5 今しかない
教室へ着くと、おミカ様の取り巻きたちが数人で目を光らせていた。
部外者が勝手に立ち入らないようにする措置らしい。
私はこのクラスの生徒なので普通に入れる。
彼女達は私に対して何か言いたそうにしていたが、宮本がじっと見つめると目をそらして何も言わない。
この瞬間、私の中で宮本が、宮本様にクラスアップした。
この人には足を向けて寝れないわー。
無事に中へ入れて一安心。
かと思いきや、まだ難所があった。
なんと、カズキ君の周りには数人の女子が集まっていて、バリアのようなものを形成していたのだ。
人で作る壁!
ヒューマンウォール!
その中にはおミカさまの姿もあった!
どうやら自分がチョコを渡して告白するまで、誰にも邪魔をさせないつもりらしい。
そこまでやるっ⁉
「よぉ、宮本ぉ」
「おお」
宮本様に手を振って挨拶するカズキ君。
それに応えるように宮本様が彼の元へと歩いて行く。
まるで王子様に仕える忠臣のよう。
ふと、あることに気づいた。
宮本様が彼に近づこうとしても、女子たちが止める気配はない。
つまりあの人の後ろに続けば……!
今しかないと思った。
おそらく、これから今日一日ずっと、おミカ様たちのガードは続くのだろう。
どのタイミングでも必ず邪魔が入る。
宮本様の手によって道が開かれたこの瞬間を逃したら、おそらくチャンスは二度とめぐって来ない。
だから……だから今、今この瞬間に勇気を振り絞れ!
自分のすべてをかけて突っ込んでいけ!
そう思ってから早かった。
私はカバンからチョコを取り出しながら、ごく自然と宮本様の後に追従して、女子たちの輪の中にいるカズキ君の元へと歩み寄ったのだ。
「ちょ……何してんの⁉」
おミカ様が声を上げるがもう遅い。
私はすでに彼の間合いに入っている。
「カズキ君、これ……受け取って下さい!」
「……え?」
突然、不意打ちのようにチョコを目の前に差し出されたカズキ君は目を丸くする。
「私、小学生の頃にいじめられててカズキ君が助けてくれたの。
その時からずっとあなたのことが好きでした!」
大声で宣言した。
教室が水を打ったように静まり返る。
みんなが一斉にこちらへと視線を向け、固唾を飲んでことの成り行きを見守っている。
おミカ様がぎらぎらとした視線を向けてきているが知ったことか。
私はお前の思い通りにはならない。
「…………」
カズキ君は沈黙して差し出されたチョコに目を向ける。
そして……。