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015.リヒトの〈恩恵〉

 盗賊捕縛と魔獣討伐の報が礼拝所にも届き、事情を知らなかった者たちは仰天していたものの、無事検査が再開された。

 リヒトが入っていったので出入り口付近で待っていると、兵士が出てきてルカに近づいてきた。


「リヒトくんのお兄さんですか?」

「はい」

「ちょっと来てください」


 促されるままに礼拝所に入ると、奥の聖石の前にリヒトが立っていた。正面の官吏はルカのときと同じ人だ。


「やあ、あのときの」

「こんにちは」


 向こうもルカを覚えてくれていたらしい。まあ、一度見たらまず忘れないだろう。ちなみに兵士たちは初めて見る人たちなので特に挨拶もない。



 弟の〈恩恵〉は〈魔術使い〉だった。


「え、すごい」


 官吏からにこにこ顔で伝えられ、思わず声が漏れてしまう。まさかうちの子が。賢い賢いと思ってはいたが〈恩恵〉にまで恵まれてしまうなんて。思わずリヒトを期待の眼差しで見てしまう。リヒトはちょっとむくれているようにも見える。どうしたんだろう。


「うん、奨学金決定だな」

「ですよね」


 魔法や魔術に関する〈恩恵〉は奨学生確定なのだ。

 そうか。リヒトは王都で学ぶことになるのか。家は兄が継ぐことになっていたが、リヒトが独り立ちするにしても成人までは一緒にいられると思っていた。まさかこんなに早く離れることになるなんて。リヒトの将来が約束される喜ばしいことなのに、やっぱりさみしい気持ちも拭えない。

 官吏や兵士たちにおめでとうと言われ、笑顔で礼を言う。

 奨学生に決まった者への説明をリヒトと一緒に受け、やたら分厚い奨学生徴集通知を手に礼拝所をあとにした。村から同行した引率の男や子どもたちも一様に驚いていた。田舎の小さな村から魔術使いが出る。それは一大ニュースにほかならないのだった。


 だいぶ時間が押してしまったので、町で頼まれていた買い物などを少しして、また一日がかりで村へ帰った。

 ルカたちは、戻り次第家族会議である。




<奨学生徴集通知>

名前 リヒト

年齢 十二

出身 ポルカ村

恩恵 魔術使い

奨学生ランク 一等

指定校 グラハデン魔術学校


上記の者、本通知発行日を含む十日以内に入学手続きを完了すること

詳細は別紙参照




 その別紙とやらには入学手続きは王都まで行かなくても、町の役所でもできること、奨学生ランク一等の者は入学金・授業料が全額免除のほか、労働力を期待していた家庭への補償として毎月一定額の給付金を受け取れることなどが書いてあった。


「手厚い!」

「手厚いな」

「でもこの村でそんなに現金があってもねぇ」

「あるに越したことないじゃないか。町まで買い物に行くことだってできるんだし」


 食卓に置かれた徴集通知を家族で囲むようにして読みながら、父も母も大喜びしている。


「この奨学生ランクってなにで決まるの?」

「〈魔術使い〉は問答無用でこのランクらしいよ。検査してくれた官吏のおじさんが言ってた。手厚い代わりに、将来国の機関に召し上げられることは決定事項だって」


 ルカは保護者としてちゃんと説明を受けてきたのである。リヒトなら自分でちゃんと聞いてきただろうが。


「まあ、国の命令じゃしかたないわねぇ」

「そうだな」


「休暇はないのか」とめずらしく兄が発言する。

 いつもルカが会話に入っているときはしゃべりたがらないのに。


「まとまったのだと冬に二月ふたつきくらいあるね」

「ええ!? 収穫祭には被る?」

「被らない。冬至の十日前から、灯芯祭の五日後までだから」

「ええー……」


 母はがっくりして食卓につっぷした。

 わかるよ。収穫祭と冬支度は一年で一番忙しいからね。


「あ! ねえ! この『奨学生ランク一等の者は、一名のみ同伴者を随行させることが可能』っていうのは?」


 それもルカはちゃんと説明を聞いてきている。


「従僕とか侍女がいる人向けだね」

「……それって貴族なんじゃないの?」

「だね。ちなみに貴族と平民が同じクラスになることはないって。というか勉強する棟も寮も全然違うらしいよ。貴族は建前上奨学生になっても寄付金とかいっぱい払うから、こういう措置がないと困るんだって」

「なんだそりゃ」

 ほんとなんだそりゃだが、お上の考えることをこちらで深く考えてもしかたがないのである。


 ここで、いままで家族のやりとりを黙って聞いていたリヒトが爆弾発言をした。


「ルカ兄さんを連れていきたい」

「え?」

※灯芯祭は日本の立春のころに当たる、春の訪れを神に祈るロウソク祭です。

※魔術学校の冬休みは日本の暦で12月15日~2月15日くらいとお考えください。夏休みはありません。

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