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001.ルカ

 ルカは五歳のときに狩りの師匠であるヴォルフに引き取られた。

 親や家族がみんな死んだというわけでもなく、山を下りれば村に両親と兄、弟が暮らしている。


 ルカはこの世界ではずいぶんとまれな見た目に生まれてしまった。白髪白皙、かすかな紫の虹彩は、どれひとつとして村にはない色だった。

 田舎の小さな村だ。物心つく前から当たり前のように差別を受けた。全員が全員、罪もない幼子に冷たかったわけではない。しかし村では村長に次ぐ立場に当たる、自警団の長がルカを忌んだ。そのため決して少なくない数の彼の下の者どもも、かかわりを避けるようになったのだ。


 春の花まつりで子どもに配られる菓子を一人だけもらえずに、村はずれの木の根元にぽつんと座っているのを見つけたのが、流れ者のヴォルフだった。


 ヴォルフは二十年ほど前にこの村にはぐれてきた魔獣を退治し、前村長の意向で狩人として居ついた。村近くの山で暮らしていたうえに元々寡黙なので、村人との接触は少なかったが、現村長に代替わりしてからは村の集会に呼ばれることさえなくなっていた。敵対はしていないが村人とも言い切れず、時々獲物の肉を売ってくれる者――それがヴォルフの立ち位置だった。

 その日山を下りたのは、たまたま獲れたオオジカを花まつりに持って行ってやろうと気が向いたからだった。ヴォルフはのちにそれを精霊のお導きだったのだろうと言った。山に暮らし山に生かされていたヴォルフは、自然の中の大いなる存在を信じていたのである。


 ヴォルフが両親にどうやって話をつけたのかルカは知らない。

 ただ花まつりのあと家を連れ出され、ヴォルフの山小屋で暮らすようになった。


 はじめは手に慣れればいいと、おもちゃに毛が生えた程度の弓を持たされた。弓はほとんどしなることもなく、弾性に優れた弦は眠たげに木の矢をぼよんとはじき出した。

 穴を掘りかけていた小さな兎を狙ったが、痛がられてめんどくさそうに逃げられる。

 それがルカのはじめのうちの弓だった。


 ヴォルフはとにかく山歩きに慣れさせようと、自分のあとをついてこさせた。ルカが枝を踏み、柴に当たり、逃した獲物は数知れなかった。大人の足についてくることもほとんどできず、ヴォルフが進もうと思っていた行程の四分の一も歩けなかった。それでもヴォルフは毎日の糧を得ていたし、その様子をルカに見せた。

 山では足をどのように運ぶのか。ヴォルフの目はどこを見たのか。どんな獣がどんな草を食み、どんな跡を残すのか。弓をどのように構えているのか。息をどのようにしているのか。どんな力をこめているのか。


 ルカは聡かった。

 真似できるものはすぐに真似をした。覚えれば済むことならすぐに覚えた。足りないとわかりながらどうにもできないのは、体力と筋力だった。


 力がないから強い弓が引けない。射程を大きく取れない。

 では近づけるようにすればいいのではないだろうか。

 毛皮に矢が刺さらないのなら、矢が刺さるところに当てればいいのではないか。


 ルカが初めて得たのは兎だった。留守番中に山小屋の周りで狩ったものだ。

 目と首に刺さった矢を見て、ヴォルフはうまくやったなと喜んだ。ヴォルフはこの時は偶然だと思っていたのだ。ルカが自分に足りないものを補うために編み出した知恵と努力の賜物だとは、まだ知る由もなかったのである。

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