髪でのっぽの男の子だ。


「声をかけに行くかい?」

「本当に奨学生だってわかるまではいいよ」


 でもどちらも指輪をしているし、リヒトも気づいていると思う。あの女の子なんか、わざと指輪をアピールするようにさっきから何度も髪をかきあげているし。

 三者のあいだに微妙な空気が流れるなか、一台の黒い馬車が乗りつけ場に入ってきた。御者の男が降りてきて、名前を呼ぶ。


「リンドール町のスカーレット、ボンド村のアレクサンドル、ポルカ村のリヒト、ルカ」


 呼ばれて御者のもとへ行き、挨拶をして乗り込む。この町――リンドールから王都までは馬車で七日程度らしい。なにもなければいいのだが。



「え? お兄ちゃん同伴で来たの?」

 赤毛の女の子、スカーレットはリヒトに確認し、ルカに目を遣ると鼻で笑った。前髪を上げ露わにした形の良い額の下で、強気な茶色の目を輝かせている。腰まで伸ばした髪は天然の巻き毛で、それはさながら赤銅の滝のようにも思えた。


「えー、まだお兄ちゃんなしじゃいられないなんて! お子様ー!」


 高笑いをしているけれど、先ほどした自己紹介によるとスカーレットは十歳だ。〈恩恵〉が魔法系らしく、魔法・魔術系は発動した時点でわかるので、検査を十二まで待つ必要がない。聖石で確かに魔法系の〈恩恵〉であることを確認したら、飛び級で奨学生になる。


 それを聞いてルカはもやっとした。

 そうだ。〈恩恵〉には発動した時点でその内容がわかるものがある。ルカだって〈瞬間移動〉と間違えてはいたものの、わかっていたのだから。魔法・魔術系ならなおさらだ。

 ルカは思い出していた。リヒトはヴォルフに魔術について書かれた本が読みたいとしきりにせがんでいなかっただろうか。つい最近のことではない。もっと何年も前。実際ヴォルフも投げ売りされていた古本ではあるが、何冊か融通していた気がする。


(そして検査の日に判明した〈恩恵〉が〈魔術使い〉……)


 ルカは思わず隣に座るリヒトを見た。リヒトは年下の女の子の相手が面倒なようで目を閉じて静かにしていた。



「お兄さん、その髪って、生まれつきですか?」

「うん、そうだよ」


 斜め前からアレクサンドルが話しかけてきた。スカーレットよりは礼儀正しいが、いきなり髪の話を振ってくるあたり、やはりまだお子様かもしれない。ちなみに彼はリヒトと同じ十二歳だ。優し気な水色の目はちょっと垂れ気味で、心なしか気が弱そうにも見える。


「髪の色がなんだ」

 目をつむっていたリヒトが険のある声を出した。


「あ……ごめん」


 いけない。リヒトが誤解されてしまう。優しい子なのに。


「気にしないで。それより弟と仲良くしてくれると嬉しい」

「あ、はい」


 リヒトが眉間をくつろげたのでアレクサンドルはぽつりぽつりと村や家族のことを話し始めた。なんだか微笑ましい。自分には同年代の友達はいなかったけれど、普通はこんなふうにちょっと照れながら話したりするんだろうか。

 なんか急に静かになったなと思って見ると、スカーレットがむっつりした顔で初々しく話す男子二人を睨んでいる。どうやら最初にリヒトに対して攻撃的なことを口走ってしまったために、素直におしゃべりに参加できないみたいだ。しばらく少女を放置する想像もしてみたのだが、意固地になられると面倒くさいと思い話しかけることにした。


「スカーレットは魔法系の〈恩恵〉だと言っていたけれど、リヒトの〈魔術使い〉となにが違うんだい?」


 スカーレットははじかれたようにルカを見て、ぱあっと顔を輝かせた。


「あ、あら知らないの!? しっかたないわねー! 教えてあげてもいいわ!」

 スカーレットがしかたがないというていを取りながら話しだそうとすると、リヒトが取り上げた。


「簡単に言うと、魔法は天才が使うもの、魔術は多くの人が使えるようにしたものって感じかな」

「ほう」

「ちょ、ちょっと! わたしが話すところでしょ!」

 スカーレットが慌てて言い募るも、リヒトは無視して続けた。


「魔法っていうのは魔力を世界の法則にそのまま乗せて使用するんだ。だからその感性がわかる人が感覚で使ってるんだ。もっと言うと、『理由はわかんないけど、使える』ってこと」

「ふむ」

「魔術は、もともとそうやって天才たちが使ってきた魔法を、他の人でも再現できないかなって、観察して、解析して、体系化して、手続き化したものなんだ」

「うーん……じゃあ料理で言うと、魔法使いが料理の天才で、適当に作っても美味しいものを作れる人だとすると、魔術使いはその手順をきちんとレシピに起こせる人、という感じかな?」

「そう、そう! 材料も、分量も、手順も、火加減も、ぜんぶきっちりまとめて、次はその天才料理人じゃなくても、同じ料理が作れるようにする。それが魔法に対しての魔術ってことだよ」


 なるほど。感覚的ではあるが少しは理解できた気がする。


「ちょっと! ちょっとなんなの!? 話が終わっちゃったじゃない!」


「ちなみに魔獣が使うのはこれで言うとぜんぶ魔法ってことになるね」

「たしかに。あいつらが考えて魔術で魔法を再現しているとは思えないな」


 ルカは笑って言った。リヒトはわずかに目を細めて微笑んだ。ポルカ村に魔獣はいない。ではルカがどこで「あいつら」と呼ぶほど魔獣を知る機会があったのか。それに見当がついたからだった。

※二の鐘=朝の八時半ごろ

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