7 もしかしたら好きかもしれない
「お受け取り頂きありがとうございましたっっっ‼‼‼」
私は叫んだ。
そして……逃げた。
「おっ……おい!」
「逃げるの?!」
「なんで!」
私は教室から逃げ出した。
入り口で先生とぶつかりそうになりながら、全力で廊下をかけて行く。
「待ってくれ! 高坂!」
チョコを片手に宮本君が追って来る。
恥ずかしくってたまらなかった。
私が逃げているのは怖いからじゃない。
感情がいっぱいになって頭がパンクしそうなのだ。
とにかく走った。
がむしゃらに走った。
階段を駆け下りて校庭へ飛び出し、全力でグランドを駆け抜けた。
「高坂ぁあああああああ! 待ってくれえええええええ!」
全力で私を追って来る宮本君。
彼の足ならすぐに追いつけるだろうに。
なのに……なかなか追いつかない。
「ありがとうございましたああああああああああ!」
大声で叫びながら逃走を続ける私。
自分でも何をしたいのかよく分からない。
なんで宮本君が私を好きになったのか。
その時のことが全く思い出せないのだ。
確かに彼とは小中と同じ学校だった記憶がある。
でもそれだけだ。
特に記憶に残るような思いでなんてない。
彼が話していた思い出も、私はすっかり忘れてしまっていた。
そんなものなのだろう、人の記憶なんて。
カズキ君も私が覚えていた思い出をすっかり忘れていた。
彼にとっては特別な記憶でもなんでもなかったのだ。
物語の主人公が気まぐれでモブキャラを助けたようなノリだったのだろう。
でも、私にとっては違った。
あの記憶は私にとっての特別だったのだ。
だからずっと忘れなかった。
彼のことを好きになったまま、今日と言う日まで生きて来た。
宮本君にとって、私との想い出も、同じように大切な記憶だったのだろう。
だから……。
「ハァ……ハァ……」
走り疲れた私は立ち止まり、身体をかがめて肩で息をする。
ようやく自分が上履きのまま外へ出てしまっていたことに気づいた。
後で怒られるだろうなぁ……。
「高坂……待ってくれ! 頼む!」
宮本君が追い付いて来た。
もう逃げられない。
でも、不思議と怖くない。
逆になんか……嬉しかった。
「ありがとう、ここまでついて来てくれて」
「え? ああ……いいってことよ。
それで……返事を……」
「私も、もしかしたら好きかもしれない」
「え?」
「宮本君のことが、好きかもしれない」
私は素直な気持ちを告げた。
彼に告白されたからと言ってすぐに気持ちが変わったら、それは何か嫌だなと思う。
でも……もしかしたら……私の気持ちはゆっくりと変わるかもしれない。
だから……。
「だから……私とお友達になって下さい。
私があなたを本気で好きになるまで待ってください。
それまで一緒に沢山の想い出を作りましょう」
「え? じゃぁ……」
「付き合うのはまだ待って欲しい。
でも……さっきも言った通り、私は宮本君が好きかもしれません」
「うおおおおおおおおおおお!」
宮本君は大声を上げてガッツポーズする。
すると……。
「「「わああああああああああ!」」」
いつの間にかグラウンド側の窓に集まって来た生徒たちが大声を上げる。
ほんの数分間の出来事なのに、生徒たちの間で瞬く間に噂が広まって、私たちの様子を見守っていたようだ。
きっとスマホで情報が拡散したのだろう。
情報化社会って怖い。
「じゃ、戻ろっか」
「一緒に怒られようぜ」
「……うん」
私は宮本君と手をつないでグラウンドを歩く。
大勢の視線にさらされながらも恥ずかしさは感じず、むしろ幸せに包まれていた。
ああ……今の私、最高に青春してるなぁ!