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009.リヒト 十二歳

 明日は春分――十二になった弟の検査の日だ。


 引率のなかに、約十日後に成人を迎えるルカが混じっている。弟と一緒に検査を受ける子が三人いて、世話が大変だから引率は二人ということになったのだ。

 ルカに白羽の矢が立ったのは、弟が「兄さんと一緒に町を歩きたい」と可愛いことを言ったせいもあるかもしれないが、おそらく二年前ルカを乗せてくれた行商が再度村を訪れた折、野営の手際を大袈裟に褒めたのが村の大人たちの記憶に残っていたからだろう。

 今回は村で用意した驢馬の荷車に子どもたちを乗せ、ルカともう一人の中年男の引率はその横を歩いていく。


 村の大人どもはルカとぎくしゃくしているが、生まれたばかりの頃に恐れられたような災厄を招いたことなどない。むしろ最近は強い弓が引けるようになってきて、一人で大物を仕留めてくることもあり、村に貢献している。だから一部の険悪な者を除いては、対等な関係を築きつつあった。

 ルカとしては差別を受けたわけだから心を許すことは今後もできないだろう。だがやはり小さな村のことだ。物々交換や共同作業で世話になることもある。

 納得はしていないが呑み込むしかない、というところだ。




 さて、検査を控えた弟リヒトであるが、実に聡明でまだ十二なのに大人顔負けの知識や知恵を持つ。

 ヴォルフのところに入り浸りなので狩りの腕を磨くのかと思いきや、本を読みに来ていたのだった。


 ヴォルフは意外と本持ちで、鳥屋に籠るときもよく一、二冊持ち込んでいる。

 村の人間の識字率は高いとは言えないが、ヴォルフは村に流れてくる前は各地を転々としていたようで、教養があり文化的な一面を持っていた。

 ルカもリヒトもヴォルフに読み書き計算を教えてもらった。

 ルカは狩りの弟子なので狩猟技術の傍らで学んだ程度だったが、リヒトは自然や数学に興味を持ち、ヴォルフの本は通い始めて一年経たずに読み尽くしてしまったほどだった。


 気に入りの本は『世界の鉱物とその特性』と『天体運行の数理』。

 ヴォルフは二年に一回ほどだが町に行き、手持ちの本を売り払って別の本を仕入れる。でもこの二冊が売られそうになると、リヒトは売らないでとヴォルフの腰にしがみついてせがんだ。たしかリヒトが十歳になる前の秋のことだ。よくそんな本が読めるものだとルカは感心していた。ちなみにヴォルフは鉱物の本はともかく天体の本は難しすぎて買うんじゃなかったと後悔していたのでとても売りたがっていたのだが、リヒトに根負けして、結局いまも山小屋に置いてある。


 そんな自慢の弟は、荷台から降りてさっきからルカたちの前を率先して歩いている。驢馬の負担を減らすためだろう。今日は初めて村を出ての遠出とあって、鳥や花を見つけてはルカに話しかけてくる。ルカはそんな弟を眩し気に見つめながらフードを被りなおした。



挿絵(By みてみん)

※2022.04.27 誤字を修正しました。

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