3 大切なのはいま
それから部室へ行かず、一人で下校するようになった。
今まで大した活動もしていなかったし、他の部員と積極的に交流していたわけでもないので、あまり変わらないような気もするが……ちょっぴりさみしい。
群れからはぐれた気分だ。
あれから、山口は近づいてこない。
別に何かされたわけでもないのだけれど、彼の存在が部室から足を遠のかせる。
少しだけ申し訳ない気持ちもあるが……またあんな風に追いかけられたらと思うと……。
「はぁ……」
私は自分の部屋で机に向かい、PCを立ち上げてネットを見ている。
明日はバレンタインだ。
一応、材料とかは買ってあるんだよね。
でも……チョコを作る気になれない。
作り方を調べてレシピも見つけたのだけれど、どうしても実行に移せないのだ。
ミカとその取り巻きたちは徹底的にガードするつもりらしい。
下駄箱はもちろん、机の中にもチョコを入れさせないように手下に見張らせるみたい。
どんだけだよ。
その噂が女子の間に広まったせいで、みんな彼にチョコを渡しづらくなっている。
渡すときは義理として渡せとのメッセージがひそかに回されているとか。
私の所には来てないけど。
そんな状況だから、チョコを作る段階で躓いている。
いっそのこと最初から義理にしておミカさまのお墨付きをもらうか。
どうせ私がチョコを渡したところで、両想いになれるはずないし。
やめておこう。
どうせ失敗する。
……うん?
確かにチョコを渡して告白しても、失敗するかもしれない。
でも、本当にその失敗は無駄になるのだろうか?
こっぴどく振られたとしても結果は残る。
私が告白したという事実は……。
あの時、クラスメートからからかわれている私を、カズキ君は助けてくれた。
彼は失敗を恐れていただろうか?
よくよく考えてみれば小学生の男の子が女子を「ブス」と言ってからかうのはよくあることだ。正義ぶってそれを止めたら、他の男子たちからひんしゅくを買うかもしれない。ただのお遊びに何をムキになってるのって。
それでも彼は止めてくれた。
小学生とはいえ、リスクを冒してまで私を助けてくれたのだ。
その事実があったからこそ、私は彼を好きになった。
もし……もしこの告白が失敗したとしても……。
私が勇気を出して告白した事実を彼が覚えてくれていたら……もしかしたら何年もたった後に……。
なんて妄想を膨らませてから、不意に正気へ戻る。
何年もの先の話のことなんて考えてどうするんだ。
考えるとしたら現在だ。
未来はまだない。
過去はもうない。
私にあるのは現在というこの時だけ。
陰キャで、友達も少なくて、失敗ばかりの私だけど、現在を精一杯に生きて失敗しよう。
告白が失敗したとしてもそれでいいじゃないか。
カズキ君に思いを伝えれば、結果は残る。
大失敗したとしても何もやらないで後悔するよりはマシだ。
やらない後悔より、やって後悔。
私は腹を決めた。